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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部②:無防備すぎる甘い誘惑の日常編
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第19話:長女の誘惑と、嫉妬の大学キャンパス

──長女・陽葵(ひまり)さんからの衝撃的な一言。

『私の彼氏役としてついてきてほしいの♪』


昨朝の食卓を凍りつかせたその申し出は、一日経った今も絢咲(あやさき)家に巨大な波紋を広げ続けていた。


「だーかーら! なんで湊がお姉ちゃんの『彼氏役』なんてやらなきゃいけないのよバカぁっ!」


放課後のリビング。制服姿の次女・月菜(るな)は、ソファーでゴロゴロと猫のように転がっている陽葵さんに向かって、全身で猛抗議を繰り広げていた。

胸元には、一昨日に贈ったあのシルバーのネックレスがキラリと輝いている。


「もう、月菜は相変わらず嫉妬深いわねぇ。良いじゃない、一日くらい。私の通う大学の学園祭プレイベント(サークル発表会)があるのよ。しつこい先輩に言い寄られてて困ってるから、湊くんに助けてほしいの」

「だったら他の男友達に頼めばいいでしょ! 湊はお世話係なの! 専属の身代わり彼氏じゃないんだから!」

「え〜? でも、湊くん以外の男の人と腕組んだり仲良く歩くの、お姉ちゃん嫌だなぁ……。ね、湊くん?」


上体起こした陽葵さんが、ふんわりとした甘い笑みを浮かべ、助けを求めるように俺──湊(みなと)の顔を見つめてくる。

薄桃色の唇、だぼだぼの部屋着から覗く綺麗な鎖骨と柔らかな雰囲気。相変わらず、この長女の距離感の壊れ方は心臓に悪すぎる。


「あ、あの……陽葵さん、本当に俺で役に立つんでしょうか……? 大学なんて行ったこともないですし……」

「もちろんよ♪ 湊くんは背も高いし、落ち着いてるし、何よりすごくカッコいいもの。自慢の彼氏(仮)になってくれるでしょ?」

「っ!? か、カッコいいだなんて……」


照れて顔を赤くする俺の横から、激しい殺気が突き刺さる。


「〜〜〜っ! 湊! 鼻下伸ばして照れてんじゃないわよ! アンタが行くなら……私だってついていくんだからね!」

「えっ、月菜も!? 高校の授業はどうするのよ〜?」

「土曜日のイベントでしょ!? 休みだから一緒に行けるわよ! 妹として、バカな長女とウブなお世話係の見張りをするの!」


「あ! ずるいぞ次女! 私だって土曜日ヒマだしついていくー!」

「……私も。湊の大学生姿、見たい」


三女の灯華(とうか)と四女の水樹(みずき)まで参戦し、結局、土曜日の大学訪問は『陽葵の護衛&みんなでキャンパス見学』という賑やかな団体行動へと発展することになったのだった。


```

*


```


そして迎えた、土曜日の朝。


「うわぁぁ……ここが大学かぁ! すっごく広ーい!」


都内にある有名私立大学のキャンパス。

緑豊かな敷地には、モダンな校舎やカフェが立ち並び、多くの大学生や見学者で賑わっていた。


本日の主役である長女の陽葵さんは、家でのズボラな部屋着姿が嘘のような、完璧な『女子大生ファッション』に身を包んでいた。上品なベージュのニットに、綺麗めなフレアスカート。歩くたびにサラリと揺れる銀髪が、キャンパスの陽光を反射して輝いている。


