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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部③:甘酸っぱい距離と、動き出す恋心
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第28話:秋風の図書室と、ひそやかな約束

昨日までの大雨と雨漏りの騒動が嘘のように去り、秋の澄み切った空からは柔らかな陽光が注いでいた。


天海建設による完璧な屋根補修と防犯施工のおかげで、絢咲家は文字通り強固な「要塞」へと生まれ変わった。物置部屋の天井は何事もなかったかのように美しく塞がり、不快な水滴の音に怯える必要もなくなったのだ。


「ふぅ……これでひと安心だな」


放課後の夕刻、リビングで乾いた洗濯物を丁寧に畳み終えた湊は、小さく息を吐いた。


姉妹たちの服をそれぞれのカゴへと手際よく仕分けていく。三女の灯華や四女の水樹、末っ子の土和たちは一階の和室でカードゲームに興じており、五女の木乃香と六女の絢金は近所の友達の家へ遊びに出かけていた。


そして、次女の月菜は――放課後、学校の図書室に寄ってから帰ると言っていた。


(月菜、もうすぐ期末テストだもんな。家だと妹たちが賑やかだから、図書室で集中して勉強してるのかな)


時計の針は午後五時を回ろうとしていた。そろそろ夕飯の買い出しと仕込みを始めたいところだが、ふと湊の脳裏に、昨夜の月菜の表情が浮かんだ。


雨漏りの最中、冷たい水に濡れながらアルバムを守ろうとしていた手。

そして、部屋でハンドクリームを塗ってあげた時に、真っ赤な顔で「どこにも行かないでね」と呟いた彼女の甘い声。


(……ちょっと、学校まで迎えに行ってみるか)


湊はエプロンを外して丁寧に畳むと、和室で遊んでいる妹たちに声をかけた。


「みんな、ちょっと月菜を迎えに学校まで行ってくるよ。すぐ帰るから、お留守番よろしくね」


「はーい! 湊、月菜姉ちゃんのことよろしくね〜!」


灯華がニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら手を振る。湊は苦笑いを返しながら、秋風の吹く街へと歩み出でた。


---


夕暮れ時の私立鳳凰学園は、部活動に励む運動部員の掛け声と、遠くから聞こえる吹奏楽部の楽器の音に包まれていた。


茜色に染まる校舎の階段を上り、湊は二階の奥にある図書室へと向かう。


ガラリと静かに木製の引き戸を開けると、紙とインクの独特な懐かしい香りが鼻腔をくくすぐった。放課後の図書室には人の姿はまばらで、奥の閲覧席にポツンと一人、長い黒髪を揺らして机に向かう少女の姿があった。


月菜だった。


彼女は参考書とノートを広げ、シャープペンシルを耳に挟みながら、難解な数学のテキストと格闘していた。長くて綺麗な眉をギュッと寄せ、うんうんと唸りながら問題を解いている。


その一命懸命な横顔があまりにも愛おしく、湊は音を立てないようにゆっくりと近づいた。


(すごく集中してるな……)


