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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部②:無防備すぎる甘い誘惑の日常編
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第12話:波乱の朝食と、お姉ちゃんの甘い誘惑

──朝。

絢咲(あやさき)家の朝は、一言で表すなら『戦場』だ。


「……んー、湊おにいちゃん……あさ……?」

「とわちゃん、おはよ。ほら、転んじゃうから足元気をつけてね」


リビングに降りてくるなり、目をこすりながらトコトコと歩み寄ってきた七女の土和(とわ)を、俺──(みなと)はすばやく抱き上げた。

すっぽりと腕の中に収まった幼い温もりに頬がゆるむのも束の間、キッチン横の廊下から賑やかな足音が響き渡る。


「ちょっと灯華! 私のヘアゴム勝手に使わないでって言ってるでしょ!」

「え〜? だって水樹のやつの方が可愛かったんだもん! 減るもんじゃないしイイじゃん〜!」

「減る減らないの問題じゃない。返して」


駆け込んできたのは、中学二年生の双子──三女の灯華(とうか)と四女の水樹(みずき)だ。

元気いっぱいに湊の背中に飛びついてくる灯華と、その背後からスッと湊の裾を掴んで静かに無言の圧をかける水樹。


「湊お兄ちゃん聞いてよー! 水樹が朝からケチなの!」

「……私は正しい主張をしてるだけ。それより湊、今日の朝ごはん何?」

「はいはい、朝から喧嘩しないの。今日はフワフワの出汁巻き卵と具だくさんお味噌汁だよ。ほら、二人とも手を洗っておいで」


二人の頭をぽんぽんと撫でて送り出すと、今度はあくびを噛み殺しながら五女の木乃香(このか)と六女の絢金(あやか)が食卓へやってきた。


「ふぁ……あ、お世話係。今日もちゃんとお味噌汁作ってくれた?」

「当たり前でしょ。木乃香ちゃんの好きな油揚げもいっぱい入れてあるよ」

「ふ、ふん! 別に感謝なんてしてないんだからね! ……でも、残したら勿体ないから全部食べてあげけど」

「木乃香お姉ちゃん、お顔がニヤニヤしてるよ〜? 湊お兄ちゃん、絢金はたまごやき多くしてー!」


ツンツンしながらも期待に目を輝かせる木乃香と、おませにクスクス笑う絢金。

賑やかすぎる朝の光景に苦笑しつつ、俺は大皿に山盛りにされた人数分の朝食を食卓へ並べていく。


そこへ、最後にやってきたのは次女の月菜(るな)だった。

制服姿の月菜は、俺と目が合うと少しだけ気まずそうに視線を泳がせ、そっぽを向く。


「……おはよう、湊」

「おはよう、月菜。今日もちゃんと時間通りだな」

「べ、別にアンタに褒められたくて早く起きたわけじゃないわよ! 妹たちの手本として当然のことをしてるだけなんだから!」


相変わらず素直じゃない態度だが、その頬がうっすらと赤いのは隠せていない。

家事壊滅な7人姉妹のお世話係になってからというもの、彼女たちのこういった可愛らしい反応に、俺の心臓は毎日忙しく動かされている。


「あれ? そういえば長女は……?」


俺が首をかしげた瞬間だった。


「──湊く〜ん、助けてぇ〜……」


背後から、ぬるりと妖しい気配が忍び寄る。

振り返る隙もなく、俺の背中にやわらかな感触と温もりがズシリと重なった。


「うおっ!? ひ、陽葵さん!?」


長女の陽葵(ひまり)さんが、背後から俺の首に腕を回し、そのまま全力で体重をあずけて甘えてきたのだ。

しかも、寝起きでまだ着替え途中の部屋着は肩口が大きくはだけており、真っ白な肌と鎖骨が目に入る至近距離。甘い香りが一気に鼻腔をくすぐる。


「ふぁぁ……朝からお腹すいちゃって動けない〜。湊くん、私を充電してぇ……」

「充電って言われても! ちょ、陽葵さん、距離が近いです! 服もはだけてますって!」

「え〜? だって家の中だし、湊くんだから別にいいじゃん〜? ほら、あーんして食べさせてくれたら起きる〜」

「自分で食べてください! ほら、妹たちも見つめてますから!」


俺が顔を真っ赤にしてあたふたしていると、食卓から冷ややかな、しかし激しい視線が突き刺さった。


