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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部④:聖夜の旋律と、届いた想い
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第34話:放課後の図書室と、ふたりのクリスマス作戦

十二月中旬。私立鳳凰学園の校庭にそびえる銀杏並木は、すっかりすべての葉を落とし、冬特有の澄み渡る寒空へとその枝を伸ばしていた。


放課後の予鈴が鳴り響くと同時に、生徒たちは寒さに背を丸めながら、それぞれの部活動や帰路へと急ぐ。


「……よし、これで今日の分の貸出返却データの処理は終わりかな」


茜色から紺色へと変わりゆく夕暮れの図書室。

図書委員の当番を務めていた湊は、受付カウンターのパソコン作業を終えると、軽く伸びをして息を吐いた。館内には静寂が満ちており、ストーブのやわらかな温もりと、古い紙の匂いが心地よく漂っている。


「お疲れ様、湊」


静まり返った閲覧席の奥から、静かな足取りで歩み寄ってきたのは月菜だった。


制服のブレザーの上に、少し長めの濃紺のカーディガンを羽織り、胸元には先日ふたりで買いに行ったパステルブルーのマフラーを愛おしそうに巻いている。


「月菜、待たせてごめんね。本、探せた?」


「ううん、全然。……それより、鳳凰学園の図書室って、夕方になるとすごく雰囲気が良くなるのね」


月菜は静かに窓外へと視線を向けた。鳳凰学園の広大な庭園には、クリスマスを控えたこの時期限定のライトアップが施され始めており、樹木に飾られたイルミネーションが、ガラス窓越しに幻想的な光の粒を落としている。


「ねえ、湊」


月菜はそっと受付カウンターに両肘をつき、上目遣いで湊の顔を見つめた。


「……来週の金曜日、何の日か覚えてる?」


「来週の金曜日……十二月二十四日。クリスマスイブだね」


「正解」


月菜はフッと口元をほころばせ、自分の鞄から一冊のスケジュール帳を取り出した。


「実はね、お姉ちゃんたちと相談したの。二十四日のイブの日は、絢咲家でみんなで大きなクリスマスパーティーをやろうって。湊も、もちろん準備から参加してくれるでしょ?」


「もちろん! チキンにケーキに、妹たちが喜ぶメニューをたくさん仕込まないとね。……でも、イブがパーティーってことは、二十五日の『クリスマス当日』は……?」


湊が問いかけると、月菜はキュッと唇を結び、少しだけ耳を赤く染めながら視線を彷徨わせた。


「……二十五日はね、お姉ちゃんが『土和たちを連れてテーマパークのクリスマスショーを見に行く』って言ってくれてるの。私と灯華たちも誘われたんだけど……私、お断りしちゃった」


