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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部④:聖夜の旋律と、届いた想い
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第37話:二人きりの朝と、特別な街への扉

昨夜の騒動(あらし)が嘘のように、静寂と澄み渡る冬空に包まれた十二月二十五日、クリスマスの朝。


昨夜の出来事――酔っ払った長女・陽葵からの甘く危険な誘惑(アプローチ)と、土壇場で彼女を抱きかかえて部屋へ連れ戻した激動の深夜劇――の記憶が脳裏をよぎり、湊は浅い眠りから目を覚ますと同時に、はぁっと長口の息を吐き出した。


(……生きた心地がしなかった……。陽葵さん、今朝起きたら覚えてるのかな……)


顔を洗い、黒のエプロンを身につけてキッチンへと向かうと、そこにはすでに旅行用の大きなボストンバッグを肩にかけた陽葵と、賑やかに騒ぐ妹たちの姿があった。


「あ、湊くん! おはよう!」


陽葵は爽やかな笑顔で振り返った。その表情には昨夜の乱れや酔いは微塵も残っておらず、いつもの上品で包容力あふれる「絢咲家の長女」そのものだった。


「陽葵さん……おはようございます。あの……体調は大丈夫ですか?」


湊が恐る恐る尋ねると、陽葵はトントンと自分の頭を軽く叩き、クスリと悪戯っぽく微笑んだ。


「ええ、湊くんが作ってくれたお味噌汁と、冷たいお水のおかげでスッキリよ。……昨夜は、なんだか変な夢を見た気がするけれど……ふふ、素敵な『お世話係さん』に助けられた気もするわね♪」


(ぜ、絶対に覚えてる……! 覚えててからかってるんだこの人……!)


湊が耳まで真っ赤にして硬直していると、サンタの帽子をかぶった末っ子の土和が駆け寄ってきて、湊の膝に抱きついた。


「みなと兄ちゃん! 土和ね、テーマパークでサンタさんのショー見に行ってくるの! お土産に大きいお菓子買ってくるね!」


「うん、土和。お姉ちゃんたちの言うことをよく聞いて、楽しんできてね」


「ふふ、それじゃあ湊くん。月菜のことを……よろしく頼むわね?」


陽葵は意味深なウインクを一度だけ送ると、妹たちを引き連れて「行ってきまーす!」と賑やかに屋敷を後にした。


ガチャリ、と重厚な玄関扉が閉まり、屋敷の中に完全な「静寂」が訪れる。


「……はぁぁぁぁぁ……っ!! 緊張で寿命が縮まるかと思ったわよ……っ!」


二階の階段から、大きな溜息とともに駆け下りてきたのは月菜だった。


彼女は胸に手を当て、肩を上下させながらソファへ倒れ込んだ。


「月菜? どうしたの?」


「どうしたの、じゃないわよ! お姉ちゃんたちが家を出て行くまで、部屋で心臓がドックンドックン鳴り響いて破裂しそうだったんだから……! 本当に……行っちゃったのね……みんな」


月菜はそっと体を起こし、誰もいなくなった静かなリビングを見回した。


いつもなら七姉妹の歓声と喧騒が絶えない広い屋敷。けれど今、この空間には……湊と月菜の二人しかいない。


「……うん。みんな出かけたよ。今夜遅くまで帰ってこないって」


湊が優しく告げると、月菜はゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと湊の方へと視線を向けた。


二人の視線がぶつかり合い、静まり返った部屋の中に、甘く切ない熱気がじわりと満ちていく。


「……じゃあ……約束通り、やり直しね」


月菜は立ち上がり、照れくささを隠すように顎を少し上げて胸を張った。


「準備してくるわ! 十分後に玄関集合よ! 遅れたらお仕置きなんだからね!」


そう叫んで二階へ駆け上がっていく月菜の背中を見送りながら、湊もまた、胸の奥で高鳴る鼓動を抑えきれずにいた。


---


午前十時半。


澄み切った青空から冬の優しい陽光が降り注ぐ中、二人がやってきたのは、都心から少し離れた海沿いの人気ベイエリアだった。


青く輝く海と、モダンな赤レンガの建物が立ち並ぶ美しい街並み。街全体が華やかなクリスマスの装飾で彩られ、巨大なクリスマスツリーが港の風に揺れている。


「わぁ……! すごい……海が見える……!」


駅の改札を抜けた瞬間、月菜は歓声を上げて歩道へと駆け寄った。


今日の月菜の装いは、前回以上に洗練されていた。

柔らかなアイボリーのタートルネックニットに、ワインレッドのフレアスカート。上から羽織ったダッフルコートのフードからは、先日二人で選んだあのパステルブルーのマフラーが顔を覗かせている。


艶やかな黒髪はハーフアップに結われ、可憐なリボンが揺れていた。


「綺麗なところだね。喜んでもらえてよかったよ」


「うん……っ! 私、海沿いのクリスマス街に来てみたかったの! 湊、ここを選んでくれたの?」


「うん。前回のデートは街中だったから、今度はもっと静かで、綺麗で……特別感がある場所がいいなと思ってさ」


湊が優しく微笑むと、月菜は胸がいっぱいになったように瞳を潤ませ、自分のバッグの帯をギュッと握りしめた。


「……ねえ、湊」


「ん?」


月菜はすっと手伸ばし、迷うことなく湊の左手をキュッと握りしめた。


前回のデートでは「はぐれたら困るから」と強がりながら握った手。けれど今の彼女は、誤魔化すような言葉を一切口にしなかった。ただまっすぐに湊を見つめ、指と指を深く交差させる『恋人繋ぎ』をしてくれたのだ。