「~〜〜っ! ちょっとお姉ちゃん! 朝から何やってんのよバカぁっ!」

「ずるいぞ長女! 私だって湊お兄ちゃんに抱きつきたいのにー!」

「……お姉ちゃん、ずるい。朝の湊キープ枠は私のものなのに……」


月菜が立ち上がって猛抗議し、灯華と水樹まで参戦して、キッチン前は一瞬にしてカオスな修羅場と化した。


```


```


「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」


なんとか陽葵さんをなだめて席につかせ、ようやく全員揃っての賑やかな朝食が始まった。

大皿に盛られた出汁巻き卵と、湯気が立つお味噌汁が一瞬にして消えていく。


「……んっ♪ やっぱり湊のたまごやき、最高にフワフワで美味しい……!」

「月菜、さっきまであんなに怒ってたのに、食べるときは一番幸せそうな顔するよね〜」

「なっ、灯華! 余計なこと言わないでよ!」

「ふふ、二人とも仲良しね。でも本当に美味しいわ……湊くんの料理を食べると、朝からすごく幸せな気分になれるの」


はだけた服を(一応)直した陽葵さんが、うっとりとした表情で俺を見つめてくる。

俺は照れ隠しに咳払いを一つ挟んだ。


「喜んでもらえてよかったよ。あ、そうそう。出汁巻き卵を作る時は、卵液に少しだけ『マヨネーズ』を混ぜておくと、冷めても固くならずにフワフワ感が長持ちするんだ」

「へぇ〜! マヨネーズ!? ぜんぜんマヨネーズの味しないのに!」

「油分が卵のタンパク質が固まりすぎるのを防いでくれるんだよ。お弁当にもピッタリだから覚えておくといいよ」


「……へぇ、なるほどね。相変わらず無駄に詳しいじゃない」


ツンとした態度で言いながらも、月菜はこっそりメモを取るかのように手元のスマホに何かを打ち込んでいた。そういう素直じゃないところが、実に彼女らしい。


「湊お兄ちゃん! 土和にもっとたまご頂戴!」

「はいはい、土和ちゃんには一番大きなところをあげるね」

「わーい! 湊お兄ちゃん大好きー!」


抱きついてくる土和をあやしながら、俺はふと自分の置かれた状況の幸福さを噛み締めていた。

ドタバタで苦労は絶えないが、こうして全員で美味しいご飯を食べて笑い合える時間は、間違いなく愛おしいものだった。


──だが。

朝食が終わりに近づいた頃、陽葵さんが思い出したようにポンと手を打った。


「あ、そうだ。湊くん」

「はい? なんですか、陽葵さん」

「今日の放課後なんだけど……ちょっと二人きりで、お買い物に付き合ってくれないかな?」


「え……陽葵さんと、二人でですか?」


その言葉が出た瞬間──食卓の空気が、ピタリと固まった。


「……ちょっと、お姉ちゃん? どういうこと?」

「そうだよ長女! 湊お兄ちゃんを独り占めするのはズルイぞー!」

「……私だって、放課後湊と一緒にお買い物行きたい……」


一斉に上がる妹たちの異議申し立て。

しかし、陽葵さんはふんわりとした甘い笑みを崩さないまま、どこか妖しげに人差し指を口元に当てて言った。


「だーめ。これはね……お姉ちゃんだけの、特別な『ひみつ』の用事なんだから♪」


「ひ、ひみつ……!?」


真っ赤になる月菜と、意味深に微笑む陽葵さん。

そして、妹たちの視線に挟まれて冷や汗を流す俺。


第2章──波乱の予感を秘めた、長女との「秘密の放課後デート(?)」が、静かに幕を開けようとしていた。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #12】

『出汁巻き卵を冷めてもフワフワに仕上げる裏ワザ』

卵液を作る際、卵4個に対して「マヨネーズ小さじ1」程度を加えてよく混ぜ合わせます。マヨネーズに含まれる乳化された油分と酢が、加熱による卵のタンパク質の強固な結合を和らげてくれるため、時間が経っても硬くならず、料亭のようなフワフワ食感をキープできます!味や匂いも残らないので、お弁当のおかずにも最適です。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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