「ねえ、湊くん♪」


人混みに入った瞬間、陽葵さんは当然のような顔で俺の右腕にギューッと抱きついてきた。


「っ!? ひ、陽葵さん!? 腕! 腕が当たってますって!」

「ふふ、ダメよ? 今日は『彼氏役』なんだから、しっかり手をつなぐか腕を組んでくれないと。ほら、あそこにいるでしょ? 私をしつこく誘ってくるサークルの先輩」


陽葵さんが視線を向けた先には、チャラそうな雰囲気を醸し出した男子学生グループが立っていた。

彼らは陽葵さんの姿を見つけるとパッと目を輝かせたが、その腕にガッツリと抱きついている俺の存在に気づくと、一気に苦々しい表情へと変わった。


「なるほど……本当に困ってたんですね」

「ええ。だから今日一日だけ、私の素敵な彼氏さんでいてね……?」


耳元で甘く囁かれ、脳の処理速度が追いつかなくなる。

だが──俺の左側から、恐ろしい圧力がかかった。


「……ちょっと、湊。右腕ばかり優遇して、左腕が空いてるんじゃない?」


ジト目で俺を見上げるのは、私服姿の月菜だった。

今日のために少しお洒落をしてきた彼女は、対抗意識むき出しで俺の左腕をグイッと引っ張ってくる。


「つ、月菜ちゃんまで何やってるの!?」

「何って、迷子にならないように腕を掴んでるだけよ! べ、別にアンタと腕組みたくて組んでるわけじゃないんだからね!」


右に長女の陽葵さん、左に次女の月菜。

両手に花といえば聞こえはいいが、周囲の男子大学生たちからの刺さるような殺気と嫉妬の視線で、俺の胃はハチノス状態だった。


「湊お兄ちゃん! 私は背中に乗るー!」

「……私は、裾を引っ張る」


さらに三女の灯華が背中に圧をかけ、四女の水樹が後ろからシャツを引っ張ってくる。

完全に『絢咲家のハーレム&身動き不能状態』で、俺たちはキャンパス内を歩き回ることになった。


```

*


```


陽葵さんのサークル発表会(軽音&ダンス展示)は無事に大盛況で終了した。

ステージ上で堂々とパフォーマンスを披露する陽葵さんの姿は本当に綺麗で、彼女を狙っていた先輩たちも、終始仲睦まじく寄り添う俺と陽葵さん(+怒涛の妹軍団)の姿を見て、ついに諦めたようだった。


「ふぅ……湊くんのおかげで、これでスッキリしたわ! ありがとうね♪」

「役に立てたなら良かったです……色んな意味で寿命が縮みましたけど」


時刻は昼過ぎ。お昼時を過ぎたキャンパスの中庭で、みんなのお腹が「ぐ〜」と鳴り響いた。


「お腹すいたー! 湊お兄ちゃん、何か食べたいー!」

「そうだね。せっかくだから、大学の学食を借りて……いや、せっかくだし俺がみんなに『冷めても極上においしい特製カフェ風お弁当』を振る舞おうか!」


実は、今日のドタバタを見越して、俺は今朝早くに特製のお弁当を人数分作って持参していたのだ。


中庭のベンチに広げられた、大きな重箱風のお弁当箱。

フタを開けた瞬間、妹たちから「きゃーっ!」と歓声が上がった。


敷き詰められていたのは、宝石のように艶やかな『特製エビのチリソース(エビチリ)』と、フワフワのパラパラ炒飯だ。


「うわぁぁぁ! エビチリだー!! すごい、エビがプリップリしてる!」

「これ、本当に湊が作ったの!? お弁当なのに全然パサついてない!」


月菜も目を見開いて、エビチリを割り箸で持ち上げた。

エビチリといえば、家で作るとエビが縮んで硬くなってしまったり、衣がベチャベチャになってタレと分離してしまう難しい中華料理の筆頭だ。


「ふふ、エビチリを家庭でプロ並みに『プリップリ&ジューシー』に仕上げるには、『お肉やエビの事前処理(保水術)』が命なんだよ」


俺はいつもの解説モードに入った。


「エビは皮を剥いた後、『片栗粉・塩・酒』で揉み洗いして汚れと臭みを徹底的に落とすんだ。そして一番の裏ワザは、『炒める直前に、卵白と片栗粉、少量の油でエビをコーティング(上漿・シャンジャン)しておくこと』なんだよ」


