表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/66

5-1-8 美玲2

美玲は、相変わらずホストクラブへ通い続けている。


だが、紹介バイトで借金は少しずつ返済できるようになったものの、以前のようには稼げなくなっていることを肌で感じ始めていた。


SNSを開いても、見込み客からの反応は鈍い。


ようやく興味を示した相手も、気づけば別のホストクラブへ流れてしまうことが増えていた。


「また取られた……」


画面を見つめ、美玲は小さく舌打ちする。


最近はライバル店のアカウントが目立つようになり、自分が目を付けていた相手へ次々と接触しているようだった。


「なんであたしが見つけた子ばっかり狙うのよ……」


もちろん偶然なのかもしれない。


それでも、美玲には自分の獲物を横取りされているようにしか思えなかった。


そんなある日。


何気なくSNSのタイムラインを眺めていた美玲は、一つのアカウントへ目を留めた。


「……え?」


思わず画面を見返す。


名前は少し違う。


だが、投稿の文面も、客との距離の詰め方も、信用させる流れも、どこか見覚えがあった。


「あいつ……?」


それは、かつて自分をホストクラブへ誘った紹介者と、よく似たアカウントだった。


違っていたのは一つだけ。


今その人物が勧めているのは、自分が通う店ではなく、別のホストクラブだった。


「……は?」


美玲の胸に、言いようのない怒りが込み上げる。


あいつのせいで、自分はここまで落ちた。


それなのに本人は、何事もなかったように別の店へ客を送り込み、また誰かを同じ沼へ引きずり込もうとしている。


「何それ……」


胸の奥がざわついた。


「ふざけんじゃないわよ。人をハマらせといて、自分だけ次の店?」


だが、その苛立ちはすぐ苦いものへ変わった。


紹介料が高ければ、自分だって同じことをするかもしれない。


そんな考えが頭をよぎり、余計に腹が立つ。


「……話くらい聞いてやろうじゃない」


美玲は二台のスマートフォンを机へ並べた。


片方は普段使っているもの。もう片方は紹介用のアカウントを管理している端末だ。


「今度は逆ね」


小さく笑い、美玲は新しいアカウントを作り始めた。


ホストクラブへ興味はある。でも少し怖い。


そんな、ごく普通の女性を演じる。


『素敵なお店なんですね。でも少し不安です……』


『興味はあるんですけど、騙されたりしませんか?』


相手はすぐに返信してきた。


警戒心を解くように優しく言葉を重ね、少しずつ距離を縮めてくる。


美玲は内心でほくそ笑んだ。


(その手には乗らないわよ)


どれも、自分が何度も使ってきた手口だった。


だから相手の考えも読める。


会話を続けるうちに、自然な流れで会う約束が決まった。


『詳しくお話しします』


送られてきた待ち合わせ場所を見て、美玲は満足そうに頷く。


「……これで正体が分かる」


問い詰めてやる。


どうして店を乗り換えたのか。


どういうつもりで客を集めているのか。


それだけ聞ければ十分だった。


自分も似たようなことをしているという事実には、あえて目を向けない。


その日、美玲は約束の場所へ向かった。


待ち合わせ場所は繁華街から少し外れた、人通りの少ない裏通りだった。


指定された時間に着いても、周囲にはそれらしい女性の姿はない。


「……あれ?」


違和感を覚えた、その時だった。


「おい」


低い声が背後から飛ぶ。


振り向くと、数人の男が路地の入り口を塞ぐように現れた。


誰一人笑っていない。


そのうちの一人が、刃物を指先で弄びながら口元を歪める。


「ようやく尻尾を掴んだ」


美玲の背筋が凍った。


会う約束をした紹介者の姿は、どこにもない。


代わりに現れたのは、この男たちだった。


その瞬間、美玲は悟る。


自分は相手を探っているつもりだった。


だが、本当に探られていたのは、自分の方だったのだ。


「な、何の話ですか……!」


必死に平静を装うが、声は震え、足も思うように動かない。


男は鼻で笑った。


「うちの客を横取りして、他所へ流してたそうじゃねぇか」


その言葉を聞いた瞬間、美玲は息を呑んだ。


──そういうことだったのか。


あの紹介者は、一人で動いていたわけではない。


店の裏には、それを管理する危険な連中がいて、自分はその縄張りへ自ら踏み込んでしまったのだ。


「全部調べはついてる」


その言葉に、美玲の恐怖は一瞬だけ怒りへ変わった。


「はあ!? あたしの客を横取りしたのは、そっちじゃない!」


思わず言い返した、その瞬間だった。


男の顔から笑みが消える。


「……あ」


美玲は青ざめた。


まずい。完全に怒らせた。


「……今、何て言った?」


空気が張り詰める。


「もう一回言ってみろ」


男はゆっくり歩み寄る。


「俺たちが横取りした、だと?」


後ろの男たちも表情を険しくし、一斉に距離を詰め始めた。


「ずいぶん威勢がいいじゃねぇか」


「こっちは穏便に済ませるつもりだったのによ」


吐き捨てるような声だった。


男たちはゆっくりと距離を詰めてくる。


逃げようにも、背後は袋小路だった。


そう悟った瞬間、美玲の背中を冷たい汗が伝った。


男の一人が刃物をちらつかせる。


「商売の邪魔をした落とし前は、つけてもらう」


美玲は思わず後ずさる。


足がもつれ、壁へ背中を打ちつけた。


(やばい……)


本当にまずい。


今まで感じたことのない恐怖だった。


その時だった。


ポケットの中で、二台のスマホが同時に震え始める。


短く、鋭く。

ブクマで月奈たちの応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