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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部②:無防備すぎる甘い誘惑の日常編
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19/72

第17話:主役の涙と、世界で一番甘いバースデー

──ついにやってきた、月菜(るな)の誕生日当日。


「みんな、準備はいいか……? 月菜ちゃんがもうすぐ帰ってくるぞ!」

「オッケー! 部屋のクラッカー準備完了〜!」

「……ケーキのローソク、設置完了」


絢咲(あやさき)家のリビングは、朝から独特の緊張感と高揚感に包まれていた。

今日はお世話係である俺──湊(みなto)と、長女の陽葵(ひまり)さんを筆頭とした妹たち全員による、月菜のための『完全秘密サプライズ・バースデーパーティー』の決行日だ。


月菜には「今日は放課後に部活の用事(もちろん架空)があるから、ちょっと遅くなる」と伝えてあり、俺たちはその隙を突いて完璧な装飾とごちそうの準備を整えていた。


「湊くん、お料理の方はバッチリかしら?」

「はい! 料理は全部完成してます! 月菜ちゃんの好きなメニューづくしですよ」

「ふふ、あの子の驚く顔が楽しみねぇ。……あ、静かに! 玄関のドアが開くわ!」


陽葵さんの合図で、部屋の照明が一斉に落とされる。

暗闇の中、息を潜める全員。


──カチャリ。


「……ただいまー。あれ? なんで部屋が暗いの……? みんな、どこか行ってるの……?」


静まり返った玄関から、不安そうな月菜の声が響く。

足音がリビングへと近づき、ドアがゆっくりと開かれた──その瞬間!


パチンッ! パチンッ!!


「「「「「「「月菜(お姉ちゃん)、誕生日おめでとう〜〜〜っ!!!笑」」」」」」」


一斉に鳴り響くクラッカーの音と、パッと点灯する暖かい室内灯。

色とりどりの紙吹雪が舞う中、月菜の目の前に広がるのは、バルーンやモザイクアートで華やかに飾られた夢のようなリビングだった。


「っ……!? え……ええぇぇっ!? 何これ……!?」


目を丸くし、口を大きく開けて硬直する月菜。

呆然と立ち尽くす彼女の前に、長女の陽葵さんが微笑みながら歩み出た。


「ふふ、驚いたかしら? 今日は月菜の16歳の特別な誕生日でしょ? みんなでずっと秘密で準備してたのよ♪」

「お姉ちゃん……! でも、私……今日はお世話係とみんなで普通にご飯食べるだけだって……」

「嘘に決まってるでしょ〜! 月菜お姉ちゃんをビックリさせるための大作戦だったんだよー!」

「……月菜、おめでとう。これ、私と灯華で作ったメッセージカード」


三女の灯華(とうか)と四女の水樹(みずき)が手作りのプレゼントを差し出し、五女の木乃香(このか)と六女の絢金(あやか)、七女の土和(とわ)が「おめでとう〜!」と足元に飛びついていく。


「みんな……っ……! 私のために……っ」


感情が一気に溢れ出し、月菜の大きな瞳からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

いつも気丈で、次女として妹たちの前で泣くことなんて絶対に無かった彼女が、子供のように顔をクシャクシャにして泣いている。


「うぅ……っ、みんな……ありがとぉ……っ!」


泣きじゃくる月菜の背中を優しく撫でながら、俺は温かい料理が並ぶ食卓へと彼女を誘導した。


「さあ月菜ちゃん、泣いてる暇はないよ! 今日は月菜ちゃんが世界で一番幸せになる日なんだから! さあ、ごちそうを食べよう!」


```

*


```


食卓に並べられたのは、まさに豪華絢爛な料理の数々だ。

そして、その中央で圧倒的な存在感を放っているのが──『特製ローストビーフ』と、色とりどりのパーティードリンクだった。


「わあぁぁぁ! ローストビーフだー!! お店で食べるやつだー!」

「湊お兄ちゃん、これ本当に手作り!? すごすぎるよー!」


大はしゃぎする妹たち。

ローストビーフといえば、家庭で作ると中まで火が通り過ぎてパサパサの『ただの焼き豚』になってしまったり、逆に生すぎて失敗しやすいハードルの高い料理の代表格だ。


「湊……これ、どうやって作ったの……? お肉がすごくキレイな桜色をしてる……」


涙を拭った月菜が、感嘆の声を漏らす。

その断面は、まるで高級レストランのように均一で鮮やかなピンク色に輝いていた。


「ふふ、ローストビーフを家庭で失敗せずに、柔らかくジューシーに仕上げる秘訣はね──『フライパンで表面を焼いた後、ラップとジッパーバッグに入れて“保温用の湯せん(低温調理)”をすること』なんだ」


「湯せん……!? お肉をお湯につけるの!?」


「そう! オーブンを使うと火加減が難しくて失敗しやすいんだけど、フライパンで全表面にサッと焼き色をつけたら、二重にしたジッパーバッグに入れて空気をしっかり抜くんだ。そして、一度沸騰させて火を止めたお鍋のお湯の中にドボンと浸けて、フタをして20分〜30分放置するだけ!」


俺の解説に、妹たちも「へぇぇぇ!」と身を乗り出す。


「お湯の余熱でじっくりじっくり中心まで『55度〜60度』の適温で火を通すから、お肉の水分や肉汁が一切逃げずに、誰でも失敗なく極上の柔らかさに仕上がるんだよ。タレは肉汁に醤油、みりん、赤ワイン、そして擦りおろし玉ねぎを加えて煮詰めた特製ソースだよ」


