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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部③:甘酸っぱい距離と、動き出す恋心
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第24話:夕食争奪戦と、隠し味の和風ナポリタン

街灯の下で重なり合った二人の影は、夜風が少し冷たさを増すまで、ゆっくりと寄り添い合っていた。


「……そろそろ、帰らないと……みんな心配するわ」


湊の胸元から顔を離した月菜は、耳の先端まで真っ赤に染め上げながら、細い指先で目元をキュッと拭った。照れくささからか、彼女は視線を泳がせながら、湊が抱えていた買い物袋の片方を再びぎゅっと掴み直す。


「ほら、バカ湊! さっさと歩く! 夕飯の準備が遅れたら、みんながお腹空かせるでしょ!」


「あはは、そうだね。行こうか」


言葉こそ相変わらずのツンツンとした口調に戻っていたが、袋を持つ二人の手と手が触れ合う距離感には、先ほどまでの気まずい壁は一切存在しなかった。むしろ、触れ合う手指から互いの体温が心地よく伝わり、湊の胸を温かい満足感で満たしていく。


二人は並んで足早に歩を進め、明かりの灯る絢咲家へと帰宅した。


「ただいまー」

「……ただいま」


玄関のドアを開けると、一斉に賑やかな足音が廊下から押し寄せてきた。


「おかえりなさーい! 湊、月菜姉ちゃん! 遅かったね〜!」

「湊兄ちゃん! お腹すいたー! ごはんなのー!」


三女の灯華と四女の水樹、そして末っ子の土和がパタパタと出迎えてくれる。土和は勢いよく湊の足元に抱きつき、水樹は買い出し袋の中身を興味津々に覗き込んできた。


「あ、イチゴジャムパン入ってる! 月菜ねぇねの好きなやつだー!」

「なっ……! ちょ、ちょっと水樹、勝手に覗かないでよ! それは湊が勝手に買っただけで……っ!」


水樹の素直な指摘に、月菜は顔を真っ赤にして地団駄を踏む。そんな妹たちのやり取りを、長女の陽葵がリビングの奥から優しい笑みを浮かべながら見守っていた。


「おかえりなさい、二人とも。お買い物、ありがとうね。……ふふ、なんだか二人とも、出かける前よりずっと良い顔をしているわね」


長女らしい鋭い観察眼と温かな眼差しに向けられ、湊は思わず照れくさそうに頭を掻いた。月菜は「べ、別に普通よっ!」と叫んで、逃げるように自分の部屋へ荷物を置きに二階へ駆け上がっていく。


「さて……じゃあ、急いで夕飯の準備を始めようか」


湊はエプロンをキュッと結び直し、腕まくりをしてキッチンへと向かった。


---


まな板の上に食材を並べながら、湊はふと今朝からの献立を頭の中で振り返った。


(……待てよ。昨日の夜は煮込みハンバーグで、その前もハンバーグを作ったよな……。いくらみんなが好きだからって、さすがにハンバーグ続きすぎだな。ハンバーグ師匠じゃないんだから……)


一人で心の中でツッコミを入れながら、湊は苦笑いを浮かべた。

姉妹たちのリクエストに応えるあまり、ここ最近は肉料理やハンバーグ系のメニューが頻出していたのだ。育ち盛りの妹たちはお肉が大好きだが、そろそろ変化球を投げて、みんなをアッと言わせる料理を作りたいところだった。


「よし、今夜はパスタにしよう。……それも、ただのパスタじゃなくて、みんなが大好きな『懐かしの喫茶店風・濃厚和風ナポリタン』だ!」


今夜の献立が決まり、湊の手が素早く動き出す。


大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かし、塩を投入する。

まな板の上では、厚切りベーコンを少し太めの1cm幅にカットし、玉ねぎは存在感が残るように薄切りに、ピーマンとマッシュルームも手際よく切り揃えていった。


「湊くん、何か手伝えることはある?」


陽葵がトコトコとキッチンに入ってきて、湊の隣に並んだ。


「あ、陽葵さん。じゃあ、ピーマンとマッシュルームをサッと洗ってもらえますか?」


「ええ、任せて」


陽葵は袖を捲り、手際よく野菜を洗ってくれる。その距離の近さに、湊はほんの少し緊張しつつも、手元を止めずに調理を続けた。


ナポリタンの最大のポイントは、パスタの茹で加減とソースの炒め方だ。

親父からのスパルタ教育で叩き込まれたノウハウが、湊の脳裏に蘇る。


(ナポリタンの麺はアルデンテじゃダメだ。あえて表示時間より長く茹でるか、茹で上がった後に少量のオイルを絡めて少し置くことで、あのモチモチとした独特の食感が生まれる……!)


