↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部④:聖夜の旋律と、届いた想い
PR
40/72

第36話:酔いしれる長女と、二人の秘密

聖夜の前夜祭(イブ・パーティー)の狂騒は、日付が十二月二十五日の午前零時を過ぎた頃になっても、なお静まる気配を見せていなかった。


大きなテーブルを埋め尽くしていた絢咲家特製の豪華ディナー――ザクザクの極上鳥唐揚(フライドチキン)や、色鮮やかな環状餡餅(リースタルト)、そして肉汁溢れる生姜洋葱醤肉(ローストビーフ)――は、妹たちの旺盛な食欲によって見事に完食され、今は甘い苺生クリームケーキ(ショートケーキ)の余韻がリビングに漂っている。


「ふう……お腹いっぱいー! 湊兄ちゃん、ごちそうさまでした!」

「美味しかったぁ……もう食べられないよぉ……」


サンタクロースの衣装を着た末っ子の土和と、五女の木乃香、六女の絢金の低学年組は、満腹感と夜更かしの限界が重なり、ソファの上で丸くなりながら今にも夢路(ゆめじ)へ落ちていきそうだった。


「はいはい、子供たちはそろそろお部屋に戻ってベッドに入りなさーい。サンタさんが来なくなっちゃうわよ?」


三女の灯華と四女の水樹が、眠気でトロトロになっている妹たちの手を引き、二階の子供部屋へと連れて上がる。


「ふぅ……ようやく静かになったわね」


片付けの手を止め、額の汗を拭いながら息を吐いたのは次女の月菜だった。

パステルピンクのエプロンを外し、ほっと胸を撫で下ろす。


「湊、仕込みから片付けまで本当にお疲れ様。本当に……お店屋さんみたいな最高のパーティーになったわ」


「ううん、月菜がテキパキ手伝ってくれたおかげだよ。ありがとね」


湊が黒のエプロンを軽く整えながら柔らかく微笑むと、月菜は照れくさそうに視線を泳がせ、胸元に手を当てた。


「……これで、あとは明日の本番を待つだけね。みんながテーマパークに出かけたら……ふたりきりだから」


「うん。約束のクリスマスデート、絶対に最高の日にしよう」


甘く静かな空気が、ふたりの間に流れる。

昼間の「共同作業」を経て、二人の距離はまた一歩、確実に縮まっていた。


だが――そんな甘美な雰囲気を一瞬で粉砕する、怪しげな「ポンッ!」という軽快な音がリビングに響き渡った。


「「――え?」」


湊と月菜が振り返ると、そこにはカウンターテーブルに腰掛け、空になったグラスを手に怪しく微笑む長女・陽葵の姿があった。


その足元には、すっかり空になった最高級シャンパンのボトルが二本、転がっている。


「ふふ……あはは♪ なんだか……世界がぐるぐる回って、とってもイイ気持ち……♡」


普段の淑やかで完璧な「長女」の姿はどこへやら。

陽葵の透き通るような白い肌は、耳の先から首筋まで極上の真紅に染まり、その美しい瞳はトロトロに潤んで焦点を結んでいない。膝の上で足をパタパタとさせ、今にも倒れそうなほど千鳥足で揺れていた。