「え? どうして?」


「バカ……言わせないでよ……っ」


月菜はぷっと頬を膨らませ、恥ずかしさを誤魔化すように湊の胸元をぽんと小拳で小突いた。


「二十五日の昼間……湊と、やり直したかったのよ。……あの日のデートの『続き』を」


「……っ」


ストーブの暖気とは違う熱が、湊の身体の奥底から込み上げてくる。


前回のデートでは、イルミネーションの下で甘く切ない雰囲気に包まれ、二人の距離が極限まで縮まったその瞬間に、土和の「お熱騒動」の電話によって中断されてしまった。


あの未完成のまま残された時間が、二人にとってどれほど愛おしく、どれほど待ち遠しいものだったか。月菜の瞳を見れば、言葉以上に雄弁に伝わってきた。


「……本当のクリスマスデート、だね」


「ええ。妹たちも、お姉ちゃんもいない……本当に、二人きりのクリスマス。……どこに連れて行ってくれるか、今から期待して待ってるんだからね?」


強がりなツンとした言葉。けれど、パステルブルーのマフラーに顔を埋める月菜の表情は、恋する女の子そのものの甘い輝きに満ちていた。


「わかった。最高のクリスマスにするよ。絶対、月菜をがっかりさせない」


「ふふ、約束よ?」


夕闇が迫る図書室。窓の外で輝くイルミネーションの光が、二人の影を優しく、そして寄り添うように重ね合わせていた。


---


「ただいまー!」


「おかえりなさい、二人とも!」


絢咲家の玄関を開けると、長女の陽葵が温かな笑顔で出迎えてくれた。


リビングへ入ると、三女の灯華と四女の水樹が、大きな段ボール箱を囲んで床に座り込んでいた。箱の中には、カラフルなモールや大きなリボン、キラキラと輝くオーナメントが詰まっている。


「あ、湊お兄ちゃん! 見て見て! クリスマスツリーの飾り付け、今から始めるの!」


「ふふ、今年は湊くんもいるから、今までで一番豪華なツリーにしたいわね」


陽葵がリビングの隅に立てかけられた、二メートルを超える立派なモミの木のツリーを指差した。


「すごい大きさですね! よし、俺も手伝います!」


湊はコートを脱ぎ、腕まくりをして飾り付けに参加した。


末っ子の土和を抱っこして高い位置に星のオーナメントを飾らせてあげたり、五女の木乃香や六女の絢金と一緒にライトのコードをツリーに巻き付けたりと、家族全員で作業を進めていく。


「湊くん、実はね」


ツリーの飾りにモールを付けながら、陽葵が湊の隣へそっと寄ってきて、妹たちに聞こえないような小声で話しかけてきた。


「二十五日のクリスマス当日のこと、月菜から聞いたかしら?」


「あ……はい。みんなでテーマパークへ行かれるんですよね? 月菜と二人で過ごさせてくれて……ありがとうございます」


湊が頭を下げると、陽葵は優しく首を振った。


「いいのよ。あの子、ずっと我慢してきたんだから。……それにね、今回のクリスマスパーティーは、月菜にとっても、妹たちにとっても特別なものにしたいの。……ねえ、湊くん。イブのパーティーで、みんなで食べられる『最高のクリスマスディナー』を、一緒に考えてくれないかしら?」


「もちろんです! 実はもう、いくつかメニューの構想を練っているんですよ」


湊が胸を張ると、陽葵は嬉しそうに目を細めた。


「頼もしいわね。あ、そうそう! クリスマスディナーといえば、やっぱりチキンだけど……子供たちが大好きなフライドチキンって、おうちで作ると衣がベチャっとなったり、中まで火が通らなかったりして難しいのよね」


「ふふ、大丈夫です! おうちのフライパンでも、専門店みたいに『ザクザク食感でジューシーな最高級フライドチキン』を揚げる裏ワザがあるんですよ!」


「あら! それはぜひ教えてほしいわ!」


ツリーのライトがピカピカと点灯し、絢咲家のリビングが一瞬にしてクリスマスムード一色へと染まる。


家族みんなで過ごす賑やかなイブのパーティー、そして、月菜と二人きりで迎える決戦のクリスマス当日――。


期待と高鳴る胸を抱えながら、湊はキッチンへ立ち、イブの仕込みと今夜の夜食の準備へと取りかかるのだった。


---


「さて、今夜は飾り付けでみんな疲れただろうし、手軽にできて身体がポカポカ温まる『濃厚クリーミー・カキとほうれん草の冬グラタン』を作ろう!」


冬に旬を迎える「カキ(牡蠣)」は、ぷりっとした食感と濃厚な海の旨味が魅力だが、下処理を怠ると生臭みが残ってしまう。プロの技で完璧に臭みを抜き、ミルキーなホワイトソースと合わせることで、最高の冬のご馳走が完成するのだ。


まずはカキ(20個程度)の下処理から。


「カキの臭みを完璧に消す最大のコツは、『片栗粉と塩で優しく揉み洗いすること』なんだ」


ボウルにカキを入れ、片栗粉(大さじ2)と塩(小さじ1)を振る。水を使わずに手で優しく揉み込むと、黒ずんだ汚れや表面のヌメリ、臭みの元となる雑菌が片栗粉に絡みついて浮き出てくる。