沸騰したお湯にスパゲティ(太めの1.8mm)を投げ入れ、タイマーをセットする。


続いてフライパンにオリーブオイルと潰したニンニクを熱し、香りが立ったら厚切りベーコンを投入。ジューシーな脂がジワジワと染み出してカリッとするまで炒めたら、玉ねぎとマッシュルームを加えてさらに炒め合わせる。


「うわぁ、すごく良い香り……! ベーコンの香ばしさに、ニンニクのコクが混ざって……お腹が鳴っちゃいそう」


陽葵が頬に手を当て、うっとりとフライパンを見つめる。


「ふふ、ここからが本番ですよ。具材に火が通ったら、パスタを入れる前にケチャップを入れて『焼き』を入れるんです」


「ケチャップを焼くの……?」


「はい! ケチャップの酸味を飛ばして甘みと旨味を凝縮させるために、具材を端に寄せて、フライパンの空いたスペースでケチャップをフツフツと煮詰めるんです。これがプロの隠し味その一です!」


フライパンの端でケチャップ(たっぷり大さじ8ほど)がフツフツと泡立ち、香ばしい濃厚な香りがキッチンいっぱいに広がり始める。さらにここで、湊は秘密の調味料を取り出した。


「そして……隠し味その二! 少量のアサリ出汁(またはウスターソースと醤油少々)と、仕上げのバターです!」


和風の旨み要素である醤油と出汁をほんの隠し味程度に垂らすことで、単なる甘いケチャップ味ではなく、奥行きのある深い味わいへと進化するのだ。


茹で上がったモチモチのパスタを一気にフライパンへ投入!

強火で一気に具材とソースを炒め合わせると、ジューという快い音とともに、鮮やかなナポリタンカラーが麺一筋一筋に絡みついていく。最後にピーマンを加え、鮮やかな緑色を残しつつ余熱でサッと火を通し、バターをひとかけ落として全体を煽る。


「完成! 『湊特製・濃厚モチモチ和風ナポリタン』だ!」


---


「ご飯できたよー!」


湊の声がダイニングに響くと、二階やリビングから妹たちが一斉に雪崩れ込んできた。


「うわあぁぁぁ! 今日の夕飯、パスタだー!」

「ハンバーグじゃない! パスタなのだー!」


水樹と土和が目を輝かせてテーブルにつく。五女の木乃香と六女の絢金も「ナポリタンだ! 美味しそう!」と歓声を上げ、三女の灯華も「湊、お店屋さんみたい……」と感嘆の声を漏らした。


二階から降りてきた月菜は、自分の席につきつつも、チラチラと湊の顔を盗み見ている。

湊と目が合うと、一瞬だけビクッと肩を揺らしたが、今度は目をそらさずに、小さく口元を緩めて頷いて見せた。


「それじゃあ、みんな揃ったね。いただきます!」


「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」


一斉にフォークが動き出す。


ナポリタンを一口食べた水樹が、目を丸くして叫んだ。


「おいしーい! 麺がモチモチしてる! ケチャップの味がすごく濃厚なのに、なんだか旨みがすごいの!」


「ほんとだ……! 甘くて香ばしくて、ベーコンがジューシー……! 湊お兄ちゃん、これ無限に食べられるよ!」


灯華もフォークの手を止めず、パクパクと口へ運んでいく。

木乃香も「このシャキシャキしたピーマンと、甘い玉ねぎが最高に合ってる……」と絶賛し、土和は口の周りをケチャップで真っ赤にしながら「おいしいの! おいしいのー!」と大はしゃぎだ。


陽葵が優しく拭いてあげながら、自身も美味そうにパスタを味わう。


「本当に美味しいわ、湊くん。隠し味の出汁とバターがすごく効いていて、懐かしいのにとってもリッチな味がするわ」


「みんなに喜んでもらえて良かったよ。あ、おかわりもたくさんあるからね!」


みんなが大口でパスタを頬張る中、月菜も静かにフォークでパスタをくるくると巻き取り、口へと運んだ。


モチッとした麺の食感と、香ばしく甘みのあるソース、そして隠し味の深い旨みが口いっぱいに広がる。


「……っ」


あまりの美味しさに、月菜の瞳がキラリと輝いた。

彼女は美味しさを噛み締めるように目を閉じ、ゴクンと飲み込むと、パッと湊の方を向いた。


「……バカ湊」


「ん? 口に合わなかった?」


「合うに決まってるでしょバカ! ……すごく、美味しいわよ。最近ずっとお肉料理が続いてたから、こういうパスタが食べたいなって思ってたの……っ。……ありがと」


素直な感謝の言葉を口にした月菜。

その言葉を聞いた絢金が、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて割り込んでくる。


「え〜? 月菜姉ちゃん、今『ありがとう』って言った〜? 最近の月菜姉ちゃん、湊兄ちゃんにデレデレすぎじゃない〜?」


「なっ……! デレデレなんてしてないわよ! 料理が美味しかったからお礼を言っただけでしょ!」


「あはは! 顔真っ赤ー! トマトナポリタンより赤ーい!」


「絢金ぇぇぇ! 黙りなさいっ!!」


立ち上がって絢金を追いかけようとする月菜と、キャッキャと逃げ回る絢金。

賑やかすぎるその光景に、ダイニング全体が温かい爆笑に包まれた。


湊はみんなの笑顔を見つめながら、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。

昨日交わした約束と、今夜確認し合った互いの気持ち。

不器用でツンデレな月菜と、この愛おしい7人姉妹たちがいる絢咲家でのお世話係の日々は、これからもどこまでも温かく、甘酸っぱく続いていくのだ。


湊はエプロンを優しく撫で下ろし、自分のお皿のナポリタンを満足そうに一口運ぶのだった。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #24】

『喫茶店の味を再現!極上モチモチナポリタンの裏ワザ』


おうちでナポリタンを作るときは、「ケチャップを先に炒める」のが最大のコツです!パスタを入れる前に、具材の横でケチャップをフツフツと加熱することで、余分な酸味が飛んで甘みとコクが激増します。さらに、隠し味にほんの少しの「醤油」または「ウスターソース」と「仕上げのバター」を加えると、お店で食べるような深みのある味わいになりますよ!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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