第48話:年忘れの旋律と、重なる七つの声
十二月三十日。いよいよ大晦日を翌日に控え、街全体が年末の独特な熱気と静けさに包み込まれる頃——。
「よーし! 今日は年越し前最後の大仕事! おせち重箱詰めの最終確認と、明日の年越しそばの『海老天』の下処理を一気にするぞー!」
僕——浅比 誠が威勢よく台所で腕まくりをすると、リビングからワイワイと賑やかな足音が押し寄せてきた。
「はーいっ! 誠お兄ちゃん! 年越し準備ラストスパート隊、全員集合だよ〜!」
三女の彩咲灯華を筆頭に、彩咲家の姉妹たちが続々とキッチンへ集まってくる。
「……海老の背わた取りと、尾の先を斜めに切り落とす作業。水樹、準備完了しています」
四女の水樹がマイエプロン姿で竹串を手に取り、静かに気合を溜めている。
「ウチも海老ちゃん洗うの手伝うー! 大きい海老テンポコポコ揚げるんでしょ!?」
六女の彩咲絢金が袖を捲り上げ、五女の彩咲木乃香も眼鏡を光らせながらノートを開いた。
「海老の尾の水分をしっかり叩いておかないと、油に入れた瞬間に水蒸気爆発を起こして危険よ。科学的にも油跳ね防止の下処理は必須ね」
「とわも! えびさん、見守るのー!」
末っ子の土和が椅子の上にちょこんと座り、手足をパタパタと揺らしている。
「あらあら〜、みんな本当に頼もしいわね〜。誠くん、私も海老の筋切りのお手伝い、できるかしら〜?」
長女の陽葵さんが、胸元の開いた暖かそうなニット姿でふわりと微笑んだ。
その柔らかい空気感に包まれ、キッチンはまるで一足早く春が訪れたかのような温かさに満たされている。
「もちろんです、陽葵さん! 海老は腹側に浅く切れ目を入れて、背側からプチプチと筋を伸ばしておくと、揚げた時に丸まらずまっすぐ綺麗な天ぷらになるんですよ」
「へぇ〜! まっすぐな海老天! まるでプロのお蕎麦屋さんみたいね〜!」
陽葵さんが感心したように目を丸くする。
全員が自分の役割を持って、生き生きと作業を進めていく。
(一年前の今頃は……きっとみんな、暗い家の中で寒さに震えていたんだよな……)
エプロンの胸元をキュッと整えながら、僕はこみ上げる温かい感情に胸を熱くした。
◇
「……ちょっと、みんな楽しそうに何やってるのよ」
不意に台所の扉が開き、私服姿の月菜が入ってきた。
髪をサイドでひとつに結び、どこか落ち着いた可憐な雰囲気。だが、みんなが誠を囲んで楽しそうに作業しているのを見て、ほんのり頬を膨らませている。
「あ! 月菜お姉ちゃん! お買い物から帰ってきたの?」
灯華が声をかけると、月菜は手に持った小さな紙袋をサッと背中に隠した。
「え、ええ……。明日の年越しそば用のミツバと、ちょっとした買い出し……。……誠、これ」
月菜はそっと僕の元へ歩み寄ると、紙袋から温かい缶コーヒーを取り出し、僕の手のひらに押し当ててきた。
「っ……!? 月菜、これ……」
「寒そうでしょ、ずっと冷たい水触って下ごしらえしてたから……。買い出しのついでに、温かいの買ってきただけだから……勘違いしないでよねっ」
プイッと横を向く月菜。けれど、その耳たぶはリンゴのように真っ赤に染まっている。
昨日、夕暮れの台所で交わした『二人きりの初詣』の約束。その甘い記憶が脳裏をよぎり、僕の胸がトクトクと跳ね上がった。
「ありがとう、月菜。すごく温かいよ」
「……べ、別に。お世話係が風邪引いたら困るからよ……バカ誠」
小さく囁く月菜の言葉に、僕は手の中の缶コーヒーをギュッと握りしめた。
周りには妹たちがいるけれど、二人だけの特別な絆が、確かにそこには存在していた。
◇
「——ここで裏ワザ! 海老天をサクサクに揚げるには『衣に冷水とマヨネーズ』を使うんだよ!」
下ごしらえをしながら、僕が衣の準備を始めると、木乃香が即座に反応した。
「あ! マヨネーズに含まれる油分と卵黄が、衣の小麦粉のグルテン形成を抑えて、揚げる時に水分を一気に蒸発させるから、冷めてもサクサクの食感が保たれるのね!」
「大正解! 木乃香ちゃん、流石だね。水も冷水を使うことで、衣が重くならずに衣が衣の花を咲かせるように美しく揚がるんだ」
「へぇ〜! 誠お兄ちゃん、すごーい! マヨネーズ入れるなんてビックリ!」
