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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部②:無防備すぎる甘い誘惑の日常編
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第16話:すれ違う乙女心と、サプライズの足音

──月菜(るな)の誕生日まで、あと二日。


絢咲(あやさき)家のリビングには、どこか落ち着かない緊張感と、微かなそわそわ感が漂っていた。


「ねえ、湊お兄ちゃん! 昨日の夜、押入れの奥に隠してあった大きな紙袋、あれなになにー?」

「っ!? ちょ、ちょっと絢金ちゃん、声が大きいって……!」


廊下で朝の掃除機をかけていた俺──湊(みなと)は、いきなり六女の絢金(あやか)に裾を引っ張られ、心臓が跳ね上がるのを感じた。

そう、昨日陽葵(ひまり)さんと二人で買って隠しておいた月菜への誕生日プレゼント(シンプルなネックレスとシステム手帳)が、早くも勘の鋭い六女に見つかりかけていたのだ。


「ふふ〜ん? 湊お兄ちゃん、お顔が真っ赤だよ? さては月菜お姉ちゃんに……」

「しーっ! 絢金ちゃん、後でおいしいおやつ作ってあげるから、今は内緒ね! 絶対だよ!?」

「わーい! 約束だからね、湊お兄ちゃん♪」


作戦成功とばかりにニヤリと笑い、パタパタと走り去っていくおませな策士。

冷や汗を拭いながら俺が溜め息をついたその時──。


「……何が内緒なの?」


背後から冷ややかな、しかしどこか固くなった声が聞こえた。

振り返ると、そこには制服姿の月菜が立っていた。カバンのストラップをギュッと強く握りしめ、眉間に小さくシワを寄せている。


「つ、月菜ちゃん!? いや、これは……その、絢金ちゃんとちょっとした冗談を……」

「ふん、別に追求するつもりはないわよ。アンタが妹たちと仲良くするのは良いことじゃない」


ツンとそっぽを向く月菜。だが、その瞳には明らかな陰りが差していた。

昨日の二人きりのキッチンで縮まったはずの距離が、一瞬でまた少し遠くなったような……そんな寂しげな雰囲気が彼女の背中から漂っている。


(……マズいな。サプライズだから言えないけど、誤解されたままだと月菜ちゃんに余計な気を揉ませちゃう……)


