第41話:聖夜の裏側と、甘い余韻のモーニング
聖夜の奇跡的な告白から一夜が明けた、十二月二十六日の朝――。
冬の凛とした冷気が窓ガラスを叩く彩咲家のキッチンで、僕――浅比 誠は、一人静かにエプロンの紐を結び直していた。
トントン、とまな板の上で規則正しいリズムを刻む包丁の音。
コンロの上の鍋からは、昆布と鰹節で丁寧に取った出汁の芳醇な香りが立ち上り、朝の冷え切った空気をじんわりと温めていく。
「ふぅ……。昨日の今日で、なんだかまだ夢の中にいるみたいだ……」
お玉で味噌汁の味を調えながら、僕は小さく息を吐いた。
昨夜、あの『海風の丘公園』で交わした月菜からの真っ直ぐな告白。
そして、億千の夜景が見守る中で重ね合わせた、甘く温かな唇の感触。
「……あ」
思い出そうとした瞬間、顔が一気に熱くなり、思わずお玉を落としそうになる。
「お世話係」と「屋敷の令嬢」という壁を越え、僕たちはついに「恋人」同士になったのだ。
(あんなに甘い顔を見せられた後に、今まで通り普通に接することができるわけがないだろ……!)
胸の奥がキュンと締め付けられるような、気恥ずかしくも幸せな焦燥感。
そんな僕の動揺を見透かしたかのように、廊下からパタパタと静かな足音が近づいてきた。
「……あ、おはよう……誠」
「わっ!? つ、月菜……!?」
振り返ると、そこには制服ではなくパステルピンクの暖かそうなパジャマに身を包んだ月菜が立っていた。
いつもならピンと張っているはずのツンとした雰囲気が影を潜め、どこか落ち着かない様子でパジャマの裾をギュッと握りしめている。
パステルブルーのマフラーを巻いていた昨夜の可憐な姿が脳裏をよぎり、僕の心臓が跳ね上がった。
「お、おはよう……月菜。早起きなんだね」
「ええ……なんだか、あんまり眠れなくて……。……その、昨日のこと、思い出したら……顔が熱くなっちゃって……っ」
月菜は語尾を小さくすぼめると、真っ赤になった顔を隠すように両手で頬を覆った。
その隙間から上目遣いで僕を見つめてくる瞳は、潤んでいて破壊力抜群だ。
「っ……そ、そうだったんだ。僕も……実は全然眠れなかったよ」
「本当……? ふふ、よかった……私だけじゃなかったのね」
安心したように胸を撫で下ろす月菜。
彼女はそっと僕の隣へと歩み寄ると、誰も見ていないのを確認してから、僕のエプロンの裾を指先でちょこんと引っ張った。
「……ねえ、誠」
「な、なぁに……?」
「その……昨日の夜、みんなの前でお姉ちゃんたちに祝福してもらったでしょ?」
「うん。陽葵さんたち、すごく温かく見守ってくれてたよね」
「……そうなんだけどね。私……やっぱり、学校とか外では、まだちょっと恥ずかしいというか……その……」
月菜はモジモジと足をすり合わせながら、小さく囁いた。
「二人きりの時以外は……今まで通りの『お世話係と令嬢』ってフリを……してもいいかしら? ……だって、あまりにも甘やかされたら、私、恥ずかしすぎて爆発しちゃうもの……っ!」
赤面しながら必死に主張する月菜のウブな可愛さに、僕は思わず噴き出してしまった。
「はは、分かったよ。じゃあ……二人の時はたっぷり甘えてもらうとして、みんなの前では今まで通り『誠』と『月菜様』……ううん、普通に友達っぽく接しようか」
「む……『月菜様』はイジッてるでしょ! もう……バカ誠」
ぷんと頬を膨らませる月菜。
けれど、その表情は心底嬉しそうで、僕たちは自然と見つめ合い、くすくすと笑い合った。
◇
「ふぁぁぁ……あ、おはよう~、誠くん、月菜……」
「おはようございます、誠お兄ちゃん、月菜お姉ちゃん!」
「ふあ……お腹すいたの……だっこー……」
七時を過ぎた頃、リビングに続々と姉妹たちが集まってきた。
長女の陽葵は相変わらずはだけた部屋着で欠伸を噛み殺しており、六女の絢金と七女の土和が元気に(土和は眠そうに)挨拶を交わす。
「はい、おはようみんな! 今日は寒いから、あったかい和食朝食だよ」
僕がテーブルに焼き鮭、だし巻き卵、そして具だくさんの豚汁を並べると、姉妹たちから歓声が上がった。
「わあ~! やっぱり誠くんのお出汁は世界一ね~!」
「美味しそう~! いただきまーす!」
賑やかな朝食が始まる中、三女の灯華と四女の水樹が、どこかニヤニヤとした笑みを浮かべながら僕と月菜の顔を交互に見つめてきた。
「ねぇねぇ~? 月菜お姉ちゃん、なんだか今朝はすごく素直でおしとやかじゃない~?」
「うん。昨日までは『誠、早くご飯作りなさいよ!』ってツンツンしてたのに、今は誠お兄ちゃんの横で、借りてきた猫みたいにおとなしい……」
「なっ……! つ、ツンツンなんてしてないわよ! 私はいつだって冷静沈着な彩咲家の次女ですっ!」
ガタッと立ち上がって反論する月菜だが、耳まで真っ赤になっているため説得力ゼロだ。
陽葵がそんな月菜の頭を優しく撫でながら、温かい眼差しで笑う。
「ふふ、いいじゃないの。昨日の夜、大花火の下で絆を深め合ったんだものね~?」