「ひ……陽葵(ひまり)お姉ちゃん!?」


月菜が悲鳴のような声を上げて駆け寄る。


「ちょっと、何をそんなに飲んでるのよ!? これ、お父様が蔵にしまってたアルコール度数の高いヴィンテージ・シャンパンじゃないの!」


「あらぁ〜? 月菜ぁ〜? なんだかお顔がふたつに見えるわよぉ〜? ふふ、月菜が二人いたら、湊くんを取り合う手間が省けてちょうどいいかしらぁ……♡」


「ななな、何を言ってるのよこのお酒ヤクザ!! 湊、手伝って! 完全にお酒に呑まれて理性が吹き飛んでるわ!」


「は、はいっ!」


二人は慌てて、千鳥足で湊にしがみつこうとする陽葵の両脇を抱え込んだ。


「嫌ぁよ〜! まだ飲むのぉ〜! 湊くん特製の『エビとマッシュルームの橄欖油煮(アヒージョ)』と一緒に、お酒飲むのぉ〜!」


「駄目ですお姉ちゃん! もう全部食べたでしょ! ほら、お部屋に行って横になるの!」


普段は絶対権力者である長女だが、酔っ払うと手が付けられないほど甘えん坊になるという最悪の弱点が発覚した瞬間だった。


月菜は必死の形相で陽葵の背中を押し、湊と二人でなんとか階段を押し上げ、二階の長女の部屋へと誘導していく。


「あはは〜♪ 湊くんの匂いがする〜♡ 湊くん、抱っこ〜♡」


「お、落ち着いてください陽葵さんっ! 俺はお世話係で……うわあっ!?」


酔った陽葵の尋常じゃない力で抱きつかれそうになる湊を、月菜が「させないわよ!!」と鬼の形相で引き剥がす。


「湊は下に降りてて! 私がなんとか着替えさせて寝かせるから! これ以上お姉ちゃんに抱きつかれたら、私の理性が持たないわ!」


「あ、うん! 分かった、任せたよ月菜!」


湊は冷や汗を拭いながら、脱兎のごとく一階のリビングへと逃げ戻った。


二階からは「お姉ちゃん暴れないで!」「やだぁ〜、湊くんとお布団入るのぉ〜!」という壮絶な押し問答が聞こえていたが、三十分ほど経つと、ようやく静寂が戻ってきた。


---


「ふぅ……っ! ふぅ……っ! 死ぬかと思った……っ!」


一階へ降りてきた月菜は、髪を少し乱し、肩で息をしていた。


「お疲れ様、月菜……大丈夫だった?」


湊が温かいお茶を差し出すと、月菜はそれを一口で飲み干し、ソファへ深々と身体を沈めた。


「なんとかお水飲ませて、パジャマに着替えさせてベッドに押し込んだわ……。明日のお出かけ、あんな二日酔いで大丈夫なのかしらね、全く……」


「あはは……でも、月菜がお姉さんらしく手際よく対処してくれて助かったよ。やっぱり月菜は頼りになるね」


湊が隣に座り、優しく微笑みかけると、月菜は疲れが一気に吹き飛んだように嬉しそうに目を細めた。


「ふん、当然でしょ。私は絢咲家の次女なんだから。……それじゃあ、私もそろそろお部屋に戻って寝るわね。明日……寝坊しないでよ?」


「うん、おやすみ、月菜」


「おやすみ、湊」


月菜は名残惜しそうに何度か振り返りながら、自分の部屋がある二階へと上がっていった。


静まり返った深夜の一階リビング。

湊はグラスを片付け、キッチンのシンクを綺麗に拭き上げると、ホッと大きな溜息を吐いた。


「よし、これで片付けも完了だな。俺も部屋に戻って明日のデートの準備を……」


そう呟き、リビングの照明を落とした、その時だった。


フワリ……と。


暗闇の中で、甘く、熟した果実のような香汁の匂いが湊の鼻腔をくすぐった。


「――え?」


振り返る暇すらなかった。


背後から、柔らかく、けれど逃れようのない強烈な力で、温かな体温が湊の背中全体へと押し付けられたのだ。


「……つーかまーえた♡」


耳元で聞こえたのは、甘くトロけるような、熱を帯びた吐息。


「ひ……陽葵(ひまり)さん!?」


そこにいたのは、月菜によって寝かしつけられたはずの長女・陽葵だった。


薄手のシルクのパジャマ姿のまま、彼女は湊の腰にその細い腕を回し、後ろから隙間なく密着していた。パジャマ越しに伝わる豊満な胸の柔らかさと、酔った彼女の熱い体温が、湊の背中にダイレクトに伝わってくる。


「ひ、陽葵さん!? 寝てたんじゃ……っ!?」


「ふふ……月菜が部屋を出て行った隙に、抜け出して来ちゃった……♪ だって……湊くんが下で一人でいるんですもの……」


陽葵は湊の首筋に顔を埋め、すりすりと猫のように頬を擦り寄せてくる。トロトロに酔った彼女の唇が、湊の耳たぶに掠れそうなほど至近距離にある。


「ダ、ダメですよ! 月菜が見たら大変なことに……それに、明日はみんなでテーマパークに……」


「ダメ……じゃないわよ……?」


陽葵はクルリと湊の体を自分の方へと向かせ、背後の壁へと押し付けた。いわゆる「壁ドン」の体勢だ。


潤んだ瞳で湊を見上げる陽葵の顔は、息がかかるほどの距離にあった。普段の包容力あふれるお姉さんの顔ではなく、目の前にいるのは、圧倒的な色気を纏った一人の美しく艶やかな女性だった。