「……今日は、ずっとこうしててね」


「……うん。絶対に離さないよ」


二人はしっかりと手を繋ぎ、冬の潮風が吹き抜ける港町へと踏み出した。


赤レンガのショッピングモールを巡り、クリスマス限定のガラス細工のオーナメントを眺めたり、海が見える小さなカフェで温かいホットチョコレートを飲んで温まったり。


「あはは! 湊、見て! あのオルゴール、サンタさんが踊ってるわよ!」

「本当だ、可愛いね。月菜、これ好きそう」

「えっ、わかる? 私、こういうミニチュア大好きなの!」


無邪気に笑い合い、お互いの顔を見合わせては微笑み合う。

お世話係と屋敷の令嬢という境界線は完全に消え去り、そこにはただ、お互いを愛おしく思い合う一人の男の子と女の子の姿があった。


---


昼過ぎ、海を一望できる公園のベンチで、二人は少し休憩することにした。


「ふぅ……たくさん歩いたね。月菜、お腹空いてない?」


「少し空いたかも。あ、どこかのお店に入る?」


「ふふ、実はね……持ってきたんだ」


湊は持参していた保温機能付きのピクニックバッグから、大切そうに包まれたお弁当箱を取り出した。


「えっ……お弁当!? 湊、朝の忙しい時間に作ってくれてたの!?」


「うん。せっかくのクリスマスだから、外の綺麗な景色を見ながら食べられるようにと思ってさ。開けてみて」


月菜が胸を高鳴らせながら重箱の蓋を開けると、思わず「わぁ……っ!」と可憐な悲鳴のような歓声を上げた。


中には、色鮮やかな『クリスマス限定・特製洋風ピクニック弁当』がぎっしりと詰め込まれていた。


一口サイズの『炙りローストチキンのピンチョス』

赤と緑のパプリカで飾られた『星型オムライスボール』

旨味が凝縮された『海老とブロッコリーのガーリックマヨ和え』

そして、スープジャーに入った熱々の『濃厚クラムチャウダー』


「すごい……! すごいよ湊! これ、外で食べられるなんて夢みたい……!」


「寒くないように、クラムチャウダーは熱々にしてあるからね。さあ、冷めないうちに食べよう」


湊から渡されたスプーンで、月菜はまずクラムチャウダーを一口含んだ。


アサリの濃厚な旨味と、濃厚なミルクのコク、そして煮込まれた野菜の甘みが口いっぱいに広がり、冷えた身体の隅々まで温かな熱が浸透していく。


「……美味しい……っ! 身体がポカポカしてくる……っ! ローストチキンも香ばしくて最高……!」


「よかった。外で食べるご飯って、なんだかワクワクするよね」


「うん……! 湊のご飯は、世界で一番美味しいわ」


月菜は心からの幸せに満ちた笑顔を浮かべ、何度も何度もお弁当に手を伸ばした。


海からの心地よい風と、冬の陽光。大好きな人と分け合う最高のご馳走。

そのすべてが、月菜にとって一生忘れられない宝物のような時間となっていた。


お弁当を食べ終えると、月菜は温かいほうじ茶のボトルを飲みながら、静かに海を見つめた。


「……ねえ、湊」


「ん?」


「私ね……湊が絢咲家に来てくれてから、毎日が本当に変わったの」


月菜の声が、どこか切なく、そして深く響く。


「お母様が亡くなってから、私、ずっと『お姉ちゃんとしてしっかりしなきゃ』って肩に力が入ってて……妹たちの前でも、学校でも、ずっと張り詰めてた。でも……湊が来てくれて、美味しいご飯を作ってくれて、私の悩みを聞いてくれて……」


月菜は膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。


「湊の前だとね……私、ただの『月菜』でいられるの。甘えたり、我慢しないで笑ったり……怒ったりできるの。……それが、どれだけ救われてたか」


「月菜……」


「今日のデートも……私、本当に幸せ。こんなに胸が苦しいくらい愛おしい気持ちになるなんて……知らなかった」


月菜は湊の方を振り向き、潤んだ瞳でまっすぐに湊を見つめた。


冬の陽光に照らされた彼女の横顔は、言葉を失うほどに美しく、可憐だった。


(……俺もだ、月菜。俺も……お前と出会えて、お前を支えることができて……心から幸せなんだ)


湊の胸の奥で、抑えきれない愛おしさが爆発しそうになっていた。


「月菜。今度は水族館いかない?……そのあとはは、あの海の見える丘の公園に行こう。あそこから見る夕焼け、すごく綺麗なんだって」


「……うん! 行こう、湊!」


二人は再びしっかりと手を繋ぎ立ち上がった。


日が少しずつ傾き始め、街が琥珀色の夕暮れへと染まり始める。

運命の告白へ向けて、二人の歩みは、一歩ずつ確実に進んでいくのだった。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #37】

『冬のピクニックやドライブに!お弁当が冷めない&傷まない保温テクニック』

冬のアウトドアでお弁当を楽しむ時は、次の2点で「温かさ」と「美味しさ」をキープできます!

① スープジャーは「事前にお湯で温める」!:スープを入れる前に、ジャーの中に沸騰したお湯を1〜2分入れて保温容器自体を温めておくと、お昼までアツアツが持続します。

② お弁当箱は「アルミホイル+タオル」で包む!:保温バッグに入れる際、お弁当箱をアルミホイルで包み、その上からフェイスタオルで巻くと、体温以上の温かさを長時間キープできますよ!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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