お世話係として、そして一人の男として、胸の奥がチクリと痛んだ。


```

*


```


登校中の道のりも、どこかぎこちない空気が二人を包んでいた。

いつもなら「湊、今日のタイムセールはね」とか「昨日の料理だけどさ」と話しかけてくる月菜が、今日は一言も喋らず、少し先をうつむき加減で歩いている。


「……月菜ちゃん、今日ちょっと元気ない?」

「……別に。普通よ」

「そっか。……あ、今日の夜ご飯なんだけどさ、月菜ちゃんの好きなもの作ろうと思って」

「……いいわよ、別に。妹たちが喜ぶものにして。私の好き嫌いなんて、気にしなくていいから」


ぽつりと吐き出された素っ気ない言葉。

本当は自分の誕生日が近いことを知っているはずなのに、彼女はいつだって自分の気持ちを後回しにしてしまう。

長女の陽葵さんが言っていた通り、月菜は妹たちのために『しっかり者の次女』を演じ続けているのだ。


だからこそ、俺は心の中で強く誓った。

絶対に、このサプライズを大成功させて、彼女の最高のとびきりの笑顔を引き出してやる、と。


```

*


```


放課後。

俺は月菜より一足早く家に帰り、リビングで長女の陽葵さんとコソコソと最終打ち合わせを行っていた。


「陽葵さん、プレゼントの隠し場所なんですけど、絢金ちゃんに見つかりそうになっちゃって……」

「あらあら、絢金は鼻が効くからねぇ。じゃあ私の部屋のクローゼットの一番上に隠しておきましょうか」

「助かります。あ、当日のケーキと料理の準備も、妹たちに協力してもらう段取りを組みました!」


陽葵さんは嬉しそうに目を細め、俺の頭を優しく撫でた。


「ふふ、ありがとう湊くん。本当に頼りになるわね。……月菜のこと、すごく大切に思ってくれてるのが伝わってきて、お姉ちゃん感激しちゃう」

「っ……! いや、俺はお世話係として当然のことを……」

「あら、それだけ? 『男の子』としてじゃなくて?」


悪戯っぽく微笑み、距離を詰めてくる陽葵さん。

柔らかい雰囲気に飲み込まれそうになったその瞬間──パタン、と玄関の開く音が響いた。


「ただいまー……」


帰ってきたのは、月菜だった。

リビングに入ってきた月菜は、密着するようにして話していた俺と陽葵さんの姿を捉え──一瞬で顔を強張らせた。


「……あ」

「つ、月菜ちゃん! おかえり!」

「……お邪魔だったかしら。ごめんなさい」


冷たい声でそう言い残すと、月菜は俺たちの弁明を聞く間もなく、階段を駆け上がって自分の部屋へ閉じこもってしまった。


「あちゃ〜……完全に勘違いされちゃったわねぇ……」

「陽葵さん! 俺、ちょっと月菜ちゃんの様子見てきます!」


俺は着替えもそこそこに、二階の月菜の部屋へと急いだ。


```

*


```


──トントン。


「月菜ちゃん、入るよ?」


返事はない。だが、鍵はかかっていなかった。

そっとドアを開けると、部屋の隅のベッドの上で、月菜が膝を抱えて丸くなっていた。


「……出ていってよ。今、誰とも話したくないの」

「月菜ちゃん、誤解なんだ。さっき陽葵さんと話してたのは……」

「誤解じゃないでしょ!」


月菜がバッと顔を上げた。

その大きな瞳には、一粒の涙が溜まっていた。


「私……知ってるんだから。一昨日、お姉ちゃんと二人で楽しそうにお買い物行ってたことも、今日も二人で秘密の話をしてたことも! ……湊は、お姉ちゃんの方がいいんでしょ!? 私みたいに素直じゃなくて、ツンツンしてて、可愛くないやつより……!」


堰を切ったように溢れ出す、彼女の本音。

いつも強がって、お姉さんぶって、自分の感情を押し殺してきた月菜の、弱くて健気な心が叫んでいた。


俺は迷うことなく、ベッドへ歩み寄り、彼女の前に屈んだ。


「月菜ちゃん。ちゃんと俺の目を見て」

「……やだ。見ない」

「見てほしい。俺が嘘をついてないって、分かってもらうために」


真っ直ぐな視線で伝え続けると、月菜は恐る恐る涙の浮かぶ目をこちらに向けた。


「俺が陽葵さんと出かけてたのも、二人でコソコソ話をしてたのも……全部、明後日の月菜ちゃんの誕生日のためだったんだ」

「……え?」


固まる月菜。俺は優しく言葉を重ねる。


「月菜ちゃんがいつも妹たちのために頑張ってるから、長女の陽葵さんと一緒に『月菜ちゃんが一番喜ぶサプライズ』を準備してたんだよ。プレゼントを選んだり、料理の段取りを決めたり……全部、月菜ちゃんのためだったんだ」