これを冷水でサッと洗い流し、キッチンペーパーでしっかりと水分を拭き取る。このひと手間で、カキの旨味だけが凝縮された極上の状態になるのだ。


続いて、フライパンにバター(20g)を熱し、薄切りにした玉ねぎ(1個)とマッシュルームを炒める。玉ねぎがしんなりしたら、下処理したカキを投入。白ワイン(大さじ2)を振りかけ、蓋をしてサッと蒸し焼きにする。


カキがぷっくりと膨らんだら、一旦取り出しておく。(※煮込みすぎると縮んで硬くなるのを防ぐためだ)。


同じフライパンの旨味が残った汁の中に、小麦粉(大さじ4)を振り入れ、弱火でダマにならないようにじっくりと炒める。


「ここへ、温めた牛乳(600ml)を少しずつ加えながら伸ばしていく……」


とろみがつき、なめらかなホワイトソースができあがったら、塩コショウとコンソメで味を調え、茹でておいた「ほうれん草」と「マカロニ」、そして先ほど取り出しておいたプリプリのカキを戻し入れる。


耐熱皿にたっぷり注ぎ分け、上にシュレッドチーズとパン粉をどっさりと載せる。


オーブントースターで約十分。表面のチーズがグツグツと泡立ち、こんがりと香ばしい狐色の焼き目がついたら――『カキとほうれん草の濃厚冬グラタン』の完成だ!


---


「みんなー、グラタン焼けたよー!」


「「「「「「きゃぁぁぁぁー! グラタンー!!」」」」」」


食卓に運ばれた大きな耐熱皿からは、香ばしいチーズの香りと、ホワイトソースの濃厚な湯気が立ち上っている。


「いただきまーす!」


月菜はスプーンで、チーズがトロリと伸びる熱々のグラタンを掬い、ふーふーと息を吹きかけて口へと運んだ。


「……んん〜〜っ!!」


一口食べた瞬間、月菜の頬がとろけそうなほど緩んだ。


カリッとしたパン粉と香ばしいチーズのコク、そして噛んだ瞬間にジュワッと弾けるカキの濃厚なミルキーエキス。ほうれん草のほろ苦さと甘いホワイトソースが完璧に調和し、口の中で極上のハーモニーを奏でている。


「美味しい……っ! カキがすっごくプリプリで、全然臭みがないわ! ホワイトソースもトロトロで最高……っ!」


「本当だ〜! カキの出汁がソースに染み込んでて、すごく贅沢な味だねぇ」

「湊兄ちゃん、熱いけどおいしー!」


灯華も水樹も土和も、ハフハフと吐息を白くさせながら夢中でスプーンを動かしている。


湊はみんなの笑顔を見つめながら、向かいに座る月菜とそっと視線を合わせた。


月菜は満足そうに微笑み、テーブルの下でそっと足を湊の足へと近づけ、ちょんと軽めの合図を送ってきた。


(イブのパーティーも、そして二十五日のデートも……絶対に最高のものにしてみせる!)


賑やかな食卓の温もりに包まれながら、湊の心は、目前に迫るクリスマスへ向けて力強く高鳴っていた。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #34】

『生臭さゼロ!カキの旨味を極限まで引き出す「片栗粉洗い」の裏ワザ』

冬が旬のカブやカキを料理する際、カキの生臭みが気になる時は水洗いの前に「片栗粉+塩で揉み洗う」のがプロの常識です!

① カキに片栗粉(大さじ2)と塩(小さじ1)を振り、水を使わずに指先で優しく揉み込みます。

② 片栗粉が黒く汚れを吸着したら、冷水でサッと洗い流してペーパーで拭き取ります。

汚れとヒダの間の雑菌が綺麗に落ち、プリプリの食感と濃厚な旨味だけが残りますよ!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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