絢金が目を輝かせ、水樹も静かに感嘆の息を漏らした。
「……サクサクの海老天。明日の年越しそばが、一層楽しみになりました」
「ふふ、期待しててね。みんなで最高の大晦日を迎えよう!」
作業がひと通り終わり、衣と海老の準備が整った頃、リビングから大音量で音楽が流れ始めた。
「あ! テレビで『スペオペ』の全曲メドレー特番やってるよ〜!」
灯華がリビングへ駆け出し、テレビのボリュームを上げる。
画面に映し出されていたのは、『銀河最果てのスペースオペラ』の劇中歌の中でも最大のヒット曲『星空のセプテット』だった。
1号機の奏芽から7号機のアメジストまで、全員がそれぞれの旋律を重ね合わせ、ひとつの壮大なハーモニーを奏でる最高の名曲だ。
「この曲、本当に名曲よね〜……。バラバラだった歌姫たちが、お互いを信じ合って声を合わせるシーン……何回観ても泣いちゃうわ〜」
陽葵さんがソファに深々と腰掛け、目を潤ませながら画面を見つめる。
「うん……最初はそれぞれ自分の使命や悩みで苦しんでいたけれど……最後はみんなで一緒に歌うことで、宇宙を救ったんだよね」
月菜がテレビの横に立ち、しみじみと呟いた。
「私たちも……同じね」
「え……?」
月菜の言葉に、妹たちが一斉に月菜を振り返る。
「最初は……料理も掃除もできなくて、ケンカばかりで……お互い不器用で傷つけ合ってばかりだった。でも……誠が来てくれて、私たちのバラバラだった旋律を……一つに繋ぎ止めてくれた」
月菜は素直な瞳で、一人ひとりの妹たちの顔を見つめた。
「陽葵お姉ちゃんの大らかさ、灯華と水樹の明るさ、木乃香の知恵、絢金の元気さ、土和の可愛さ……。全部がそろって、初めて彩咲家なんだって……今なら分かるわ」
「月菜お姉ちゃん……っ!」
灯華と絢金が感極まって月菜に飛びつき、ぎゅっと抱きついた。
「も〜〜っ! 月菜お姉ちゃん、年末だからってデレすぎ〜〜っ! めっちゃ感動しちゃうじゃんか〜っ!」
「ウチ、月菜お姉ちゃんのこと大好きーーっ!」
「ちょ、ちょっと二人とも! 苦しいってば……っ! 水樹まで混ざらないの!」
「……月菜お姉ちゃんの素直な言葉、最高です」
水樹も無表情ながら嬉しそうに月菜の腰に抱きつき、木乃香も笑顔でその輪を見つめている。
土和も「とわも、だっこー!」と楽しそうに飛び込んでいった。
陽葵さんがそんな妹たちを愛おしそうに眺め、僕の隣へ歩み寄ってきた。
「ふふ……誠くん。素敵な年末になりそうね〜」
「はい! 最高の年越しにしましょう、陽葵さん!」
テレビから流れる『星空のセプテット』の美しいハーモニーと、リビングに溢れる彩咲家の笑顔。
壊滅寸前だったあの屋敷は、今やかけがえのない『温かい我が家』として、光り輝いていた。
明日は、いよいよ大晦日。
年越しそばと、『スペオペ』全話一挙放送、そして月菜との初詣。
新しい年へ向かう僕たちの物語は、最高の最高潮へと向かっていくのだった。
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【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 48】
『年越しそばの主役!冷めてもサクサク&お店級の「海老天」を揚げる「冷水×マヨネーズ」ハック』
大晦日の年越しそばに欠かせない「海老の天ぷら」。家で揚げると衣がベチャッとしたり、海老が丸まってしまったりしませんか?
お店級のサクサクまっすぐな海老天を作る裏ワザをご紹介します!
① 海老の下処理:腹側に等間隔で浅く切れ目を入れ、背側から「プチッ」と音がするまで指で伸ばす!
★これで揚げても海老が丸まらず、ピンとまっすぐに仕上がります!
② 天ぷら衣の裏ワザ:水・小麦粉に「マヨネーズ(大さじ1程度)」と「冷水(氷水)」を混ぜる!
★マヨネーズの油分がグルテン(粘り気)の発生を抑え、水分をサッと飛ばすため、時間が経っても驚くほどサクサクに揚がります!
③ 尾の先を斜めに少し切り落とし、中の水分をしごき出す!
★油跳ねを完全に防ぐことができますよ!
これで大晦日の年越しそばが、料亭級の豪華な一杯になりますよ!