「シャンジャン……! 天津飯の時のコーティングと似てるわね!」


月菜が感心したように頷く。


「そう! この薄い衣の膜(コーティング)が、加熱によるエビの水分蒸発を防いで、プリッとした弾力を閉じ込めてくれるんだ。さらにソースには隠し味として『練乳(またはマヨネーズとケチャップ)』をほんの少し加えることで、冷めてもカドが立たない、コクのあるお店の味になるんだよ」


「へぇ〜! 練乳を入れるの!? 全然甘ったるくないのに、すごくコクがある!」


陽葵さんも一口食べ、そのあまりの美味しさに目を細めていた。


「「「「「いただきます!!」」」」」


プリップリのエビに、甘辛くコクのあるチリソースが絡み合い、お口の中で弾け飛ぶ。

冷めているのにエビの食感は驚くほど柔らかく、衣に旨味が凝縮されていた。


「美味しーい! 湊お兄ちゃんのエビチリ、お店のより美味しい!」

「……エビがぷりぷり。無限に食べられる」

「ふ、ふん! お世話係のくせに、キャンパスでこんな凄いお弁当広げるなんて目立ちすぎよ! ……美味しいけど!」


五女の木乃香(このか)もツンツンしながら大口でエビチリを頬張り、みんなで和気藹々と重箱を突っつき合った。


爽やかな秋空の下、キャンパスのベンチで広げられた特製お弁当。

周りの大学生たちも、その豪華すぎる手作り弁当と可愛い姉妹たちの姿を羨ましそうに眺めていた。


```

*


```


楽しいピクニックのようなランチが終わり、帰り道。

夕暮れ時の駅へ向かう道中で、陽葵さんが少し遅れて俺の隣に並んだ。


「湊くん。今日は本当にお付き合いしてくれてありがとうね」

「いえ、陽葵さんの困りごとが解決して本当に良かったです。サークルの演奏もすごく素敵でしたよ」


俺が微笑むと、陽葵さんは少しだけ真面目な、優しいお姉ちゃんの表情になって呟いた。


「ふふ、彼氏役も嬉しかったけど……私ね、今日一番嬉しかったのは、湊くんが月菜たちのためにあんなに美味しそうなお弁当を作ってくれたことなの」

「え……?」

「月菜ね、今日ずっと嬉しそうだったわ。湊くんが隣にいてくれるだけで、あの子はすごく安心してるの。……これからも、あの子のこと、よろしくね?」


そっと俺の肩に手を置き、微笑む陽葵さん。

彼女はやっぱり、いつだって自分以上に妹たちの幸せを願う、最高の長女だった。


「はい! もちろんです!」


俺が力強く頷くと、前を歩いていた月菜が振り返り、真っ赤な顔で叫んだ。


「ちょっと湊! お姉ちゃんと後ろで何コソコソ話してるのよ! 早く来ないと置いていくわよバカっ!」

「あはは、すぐ行くよ月菜ちゃん!」


首元のネックレスを揺らしながら待ってくれている月菜のもとへ、俺は駆け出した。

甘い嫉妬と賑やかな笑顔に包まれた、絢咲家のお世話係の日常は、まだまだどこまでも続いていく──。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #19】

『プロ直伝! エビチリのエビを「プリップリ&極上食感」にする裏ワザ』


1. 殻を剥いたエビは「片栗粉大さじ1+塩小さじ1/2+酒大さじ1」で良く揉み込み、水で洗い流してペーパーでしっかり水気を拭き取ります(これで臭みが消えます)。

2. 炒める直前に、エビに「卵白小さじ2+塩少々+片栗粉大さじ1+サラダ油小さじ1」を揉み込んでコーティング(上漿)します。この膜が水分の蒸発を防ぎ、加熱しても固くならずプリプリの食感になります!

3. チリソースに「練乳(またはマヨネーズ)小さじ1」を隠し味として加えると、辛味の中に奥深いコクが生まれ、冷めても美味しいお店の味に仕上がります!

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