第6話:無価値なガチャと、冷徹なる還元(サクリファイス)
差し押さえた金貨七百枚が、地下室の足の折れかけた机の上で鈍い輝きを放っていた。
レベル36となったアレハンドロは、半エルフの指を組み、エレナが提出した今月の会計報告書に目を落とす。
地下娼館と非合法な錬金物質の密売ルートからの推定月収は金貨二百五十枚。地上世界は、確実に彼の反逆資金を調達しつつあった。
アレハンドロはすでに、地下室と繋がる倉庫の買収と錬金素材の調達に金貨二百枚を投資していた。手元にはまだ莫大な余剰金がある。
「リーダー」エレナが単調な声で告げた。「追放メニューのインターフェースに、緊急用システム交換ショップが解放されました。迷宮の鍛冶場が使えない代わりとして、金貨を消費して『ランダム召喚ガチャチケット』を購入可能です。チケットは一枚につき金貨五枚となります」
アレハンドロは漆黒の瞳を細めた。ゲーム特有の、あの射幸心のドパミンが血管を駆け巡る。
「チケットを二十枚購入しろ。金貨百枚だ。このクソゲーが俺の伝説装備を返すか、あるいはランクSの将軍をよこすか試してやる」
インターフェースが眩い黄金色に点滅した。二十個のマナの球体が机の上に転がり、次々と音を立てて破裂していく。
しかし、失業者(プー太郎)に都合の良い幸運など、この世界には存在しなかった。
ボフッ、ボフッ、ボフッ。
システムウィンドウが、容赦のない鬱病的な結果を次々と弾き出した。
【ガチャ結果:コーポレート・ゴミの山】
・召喚:ドワーフ・ゴブリン ➔ 【ランクF】×12 (戦闘能力皆無)
・召喚:スケルトン・アーチャー ➔ 【ランクD】×5 (凡庸なステータス)
・召喚:ゾンビ・ソードマン ➔ 【ランクC】×2 (ただの肉壁)
・召喚:下級ヴァンパイア ➔ 【ランクC】×1 (マナ消費効率最悪)
地下室に現れ、力なく跪いた貧弱な魔物どもを見つめ、アレハンドロの額に青筋が浮かんだ。伝説級のアイテムもなければ、レンのようなランクSの原石もない。ただのリサイクル不可能なゴミの山だ。
「お頭……」リラがサディスティックな笑みを浮かべ、舌なめずりをした。その目に嫉妬の影はなく、純粋な加虐心だけが宿っている。「こんな低ランクの召喚獣ども、私のブーツの下で骨の鳴る良い音を響かせてくれますわ。ただの生けるリソースの無駄遣いですこと」
アレハンドロがパージの命令を下す前に、わずかな固有意識を持つランクCの下級ヴァンパイアが恐怖に顔を上げ、必死の形相で命乞いを始めた。
「ま、待ってください! 偉大なる主よ! 俺を解体しないでくれ! 王都の汚職伯爵の地下倉庫に……遺跡から盗まれた聖遺物があります。運命をねじ曲げ、富のドロップ率を倍増させるアミュレットが……! 俺が案内します……!」
アレハンドロは漆黒の瞳を細めた。システムがその告白を処理し、網膜に新たなログを弾き出す。
【システム通知:新規サブクエスト検知】
・目的:伯爵邸から『混沌の幸運アミュレット』を強奪せよ。
・効果:システムガチャの確率を永続的に改変し、ドロップ率を40%上昇させる。
「有益な情報だ」アレハンドロは右手をかざし、ソシオパスの冷徹さで言い放った。「だが、ランクCの部下は生産性よりも消費マナの方が高い。クラススキル発動──『魂の収穫』」
アレハンドロの指先から濃密な紫と黒のエネルギーが噴出し、二十匹の召喚獣を容赦なく包み込んだ。そこに展開されたのは、単なる魔法の消滅ではなく、肉とマナの工業的な「破砕・液状化プロセス」だった。
十二匹のゴブリンは一瞬で骨粉の霧へと爆発し、スケルトンたちの肋骨は大気中で粉々に砕け散り、下級ヴァンパイアは生きたまま干からび、魂をアレハンドロの手の中へと直接吸い込まれながら押し潰された。その基礎ステータスは完全に解体され、ただの再利用可能な原材料(素材)として処理されていく。
網膜の中でシステムが黄金の通知と脳汁のフラッシュを大爆発させた。
【システム通知:規格外の破砕・還元完了】
・ランクF〜Cの召喚ユニット20体を工業解体しました。
・燃料獲得:インベントリ内ストック魂:+20。
・解体リサイクルによる基礎ステータス吸収ログ:
・死霊魔術出力:+18(永続加算)
・召喚効率:+5%(召喚マナコストの削減)
アレハンドロは漆黒のマナの息を吐き出した。血管を暴走する液状化された力の高揚感を感じながら、彼は完全に新しい犯罪ボスの役割へと適応していた。
「エレナ」半エルフの元ボスは、灰色のチュニックに付着したマナの残滓を払いながら命じた。「補正なしのガチャは資本の浪費だ。潜入計画を練れ。次に金貨一枚でも消費する前に、あの伯爵邸から『幸運のアーティファクト』を強奪する」
「了解しました、マスター」エレナは音もなく彼に近づき、人形のような硬さで告げた。「確率論的計算もその判断を支持しています。……ところで、私の定時データメンテナンスの時間が十二分遅延しています」
エレナはアレハンドロの手を掴み、自身の頭の上へと置いた。琥珀色の瞳を閉じ、三分間の頭撫でを待つ。その光景を見たリラは、槍を床に突き立て、大理石の床板を破壊しながら、独占欲に満ちた致命的な加虐の目を光らせた。
「倉庫であの仔狼の筋肉が鉄のようになるまで叩き直して差し上げますわ、お頭。あの伯爵の衛兵どもを皆殺しにできるよう、完璧な前衛にしてみせます」
アレハンドロのチュニックの影に潜むレベル22のレンは、終始無言でその光景を見つめていた。瞬き一つせず二十匹の配下を消し去り液状化した主の冷徹な計算をその脳細胞に刻み込み、絶対的な服従のコアを震わせる。
「二人とも静かにしろ」アレハンドロはエレナの銀髪を撫でながら、脳内のキャンバスに mansion への強奪計画を描いた。「明日の朝、錬金物質の研究所を稼働させる。もし聖堂教会やスカーレットの犬どもが、歓楽街の税金の滞りを調べに調査員を送り込んできたら、たった今収穫した二十の魂を使って、忘れられない歓迎をしてやるさ」




