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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部④:聖夜の旋律と、届いた想い
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第35話:聖なる前夜と、キッチンのお世話係大作戦

十二月二十四日、クリスマスイブの早朝。


鳳凰学園が終業式を終えて冬休みへと突入したこの日、絢咲家の屋敷は朝から独特の高揚感とソワソワとした空気に包まれていた。


窓の外からは澄み渡るような冬の朝空が広がり、庭の樹木にうっすらと降り降りた朝霜が、朝日に照らされてキラキラと眩しく輝いている。


「よーし……今夜は年に一度の大一番だ。気合を入れていくぞ!」


午前七時。すでに黒のエプロンを固く結び直した湊は、キッチンの調理台の上にズラリと並べられた大量の食材を前に、腕を組みながら不敵な笑みを浮かべていた。


今夜は絢咲家全員が楽しみにしているクリスマスパーティー。

長女の陽葵から「子供たちが喜ぶ最高のディナーを」と託された湊は、数日前から献立の構成を練り上げ、昨日までに必要な極上食材の調達を完璧に済ませていたのだ。


そこへ、階段からパジャマ姿の月菜が眠たそうに目を擦りながら降りてきた。


「ふぁあ……湊、朝早くから何やって……って、うわっ!? なにこの食材の量……!?」


調理台の上に整然と並べられた食材の数々に、月菜は一気に目が覚めたように絶句した。


丸ごと仕入れられた国産の高級鶏もも肉、立派なローストビーフ用の牛ももかたまり肉、ツヤツヤと輝くフレッシュな赤と緑のパプリカ、大粒のエビ、そしてツリーのように山積みされた完熟イチゴ……。まるでホテルの厨房かのような光景が広がっていた。


「あ、月菜。おはよう! 今日は仕込みがたくさんあるから、早めに始めてたんだ。今夜は豪華フルコースで妹たちを驚かせようと思ってさ」


「豪、豪華フルコースって……! 湊、あんた一人でこれ全部作るつもりなの!?」


「もちろん! ……あ、でも、もしよかったら月菜にも手伝ってもらえると助かるかな。……二人で一緒に、パーティーの準備したいし」


湊が少し照れくさそうに首の後ろを掻きながら微笑むと、月菜の耳が瞬く間にポッと赤くなった。


「……バ、バカ。最初から手伝うつもりで早く起きてきたんじゃない。……お世話係のアシスタントくらい、私がやってあげるわよ」


そっぽを向いて強がる月菜だったが、急いで部屋へ戻ると、ピンクの可愛らしいエプロンを身につけて嬉々としてキッチンへと戻ってきた。


こうして、クリスマスパーティーに向けた「ふたりだけの特別調理作戦」が幕を開けた。


---


「よし、まずはメインの『ザクザクフライドチキン』の下処理から始めよう!」


湊が取り出したのは、溢れんばかりの旨味を蓄えた新鮮な鶏もも肉だ。


「フライドチキンって、おうちで作ると皮がベチャっとなったり、中まで火が通らなくて生焼けになったりしやすいでしょ? でも、プロの二段仕込みを使えば、お店を超えるザクザク感とジュワッと溢れる肉汁が両立できるんだ」


「へぇ……どうやるの?」


興味津々で覗き込む月菜に、湊は丁寧に解説しながら手を動かす。


まず、鶏肉を大きめの一口大にカットし、フォークで全体をブスブスと刺して味を染み込みやすくする。そこへ醤油、酒、すりおろしたニンニクと生姜、そして秘密の隠し味である「牛乳」と「マヨネーズ」を揉み込んでいく。


「牛乳の乳製品成分がお肉の繊維を劇的に柔らかくして、マヨネーズの油分がお肉の肉汁を閉じ込めるコーティングをしてくれるんだ。これで冷めても柔らかいジューシーなチキンになるよ」


「すごい……! 本当にお料理の知識が尽きないわね、湊は」


「ふふ、親父の受け売りだけどね。で、ここからが衣の最大の裏ワザ! 衣には小麦粉だけじゃなくて、『片栗粉』と『水で溶いたパン粉(またはオールブラン)』を絶妙な黄金比でブレンドするんだ。これを二度揚げすることで、一口噛んだ瞬間に『ザクッ!』って音が響く最高の食感になるんだよ」


「美味しそう……! 早く食べたいわ!」


続いて取り組んだのは、食卓を華やかに彩るオードブル群だ。


ひとつ目は、丸いパイ生地の上に色鮮やかな野菜とエビを敷き詰めた『彩り野菜とエビのクリスマスリース・タルトキッシュ』。


ふたつ目は、牛もも肉の表面を香ばしく焼き上げ、低温でじっくり火を通した『自家製ローストビーフ〜特製玉ねぎシャリアピンソース添え〜』。


みっつ目は、ポテトサラダを円錐形に盛り付け、ブロッコリーとミニトマト、ヤングコーンで飾り付けた『食べるクリスマスツリー・ポテトサラダ』。


「月菜、このツリーポテトサラダの飾り付け、お願いできる? ブロッコリーをツリーの葉っぱに見立てて挿していってほしいんだ」


「任せて! 私、そういう細かい作業得意なんだから!」


月菜はエプロンの腕をまくり、真剣な眼差しでポテトサラダの土台にブロッコリーを隙間なく挿し込んでいく。頂点には星型に型抜きしたパプリカを飾り、ミニトマトをオーナメントのように配置していく。