「あ……あ……」


真実を知った月菜の顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。

嫉妬と悲しさで一杯だった心が、一気に羞恥と激しい喜びに塗り替えられていくのが分かった。


「私……私、勘違いして……バカみたいなこと言って……っ!」

「バカなんかじゃないよ。それだけ俺たちのことを気にしてくれてたんだろ? ありがとな、月菜ちゃん」


そっと手を伸ばし、彼女の頬にこぼれた涙を指で拭う。

月菜は「うぅ……っ」と小さく声を漏らし、そのまま俺の胸元に顔をうずめて飛びついてきた。


「バカ湊……! ダイスキなのにバカぁ……っ!」

「っ!??!?」


直球すぎる彼女の叫びに、今度は俺の心臓が爆発しそうになる。

抱きついてくる華奢な体温と、甘い香り。

二人きりの部屋で、甘くて切ない誤解は、最高の形で解けていったのだった。


```

*


```


仲直りを果たし、真っ赤な顔のままリビングへ降りてきた月菜を、妹たちが温かい目(とニヤニヤ顔)で出迎えた。


「よーし! 月菜ちゃんの仲直り記念&明後日の予行演習として、今日の夕飯は手早くできて激ウマな『極上天津飯』にするぞー!」

「わーい! 天津飯だー!」


キッチンに立ち、俺は手際よく調理を始める。

天津飯の命は、なんといっても『フワフワ・とろとろの餡(あん)と卵』だ。


ボウルに卵を溶き、そこにカニカマ、長ネギ、椎茸を加える。


「湊、天津飯の卵って、家で作ると固くなったり、パサパサになっちゃうんだけど……」


すっかり機嫌を直した月菜が、少し照れくさそうに隣に並んで覗き込んでくる。


「ふふ、天津飯の卵をフワフワにする秘訣はね、『卵液に少量の水溶き片栗粉とマヨネーズを混ぜておくこと』と、『多めの油で一気に空気を含ませるように炒めること』なんだ」


「えっ? 卵液自体に片栗粉を入れるの!?」


「そう! 水溶き片栗粉を少し混ぜておくと、加熱した時に卵の水分が保たれて、固まらずにプルプルの『とろフワ食感』になるんだよ。そこに油をしっかり熱したフライパンへ一気に入れて、お玉で外側から内側へ円を描くように空気を巻き込んで半熟で火を止めるんだ」


言葉通り、強火で煙が立つ直前まで熱したフライパンに油を多めにひき、卵液を一気に流し込む。


──ジュワァァァッ!!!


一瞬で膨らむ黄色い花。お玉で素早く大きくかき混ぜ、半熟の状態でサッと温かいご飯の上に滑らせる。


続いて小鍋で、水、醤油、オイスターソース、砂糖、鶏ガラスープの素を煮立たせ、水溶き片栗粉でとろみをつけた『特製甘酢餡』を作成。最後にゴマ油を垂らして風味をつけ、フワフワ卵の上からたっぷりと回しかける!


「うわぁぁぁ! 輝いてる……! まるで黄金の島みたい!」


ガラスのように艶やかな餡を纏った、極上天津飯の完成だ。


```

*


```


「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」


レンゲを入れ、フワフワの卵と餡、ご飯を一度に口の中へ運ぶ。


「──っ風味がすごい!! 卵が信じられないくらいプルプルで、とろける……!」

「あんかけの旨味が卵に絡んで、最高に美味しい〜!」

「湊お兄ちゃん、これ毎日食べたい!」


月菜も一口食べ、そのあまりの美味しさと食感に目を丸くしていた。


「……本当に、お店で食べる天津飯よりフワフワ……。湊、やっぱりアンタってすごいのね」

「喜んでもらえてよかったよ。明後日の本番は、もっと豪華な料理作るからね!」

「……うん! 楽しみにしてる!」


照れながらも、今までで一番眩しい笑顔を見せてくれた月菜。

すれ違いを乗り越え、絢咲家は最高の状態で『月菜の誕生日』という特別な日を迎えようとしていた──。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #16】

『プロの味! 天津飯の卵を「とろフワ・プルプル」に仕上げる裏ワザ』

天津飯やかに玉を作る際、溶き卵(3個分)に対して「水溶き片栗粉(片栗粉小さじ1/2+水小さじ1)」と「マヨネーズ小さじ1」を混ぜ合わせておきます。片栗粉が加熱による卵の保水力を高め、時間が経っても固くならず、お店のようなプルプル・とろフワの食感を実現できます。焼く際は多めの油を煙が出る直前まで熱し、一気に炒めて空気を巻き込むのがコツです!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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