「お、お姉ちゃんまで……っ!!」
「まあまあ、月菜。灯華たちもイジりすぎないの。……そういえば、昨日の花火大会といえば」
陽葵はテレビのリモコンを手に取り、リビングの大型モニターの電源を入れた。
「昨日のクリスマス特番、録画しておいたのよ。例の大人気SFアニメ『銀河最果てのスペースオペラ』の特別番組!」
画面には、宇宙の彼方を疾走する巨大戦艦『スターライト号』と、色鮮やかな光を放つ7人の歌姫たちの姿が映し出された。
「あっ! 『スペオペ』だぁぁっ! 奏芽ちゃんたちだ~っ!」
土和が目を輝かせてテレビの前へと駆け寄る。
「すごかったわよね~、昨日の最終回。兵器として生まれた7人の歌姫アンドロイドたちが、熱血座長の昴さんたちと一緒に宇宙中を歌で笑顔にしていくなんて……」
「うん……特にあの1号機の奏芽ちゃんと、2号機のノワールちゃんのハモり……痺れたなぁ。7人みんなで力を合わせるシーン、マジで胸アツだった!」
灯華が熱く語れば、水樹も静かに頷く。
「……7人の歌姫、か。属性も旋律もバラバラなのに、最後はひとつの綺麗なハーモニーになる……。なんだか、どこかの7人姉妹みたいだね」
水樹の言葉に、姉妹たちが一瞬顔を見合わせる。
「えへへ、7人っていうのが私たちと同じだもんね! 奏芽ちゃんが長女で、ノワールちゃんが次女で……」
木乃香が楽しそうに 指差しすると、月菜がテレビ画面に映る2号機・漆黒の歌姫ノワールを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……ノワールお姉様。最初はクールで自分の感情を押し殺していたけれど……妹たちと仲間を守るために、居場所を見つけて笑えるようになったのよね……」
その呟きは、どこか自分自身の境遇を重ね合わせているようだった。
「……月菜?」
僕が声をかけると、月菜はハッと正気に戻り、慌てて咳払いをした。
「な、なんでもないわよ!……ただ、兵器として生まれた女の子たちが、温かい居場所を見つけて『心』を獲得していくストーリー……ちょっと感動的だと思っただけよ」
そう言って、月菜はテーブルの下で、そっと僕の足に自分の爪先を擦りつけてきた。
画面の中の歌姫たちが昴たちと絆を深めたように、月菜もまた、この家で僕と出会い、自分の心を取り戻したのだ。
「あ、そうだ! テレビで思い出しましたけど!」
灯華がポンと手を叩いた。
「実は私と水樹……昨日のクリスマスデート、後半からこっそり二人のこと尾行してたんですよね~!」
「「ええっ!?」」
僕と月菜の声が完璧にハモった。
「だって気になるじゃん! 誠お兄ちゃんと月菜お姉ちゃんが二人きりでどこ行くのか! まるで『スペオペ』の潜入ミッションばりに、変装して物陰からバッチリ監視してましたよ!」
「なっ……! と、灯華! あなたって子は……どこから見てたのよ!?」
月菜が顔を真っ青にして詰め寄る。
「え~? 水族館のイルカショーのあたりから~? あと、最後の丘の上に行く手前まで!」
「じゃ、じゃあ……最後の……あのシーンは……!?」
「あ、丘の上の本番《告白》の時は、陽葵お姉ちゃんから『これ以上は野暮よ』ってストップかかったから見てないよ~! 残念!」
「~~~~~っっっ!!!」
安堵と恥ずかしさのあまり、月菜は湯気を立ててその場に崩れ落ちた。
リビングに溢れる、姉妹たちの弾けたような笑い声。
「もう……! みんなして意地悪なんだから……!」
ぷいっと横を向く月菜だったが、その唇の端は柔らかく緩んでいた。
ドタバタで、賑やかで、けれど温かい日常。
聖夜を越えて、僕たちの新しい日々は、一層の愛おしさを増して動き始めたのだった。
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【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 41】
『冬の朝の寒さ対策!エアコンを入れる前にやるべき「1分間の空気循環」ハック』
冬の朝、エアコンをつけても部屋がなかなか温まらない…そんな経験はありませんか?
エアコンをつける「前」に、次の裏ワザを試してみてください!
① サーキュレーター(または扇風機)を「天井方向」に向かって30秒回す!:部屋の天井付近に溜まっている暖気を循環させます。
② カーテンを開けるのは「エアコンをつけてから」!:夜間に窓ガラスで冷やされたコールドドラフト現象(冷気の落ち込み)を防ぐため、部屋が暖まるまではカーテンを閉めておくのが正解です。
これで暖房の効きが格段に早くなり、電気代の節約にもなりますよ!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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