「できた……! 見て湊、すごく可愛くできたわ!」


「うわ、本当だ! すごく綺麗! 流石月菜、センス抜群だね」


「ふふん、でしょ! 湊に褒められると……なんか、悪くないわね」


作業の合間、ふと距離が近づく。

エプロン姿で並び立ち、同じ工程をこなしながら笑い合う空間。ふたりから漂う甘い香気と温かな熱が、冬のキッチンの空気をどこまでも優しく溶かしていった。


「……ねえ、湊」


「ん?」


「私……今日、すごく楽しい。二人でこうやってご飯作るの、なんだか本当の『夫婦』みたいで……」


そこまで言った瞬間、月菜は自分が口走った言葉の重さに気づき、顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。


「あ、今のは忘れて! 夫婦とかじゃなくて、その、共同作業って意味で……っ!」


「あはは、うん。でも、俺もすごく嬉しいよ。月菜が隣にいてくれて」


湊がまっすぐな瞳で優しく微笑むと、月菜は恥ずかしそうに下を向きながらも、愛おしそうに湊のエプロンの端をきゅっと掴んだのだった。


---


夕刻。仕込みがすべて完了し、部屋全体に香ばしいチキンの香りと香ばしいソースの匂いが充満した頃。


ドレスアップした姉妹たちが、続々とリビングへと集まってきた。


長女の陽葵はシックなワインレッドのワンピース、三女の灯華と四女の水樹は華やかなセーター、五女の木乃香と六女の絢金、そして末っ子の土和は可愛らしいサンタクロースの衣装に身を包んでいる。


「わぁぁぁぁぁーっ! すごい! すごいよ湊兄ちゃん! お店屋さんみたい!」


リビングの中央に置かれた大きなダイニングテーブルを見て、土和たちが飛び上がって歓声を上げた。


テーブルの上には、湊と月菜が朝から丹精込めて作り上げた豪華絢爛なクリスマス料理がズラリと並んでいた。


中央に鎮座するザクザクのフライドチキン。

赤と緑のグラデーションが美しいツリーポテトサラダ。

しっとりとした肉質が輝くローストビーフ。

サクサクのリース型キッシュ。

そして、魚介の旨味が凝縮されたエビとマッシュルームのアヒージョと、香ばしいガーリックフランスパン。


「あらあら……なんて素晴らしいのかしら。まるで高級ホテルのクリスマスディナーバイキングね」


陽葵が感嘆の溜息を漏らし、手を合わせて微笑む。


「ふふ〜ん、すごいでしょ! 私も朝から湊と一緒に仕込み手伝ったんだからね!」


胸を張る月菜の姿に、水樹と灯華がニヤニヤと意地悪な視線を送る。


「へぇ〜、二人で朝から『愛の共同作業』をしてたんだ〜?」

「月菜お姉ちゃん、エプロン姿可愛かったって湊くんに言ってもらえた〜?」


「なっ……あんたらねぇぇぇ! 雰囲気ぶち壊すんじゃないわよーーーっ!」


「ふふ、まあまあ。二人とも、本当にありがとうね。さあ、みんなでパーティーを始めましょう!」


陽葵の合図で、全員がグラス(子供たちはシャンメリー)を手にかかげた。


「「「「「「「メリー・クリスマスーーー!!」」」」」」」


カシャン、と賑やかなグラスの音が響き渡り、絢咲家の聖なる夜のパーティーが盛大にスタートした。


「チキンサクサクで超おいしい〜!」

「ローストビーフがお口の中でとろけるよぉ〜!」

「湊兄ちゃん、エビおかわりー!」


箸とフォークが縦横無尽に飛び交い、弾けた笑顔と歓声が部屋いっぱいに溢れ出す。


湊は溶けるような旨味のチキンを頬張る土和の口元を拭いてあげながら、ふと隣の月菜へと視線を向けた。


月菜も口いっぱいにローストビーフを頬張り、幸せそうに頬をほころばせている。そして、視線が合うと、グラスを持ち上げてそっと湊のグラスに自分のグラスを添えてきた。


「……ありがと、湊。最高のイブになったわ」


「ううん、月菜が手伝ってくれたおかげだよ。……明日も、楽しみだね」


「……ええ。明日は……二人きりね」


カシャン、と二人だけの小さな乾杯の音が、喧騒の中で甘く静かに響いた。


賑やかで、どこまでも温かいクリスマスイブの夜。

お世話係と七姉妹の絆は最高潮に深まり、そして物語はいよいよ、約束の「二十五日・二人きりのクリスマスデート」へと紡がれていくのだった。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #35】

『冷めてもザクッ!おうちでプロ級「極上フライドチキン」の黄金法則』

クリスマスに大活躍のフライドチキン!おうちで専門店の味を再現するプロのコツは次の3点です!

① 漬け込み汁に「牛乳&マヨネーズ」!:牛乳のタンパク質がお肉を柔らかくし、マヨネーズの油分が旨味と肉汁をコーティングして閉じ込めます。

② 衣は「片栗粉+水溶きパン粉」のダブル使い!:小麦粉だけでなく片栗粉を混ぜることで、噛んだ瞬間の「ザクッ」とした最高の食感が生まれます。

③ 仕上げは「二度揚げ」!:一度低温で揚げて余熱で火を通し、最後に高温で1分カリッと揚げることで、余分な油が抜けてカラッと仕上がります!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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