「ねえ……湊くん」


陽葵は細く白い指先で、湊の胸元を優しく撫で下ろしながら、小悪魔のように微笑んだ。


「月菜だけズルいわ……。月菜ばかり、湊くんと二人きりでデートして……私とも、もっと仲良くしてほしいのに……」


「あ……あの、陽葵さん……っ」


「私ね……ずっと我慢していたのよ? 長女だからって、お姉ちゃんだからって……妹たちに遠慮して……」


陽葵の顔が、じわり、と近づいてくる。

彼女のサクランボ色の唇が、湊の唇へと迫る。


「……今夜だけは、お姉ちゃんをやめてもいいかしら……?」


「っ……!」


湊の心臓が、破裂しそうなほど激しく鐘を打つ。

長女としての抑圧から解き放たれた陽葵の甘い誘惑。理性が吹き飛びそうなほどの熱量が、湊を飲み込もうとしていた。


だが――湊は必死に歯を食いしばり、陽葵の華奢な両肩を優しく、けれどしっかりと掴んで押し止めた。


「……陽葵さん」


「……なあに……? 湊くん……」


湊はまっすぐに、逃げずに陽葵の潤んだ瞳を見つめ返した。


「俺は……絢咲家のお世話係です。陽葵さんが困っている時、辛い時、いつでも支えるって決めました。でも……今夜の陽葵さんは、お酒に酔っています。そんな状態で……こんなことをしたら、明日、陽葵さんが絶対に後悔します」


「……後悔……なんて、しないわ……」


「俺が嫌なんです。陽葵さんに、お酒の勢いで傷ついてほしくないんです」


湊の誠実で、ブレない強い眼差し。

その言葉を聞いた瞬間、陽葵の瞳の奥で、トロトロと狂っていた甘い熱が、すうっと静まり返っていった。


陽葵はポカンと口を開け、それから――クスッと、心底楽しそうに、そして愛おしそうに微笑んだ。


「……ふふ。本当に……どこまでも誠実で、憎らしい男の子ね……湊お兄ちゃん(・・・・・・・)♡」


「え……? い、いま……お兄ちゃんって……?」


「ふふ……秘密よ♪」


陽葵はトントン、と湊の胸を優しく指先で叩くと、満足したように湊の肩に重みを預けてきた。


「……ん……なんだか急に……眠くなっちゃった……」


「あ、ちょっと、陽葵さん! ここで寝たら……うわああっ!?」


すっかり毒気が抜け、本気で眠りに落ちた陽葵の体を、湊は慌ててお姫様抱っこで抱え上げた。


「ふぅ……危なかった……命拾いした……」


湊は冷や汗を流しながら、二度目となる陽葵の部屋への階段を、今度こそ慎重に足音を殺しながら登っていくのだった。


ベッドに陽葵を優しく横たえ、毛布をかけてあげると、陽葵は幸せそうな寝息を立てながら、小さく呟いた。


「……ありがと……湊お兄ちゃん……♡」


その甘い寝言に、湊は苦笑いを浮かべながら、そっと部屋の扉を閉めた。


時計の針は、午前二時を回っていた。


波乱に満ちた聖夜のイブが終わり、ついに――月菜と二人きりで過ごす「本当のクリスマス」が、静かに幕を開けようとしていた。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #36】

『ついつい飲み過ぎた翌朝に!プロが教える「二日酔い撃退」の緊急処置』

お祝い事でお酒を飲み過ぎてしまった朝は、身体が猛烈な脱水症状とアルコール分解による低血糖に陥っています!

① 「トマトジュース+スポーツドリンク」を飲む!:トマトに含まれるリコピンとクエン酸がアルコールの代謝を爆速で促し、スポドリが失われた水分と塩分を効率よく補給してくれます。

② 「しじみのお味噌汁」で肝臓をサポート!:しじみに含まれる「オルニチン」が肝機能の働きを助け、胃腸をやさしく温めてくれますよ!

最後までお読みいただきありがとうございました!


「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

下にある評価(★★★★★)やブックマーク登録をしていただけると、執筆の大きな励みになります!


感想や一言コメントもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。