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家事壊滅な7人姉妹のお世話係になりました  作者: 三日月
第一部②:無防備すぎる甘い誘惑の日常編
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第13話:長女との『秘密』と、ざわつく放課後

──絢咲(あやさき)家の長女、陽葵(ひまり)さんからの突然の誘い。

それは朝食の席を一瞬で氷つかせ、妹たちの間に不穏な空気を生み出していた。


「……ちょっと、お姉ちゃん? 『ひみつ』の用事ってどういうことよ」


真っ先に噛みついたのは、やはり次女の月菜(るな)だった。

箸をカチャリと置き、半眼で陽葵さんを睨みつける。その表情は完全に嫉妬と警戒心に満ちあふれていた。


「ふふ、言葉通りの意味よ、月菜。湊くんと二人きりでお買い物に行きたいの。お姉ちゃんにも色々事情があるのよ?」

「事情ってなによ! 湊はお世話係であって、お姉ちゃんの専属デート相手じゃないんだからね!」

「だーよねー! 湊お兄ちゃんを独り占めするなんてずるいー! 私も放課後ついていく!」

「……私も。湊の隣、空いてる」


三女の灯華(とうか)と四女の水樹(みずき)も参戦し、食卓は一気に陽葵包囲網と化した。

五女の木乃香(このか)も「ふ、ふん、私は別にどこに行こうと興味ないけど……湊が居ないと放課後のおやつはどうなるわけ!?」と腕を組んで抗議している。


そんな妹たちの蜂の巣をつついたような騒ぎの中でも、陽葵さんは一切動じることなく、優雅に紅茶を口に運んでいた。


「だーめ。今日は湊くんの力が必要なの。ね、湊くん? 断ったりしないわよね……?」


首を少し傾げ、潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくる陽葵さん。

薄桃色の唇がわずかに開かれ、胸元の柔らかなラインが目に入る至近距離でそんな顔をされたら、断れる男などこの世に存在するのだろうか。


「あ、はい……俺で役に立つことなら、喜んでお供しますけど……」

「〜〜〜っ! 湊のバカ! 鼻下伸ばして二つ返事で引き受けないでよ!」

「月菜ちゃん、別に鼻下は伸ばしてないよ!?」


月菜から痛烈なツッコミが飛び、俺は慌てて顔を横に振った。

だが、決まったものは仕方がない。

放課後、俺は陽葵さんと二人で買い出し(?)に出かけることになったのだった。


```


```


キーンコーンカーンコーン──。


放課度を告げるチャイムが校内に響き渡る。

教科書を鞄に詰め込みながら、俺はふうと息を吐いた。


「ねえ、湊」


不意に声をかけてきたのは、隣の席の月菜だった。

自分の鞄を抱え込み、どこか気まずそうにこちらをチラチラと伺っている。


「なに? 月菜」

「……本当に、お姉ちゃんと二人で行くの?」

「うん、朝約束しちゃったしね。陽葵さん、何か買いたいものがあるみたいだし」

「ふん……まあ、アンタが行くって言うなら止めないけどさ。……ヘンなことされたら、すぐ叫ぶのよ? お姉ちゃん、家だとあんな感じだし、外でも何してくるか分からないんだから」

「叫ぶって、俺がされる側なの……?」


苦笑しつつも、月菜の顔を見ると本気で心配してくれているのが伝わってくる。

素直になれないだけで、根は本当に優しい妹──いや、クラスメイトだ。


「大丈夫だよ。ちゃんと陽葵さんの荷物持ちして、早めに帰ってくるから。夕飯の準備もあるしね」

「……うん。じゃあ、気をつけてね」


少しだけ表情を和らげた月菜に見送られ、俺は教室を後にした。

校門前へ向かうと、そこにはすでに人集りができていた。


「ねえ、あの人すごくキレイじゃない……?」

「どこかのモデルさんかな? うわ、スタイル抜群……」


生徒たちの羨望と感嘆の視線を集めていたのは、言うまでもなく絢咲(あやさき)陽葵さんだった。

学校での彼女は、家でのあのズボラではだけた部屋着姿が嘘のように、洗練された大人の女性の雰囲気を纏っている。綺麗に整えられた長い髪、上品なブラウスにスラリと伸びた脚を際立たせるロングスカート。まさに『完璧な美女』そのものだった。


「あ、湊くん! こっちこっち〜!」


俺の姿を見つけるなり、陽葵さんはパッと花が咲いたような笑顔を向け、大きく手を振った。

周りの男子生徒たちから一斉に殺気立った視線が俺に突き刺さる。痛い、視線が物理的に痛い。


「お待たせしました、陽葵さん。……あの、周りの視線がすごいんですけど」

「ふふ、気にしないの。さ、行きましょ?」


そう言って、陽葵さんは当然のような顔で俺の右腕に自分の腕を絡めてきた。


「っ!? ひ、陽葵さん! 腕!」

「え? だって、はぐれたら大変でしょ? ほら、行こ?」


柔らかな感触が腕に伝わり、脳の許容量が一瞬でオーバーする。

俺は真っ赤になった顔を隠すように俯きながら、引っ張られるままに歩き出した。


```


```


陽葵さんに連れられてやってきたのは、駅前にある大きなショッピングモールだった。

おしゃれなアパレルショップや雑貨屋が立ち並び、休日や放課後は若者で賑わうスポットだ。


「で、陽葵さん。『ひみつ』の買い出しって、一体何を買うんですか?」

「ふふ、まあ焦らないで。まずはちょっとあっちのお店を見ましょう?」


陽葵さんは楽しそうに笑いながら、次々とお店を巡っていく。

服を選んだり、可愛らしいコスメを見たり、時には「これ、湊くんに似合いそうじゃない?」とメンズの服を俺に当てて楽しそうに微笑んだり。


まるで、本当のデートのようだ。


(……いやいや、落ち着け俺! 陽葵さんは俺をからかって楽しんでるだけだ……!)