「……凄すぎるわ、湊。本当にアンタは何でも作れちゃうのね……」


月菜がうっとりとした表情でローストビーフを一枚、口へと運ぶ。


──噛んだ瞬間、お肉の旨味と肉汁が口いっぱいに弾け飛んだ。


「──っ!!! 柔らかい……っ! 噛まなくてもとろけるみたい……!」

「絶品……! ソースの旨味が絡んで、いくらでも食べられちゃう!」

「湊お兄ちゃん天才! 天才お世話係だー!」


大歓声が上がり、食卓は一気に大パーティー会場と化した。

賑やかに笑い合い、美味しい料理を突っつき合う7人姉妹。その輪の中心で、月菜は今までに見たことがないほど幸せそうな、満開の笑顔を咲かせていた。


```

*


```


楽しい宴がひと段落し、食後のケーキタイムが終わった頃。

陽葵さんがウインクをしながら、俺の手元に「あの袋」をそっと差し出してきた。


「さあ、湊くん。一番大切なプレゼントを、渡してあげて?」

「はい……!」


俺は緊張で少し手を震わせながら、上品なリボンがかかった紙袋を持ち、月菜の前へ歩み寄った。


「月菜ちゃん」

「え……? 湊……それ……」


「これ、俺と陽葵さんで二人で選んだ、月菜ちゃんへの誕生日プレゼントだよ」


袋の中から取り出したのは──綺麗なシルバーのシンプルなネックレスと、彼女が欲しがっていたシックなデザインの手帳。


「一昨日、陽葵さんと買い物に行ってたのは、月菜ちゃんが何が好きか、何をもらったら一番嬉しいかを一緒に探すためだったんだ。嫉妬させたり、不安な思いをさせてごめんね」


そう言って箱を開けて見せると、月菜は息を呑み、再びその目に涙を溜め始めた。


「これ……私、前にお店で『可愛いな』って一瞬見ただけの……覚えててくれたの……!?」

「当たり前だよ。月菜ちゃんのことなら、何でも見てるから」


俺は箱からネックレスを取り出し、彼女の首元へと回した。

華奢で白く綺麗な首筋に、キラリと光る小さなモチーフが収まる。


「……似合ってるよ、月菜ちゃん。すごく綺麗だ」

「〜〜〜っ! 湊のバカ……そんな恥ずかしいこと、みんなの前で言わないでよ……!」


顔を真っ赤にして照れ散らかす月菜。

その様子を見て、周りの妹たちから「ひゅ〜ひゅ〜!」「お二人さんお熱いね〜!」と冷やかしの嵐が巻き起こる。


「ちょっとみんな黙ってて!! 〜〜〜っ、もうっ!」


怒ってみせる月菜だったが、その手は胸元に輝くネックレスを優しく、愛おしそうに撫で続けていた。


```

*


```


夜遅く。

妹たちが満腹と興奮で次々と眠りにつき、静まり返ったリビング。


片付けを終えた俺がベランダで夜風に当たっていると、静かな足音が近づいてきた。


「……湊」


振り向くと、胸元のネックレスを月菜が愛おしそうに指で弄りながら、そこに立っていた。

昼間の涙や照れは影を潜め、どこか大人びた優しい瞳が俺を見つめている。


「月菜ちゃん。今日は本当に、お誕生日おめでとう」

「うん。……ありがとう、湊」


月菜はそっと俺の隣に立ち、夜空を見上げた。

静寂の中、二人の吐息が白く揺れる。


「私ね……本当は、誕生日なんてどうでもいいと思ってたの。お姉ちゃんは忙しいし、妹たちの世話もあるし……私がワガママ言ったら迷惑がかかるからって」

「月菜ちゃん……」

「でもね、今日……湊が来てくれて、こんなに素敵な日を作ってくれて……私、生まれてきて本当に良かったって思えたの」


彼女は俺の方へ向き直り、小さな手で俺の手をキュッと握りしめた。

握り返すと、その手はほんのりと温かかった。


「私ね、湊のことが……」


夜風に揺れるツインテール。

月光に照らされた月菜の顔は、この世の何よりも美しく、可憐だった。


「……ううん。この続きは、もう少しだけ内緒にしておく」

「えっ……?」

「ふふ、だって……一度に全部伝えたら、アンタ調子に乗るでしょ?」


悪戯っぽく微笑み、月菜は俺の手をギュッと強く握ったあと、名残惜しそうに離した。


「でも、これだけは覚えておいて」


彼女は背伸びをし、俺の耳元へと顔を近づける。

甘い吐息と香りが、ダイレクトに脳を揺さぶる。


「私の特別なお世話係は……これからも、世界でアンタ一人だけなんだからね。バカ湊」


耳元に残る甘い残り香と、赤くなる頬。

月に照らされた夜の中で、俺たちの甘く愛おしい日常は、第2章の最高潮を迎えてこれからも続いていくのだった──。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #17】

『絶対失敗しない! 放置で極上「柔らかローストビーフ」の作り方』


1. 牛かたまり肉(モモやロース)に塩コショウを強めに擦り込み、フライパンで全表面にサッと強火で綺麗な焼き色をつけます。

2. お肉を二重にしたジッパー付き保存袋に入れ、空気をしっかり抜いて密閉します。

3. 沸騰させて火を止めた大きなお鍋のお湯の中に袋ごと浸け、フタをして20〜25分放置(保温)するだけ!

4. 取り出して冷めるまで置いてから薄く切れば、余熱で均一に火が通った鮮やかな桜色の極上ローストビーフが作れます!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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