湊が斜め前の席にそっと腰を下ろすと、気配を感じ取った月菜がハッと顔を上げた。


「――っ!?」


目を見開いた月菜は、一瞬で顔を熟したトマトのように真っ赤に染めた。手にしたシャープペンシルを落としそうになりながら、声を出さないように必死で口元を抑える。


「み、湊……っ!? な、なんでここに……っ!?」


蚊の泣くようなひそひそ声で、月菜が詰め寄ってきた。


「あはは、あまりにも遅いから、様子を見に迎えに来たんだよ。家だと妹たちが賑やかで、勉強に集中できないかと思って」


湊も音を殺して小声で答える。


「だ、だからってわざわざ迎えに来ることないじゃないバカ! 私子どもじゃないんだから……っ!」


そう毒づきつつも、月菜の目は明らかに嬉しそうに泳いでいた。彼女はチラチラと周りの視線を気にしながら、広げていたノートを少しだけ湊の方へと寄せる。


「……で、でも、ちょうどよかったわ。この問題、どうしても解き方が分からなくて……」


月菜が指し示したのは、高校二年の数学で習う複雑なベクトルの応用問題だった。


「どれどれ……あ、ここは公式をそのまま当てはめるんじゃなくて、一旦グラフを描いて位置関係を整理すると分かりやすいよ」


湊は自前のシャープペンシルを取り出すと、ルーズリーフの端にさらさらと図を描いて説明を始めた。


二人の距離が、自然と近づく。

肩と肩が触れ合いそうなほど至近距離になり、月菜の髪からほのかに漂う甘いシャンプーの香りが、湊の胸を優しくくすぐった。


「ここに補助線を引いて……ほら、これで三角比の公式が使えるだろ?」


「あ……本当だ。すごい、一瞬で解けちゃった……」


月菜は感心したように瞳を輝かせ、湊の横顔を見つめた。


「湊って……家事だけじゃなくて、勉強も教えるの上手なのね」


「まあね。親父に『勉強も家事も、基礎の組み立て方は一緒だ』って叩き込まれたからさ。解き方の手順を整理すれば、料理の段取りと同じでスッキリ解けるんだ」


「ふふ、何でもお父さん譲りなのね」


月菜がクスッと柔らかく微笑んだ。


静まり返った図書室。窓から差し込む夕日の赤い光が、二人の影を閲覧机の上に長々と伸ばしている。


ふと、会話が途切れ、心地よい静寂が二人を包み込んだ。


言葉を交わさなくても、お互いの存在が愛おしくてたまらない。月菜は自分の膝の上でぎゅっと握りしめていた右手を、ゆっくりと、ためらいがちに机の上へと滑らせた。


そして――湊の左手へと、そっと自分の指先を重ねてきた。


「……月菜?」


湊が驚いて振り返ると、月菜は顔を真っ赤にしたまま、下唇をギュッと噛み締めていた。


「……静かにしなさいよ、バカ」


小声で呟きながら、月菜は湊の指の間に自分の指を滑らせ、しっかりと『恋人繋ぎ』の形を作った。


温かく、柔らかい彼女の手のひら。

指先から伝わる激しい鼓動は、それが月菜自身の緊張と胸の高鳴りであることを物語っていた。


「……昨日の夜、クリーム塗ってくれたでしょ」


月菜は視線をノートに向けたまま、ひそひそ声で言葉を紡ぐ。


「あの時……すごく温かくて、嬉しかったの。……だから、その……お返し」


「月菜……」


湊は胸の奥がぎゅっと締め付けられるような愛おしさに襲われた。

繋がれた手を優しく握り返すと、月菜は嬉しそうに、けれど恥ずかしそうに肩をすくませた。


「……ねえ、湊」


「ん?」


「私……今回の期末テストで学年20位以内に入ったら、一つだけお願いを聞いてほしいの」


「お願い?」


「うん。……今は言わない。テストが終わって、結果が出たら教える」


強がりな瞳の中に、確かな熱を宿して見つめてくる月菜。

どんなお願いなのか想像もつかないが、彼女がこれほどまでに本気で何かに挑もうとしている姿は、眩しいほどに美しかった。


「わかった。約束ね。月菜なら絶対達成できるよ。俺も全力で勉強サポートするから」


「ふん、当たり前よ。誰に向かって言ってるのよ」


いつものツンとした強がりを見せつつも、握りしめられた手は最後まで解かれることはなかった。


夕暮れの図書室で交わされた、二人だけのひそやかな約束。


赤く染まる校舎を出る頃には、二人の影はぴったりと寄り添い、秋の心地よい風が二人を祝福するように吹き抜けていくのだった。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #28】

『集中力&暗記力アップ!勉強効率を劇的に高める「25分集中法」』


テスト勉強や作業に集中したい時は、「25分間の勉強+5分間の休憩」を1セットとする『ポモドーロ・テクニック』が非常に効果的です!人間の集中力は長く続かないため、あえて25分で一区切りをつけることで脳の疲労を防ぎ、短時間で驚くほどの暗記効率を発揮できます。勉強中の小休憩には、温かいお茶やナッツ類を少し摂ると脳のエネルギー補給になりますよ!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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