自分に言い聞かせるが、隣を歩く陽葵さんから漂う甘い香りと、時折触れ合う肩の温もりに、心臓の高鳴りが収まる気配はない。


「湊くん、ちょっと疲れたかしら? あそこのカフェで少し休憩しましょ」


モールの中庭にあるオープンカフェに腰を下ろす。

陽葵さんはアイスカフェラテを、俺はブレンドコーヒーを注文した。


運ばれてきたドリンクを一口飲み、陽葵さんは満足そうに息を吐く。


「ふぅ……久しぶりに買い出しに来たけど、やっぱり湊くんと一緒だと楽しいわね」

「それは良かったですけど……そろそろ本題を教えてくれませんか? 『ひみつ』の用事って……」


俺が尋ねると、陽葵さんは少しだけ表情を柔らかくし、いたずらっぽく微笑んだ。


「実はね……来週、月菜の誕生日でしょ?」

「……え?」


思いがけない言葉に、俺は目を丸くした。


「月菜の……誕生日?」

「ええ。あの子、自分の birthday とか照れくさがってあんまり主張しないんだけどね。でも、毎年妹たちのために自分のことは後回しにしてるから……今年は私から、特別なプレゼントを贈りたいの」

「そうだったんですか……!」


てっきり自分の買い物か、あるいは俺をからかうための口実だと思っていた。

だが、陽葵さんは長女として、妹の月菜のことを誰よりも深く考えていたのだ。


「月菜、最近すごく楽しそうなのよ? 湊くんが家に来てくれてから、ツンツンしながらもすごく生き生きしてて。だから、月菜が一番喜ぶプレゼントを、湊くんと一緒に選びたかったの」

「陽葵さん……」


家でははだけた格好でゴロゴロしていて、ズボラで甘えん坊な長女。

だけど、彼女は間違いなく、妹たちを温かく見守る素敵な『お姉ちゃん』だった。


自分の浅はかな勘違いが恥ずかしくなると同時に、陽葵さんに対する愛おしさと尊敬の念が胸の中に溢れてくる。


「わかりました! 俺も全力でお手伝いします。月菜が絶対に喜ぶプレゼント、探しましょう!」

「ふふ、頼もしいわね、湊くん。……あ、でもね?」


陽葵さんは身を乗り出し、俺の耳元に顔を近づけた。

吐息がかかるほどの距離で、彼女は甘く囁く。


「月菜のプレゼント選びが終わったら……今度は、私と湊くんの『本当のデート』、付き合ってもらうからね?」

「〜〜〜っ!?」


耳元に伝わる吐息のくすぐったさと、その言葉の意味に、俺の顔は一瞬で茹でだこのように赤くなった。

クスッと悪戯っぽく笑う陽葵さん。……やっぱりこの人は、一枚も二枚も上だ。


```


```


その後、俺たちは雑貨屋やアクセサリーショップを巡り、月菜にピッタリのプレゼントを選び出した。

月菜が普段「可愛い」と目をつけていたブランドのシンプルなネックレスと、彼女が好きそうなデザインのシステム手帳だ。


「よし! これでバッチリですね!」

「ええ、きっと月菜も喜んでくれるわ。ありがとう、湊くん」


買い物を終え、夕暮れ時の街を二人で歩く。

橙色に染まる街並みの中で、陽葵さんは嬉しそうに手提げ袋を抱えていた。


「……あ、もうこんな時間。早く帰って夕飯作らないと!」

「そうね。今日の夕飯は何かしら?」

「今日は時間も少し遅くなっちゃったので、手早く作れて栄養満点な『特製パラパラ炒飯』にしようと思います!」

「わぁ、湊くんの炒飯! 大好き!」


嬉しそうにはしゃぐ陽葵さんを見て、俺は思わず微笑んだ。


「炒飯を家庭の火力でパラパラに仕上げるには、ちょっとしたコツがあるんですよ」

「へぇ、コツ? 火力をすごく強くするとかかしら?」

「それも大事なんですけど、一番簡単なのは『温かいご飯にあらかじめ卵と少量の油を混ぜ込んでおく』ことなんです」


俺は歩きながら、いつもの解説モードに入った。


「ご飯粒一つひとつを卵と油の膜でコーティングしておくことで、フライパンに入れた時に水分が飛びやすくなって、家庭の短い加熱時間でも簡単にパラパラの炒飯ができるんですよ。炒める時も、木べらで叩かず、切るように混ぜるのがポイントです」


「へぇ〜! ご飯に最初に卵を混ぜちゃうのね! それなら失敗しなさそう!」

「ええ、お店みたいなパラパラ食感になりますよ。帰ったら早速作りますね」


「うん! 楽しみにしてるわね、湊くん♪」


陽葵さんは嬉しそうに俺の腕を抱きしめ直し、身体を寄せてきた。

夕暮れの街の中、二人で歩く帰り道。

家事壊滅な姉妹たちの待つ我が家へと戻る道のりは、どこまでも温かく、そしてちょっぴり甘い甘誘惑に満ちていたのだった。


---


【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #13】

『家庭の火力でも失敗しない! 炒飯をパラパラにする裏ワザ』

フライパンで炒める前に、ボウルに入れた「温かいご飯」へ溶き卵と小さじ1程度のサラダ油(またはごま油)を加え、しっかり混ぜ合わせておきます。ご飯粒が卵と油でコーティングされるため、フライパンに投入した際に米同士がくっつかず、家庭の火力でも簡単にプロのようなパラパラ炒飯に仕上がります!炒める際は煽りすぎず、フライパンをしっかり熱してから一気に炒め上げるのがコツです。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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