5-3-28 強制捜査
シャドウの軌跡を追い続けた小桜と智絵里は、やがて一つの物流センターへ辿り着いた。
場所は繁華街から離れた、古びた倉庫街の一角だった。周囲に人の姿は少なく、夜の静寂の中で古い建物だけが取り残されたように佇んでいる。
入口には簡素な警備体制が敷かれていたが、小桜は周囲を確認すると、小さく魔力を流した。
「少し眠っていてもらうね」
淡い魔力の波が広がる。
二人の警備員は異変に気づく間もなく、その場に崩れるように眠りへ落ちた。
「古い施設だからか、警備もそこまで厳重じゃないみたい」
小桜はそう呟きながら、扉の錠へ手をかざす。
「……物理的な鍵ね」
魔法で無理に破壊するのではなく、構造を読み取りながら慎重に解除する。
小さな音を立てて鍵が外れると、扉がゆっくり開いた。
智絵里がスマホのライトを点ける。
倉庫内部は薄暗く、棚やコンテナが無秩序に並んでいた。
しかし、その奥へ進むにつれて、シャドウの数は増えていく。
過去の人間たちが歩んだ軌跡。
その終着点。
二人が辿り着いた場所には、大量の段ボール箱が積み上げられていた。
小桜が一つの箱を開ける。
中から現れたのは、高級ブランドのバッグや財布、靴の数々だった。
だが、それらには決定的な違和感があった。
本物にしか見えないほど精巧に作られている。
それでも、本物ではない。
「これが……偽造ブランド品の流通拠点ね」
小桜は静かに呟いた。
その場で写真を撮影し、すぐに警察へ通報する。
電話口から返ってきたのは、予想通りの回答だった。
『現場で待機してください。警察官を向かわせます』
小桜が通話を終えた直後、智絵里のスマホから声が響く。
アルシディアだった。
「警察を待つだけでは不十分ね」
「どういうこと?」
「この場所には、また関係者が戻ってくるのよ。証拠を持ち出されれば、追跡は困難になるわ」
「でも……警察に連絡したなら、すぐ来てくれるんじゃないの?」
智絵里の問いに、小桜は首を横に振った。
「そう簡単じゃないと思う」
「え?」
「私たちが見つけたのは、あくまで現場の状況と写真だけ。警察だって、確証のない情報だけで企業の施設に踏み込むことはできないはずよ」
小桜は積み上げられた段ボールへ視線を向ける。
「本当に偽造品なのか。誰が管理しているのか。確認するには正式な手続きが必要になる」
智絵里の表情が固まる。
「つまり、警察官を向かわせるって言ってたのは……」
小桜は少し苦い顔で頷いた。
「単に事情を聞きに来るってだけ」
その説明を聞いて、智絵里は納得しつつも、肩を落とした。
小桜は考え込んだ。
警察が来るまで待つ。
それが正しい手順なのは分かっている。
しかし、その間に相手が動けば、この証拠は簡単に消えてしまう。
「何か、もっと早く相手の動きを止める方法があれば……」
小桜が魔法で解決する方法を必死に考えていた、その時。
智絵里がふと顔を上げた。
「ねえ、それって……オラクルコードの真似をすればいいんじゃない?」
小桜は目を瞬かせる。
「オラクルコード?」
「ほら、あの人たちって、情報を広げて世間を動かすことがあるでしょ。だったら今回も、ここに偽造品の倉庫があるってことを広めれば……」
智絵里はスマホを軽く掲げた。
「警察だけじゃなくて、みんなが注目する」
その言葉に、小桜はしばらく智絵里を見つめていた。
思い詰めるたび、思いも寄らない角度から道を示してくれた親友の姿が、一瞬だけ胸をよぎる。
「……なるほど」
小桜は小さく笑った。
「魔法だけじゃ届かないなら、この時代の力を借りればいいんだね」
智絵里は首をかしげる。
「え、何?」
「ううん。やってみる価値はある」
その笑顔を見た智絵里も、つられるように笑った。
「そういうことなら、このインフルエンサーに任せて!」
そう言うと、彼女は迷うことなくスマホを操作し始めた。
偽造品の写真。
倉庫の情報。
そして、注目を集めるための短い文章。
『違法な偽造ブランド品の倉庫を発見? 突撃調査したら大スクープになるかも』
投稿は瞬く間に広がっていった。
智絵里と繋がりのあるインフルエンサーたちが反応し、それぞれのフォロワーへ情報を拡散していく。
匿名の噂だったものが、わずかな時間で社会の注目を集める事件へ変わっていく。
物流センターの名前がネット上を駆け巡る。
そして、世間の目が集まった以上、警察も静観することはできなかった。
—-
偽造品の第一便を運び終えた月奈たちは、次の指示を受けるため物流センターへ戻っていた。
しかし、そこで待っていたのは予想外の光景だった。
施設の周囲には警察車両。
入口には規制線。
そして内部では、捜査員たちが段ボール箱を一つずつ確認している。
「……何、これ」
月奈の足が止まる。
積み上げられていた偽造ブランド品は、すでに証拠品として押収され始めていた。
自分たちが出発してから、まだそれほど時間は経っていない。
それなのに。
「いつ……警察が動いたの?」
小夜が呆然と呟く。
彼女の視線の先では、捜査員たちが淡々と作業を続けていた。
偶然ではない。
誰かが、この場所を知っていた。
誰かが、自分たちより先に動いていた。
「私たちを追い詰めた相手……」
小夜は声を落とす。
「一体、何者なの?」
月奈は答えられなかった。
倉庫内に響く警察無線の声。
押収品を運び出す車両の音。
それら全てが、自分たちの知らないところで何か巨大な力が動いていたことを示していた。
「お金のためだけに敵に回すには……相手が悪すぎるわね」
沈黙を破ったのは美玲だった。
いつもの軽い調子ではない。
そこには、隠しきれない警戒が滲んでいた。
物流センターを後にする頃には、誰一人として口を開かなかった。
今回は運が悪かった──そう割り切るには、あまりにも不可解な出来事が多すぎた。
その得体の知れない相手と、またどこかで向き合うことになる。
そんな予感だけが、静かに胸に引っ掛かっていた。
ブクマで小桜たちの応援をお願いします!




