5-3-23 流通の拠点
「かかったな」
小桜のスマホから響いた声に、智絵里は肩を軽く震わせた。
画面の中では、黒猫を模したエンブレム──魔導AIグラビティウムが静かに浮かんでいた。
その無機質な意匠からは不思議なほど、どこか得意げな雰囲気が感じられる
「関東一円で偽造ブランド品を卸している可能性のあるオンラインストアを調査していた。その中で、監視対象の一つが大量入荷セールの告知を出した」
グラビティウムがそう言うと、スマホの画面に複数のサイトが表示された。
店舗情報、販売履歴、利用者の口コミ。そこには、表向きは一般的な通販サイトに見えるものから、過去の取引に不自然な点があるものまで、いくつもの情報が整理されている。
その中でも特に目立つ一件があった。
「新宿区が拠点……」
小桜が画面を覗き込む。
表示されている店舗情報では、新宿区内の住所が販売拠点として登録されていた。
「新宿区が拠点ってことは、そこを潰せば終わりなんじゃないの?」
智絵里が尋ねると、グラビティウムは静かに首を横へ振った。
「恐らく、そこへ踏み込んでも黒幕を引きずり出すことはできまい。店舗はただの仮面だ。本当に重要なのは、その裏にある流通経路だ」
「流通の拠点は別にあるってこと?」
「その可能性が高い。表に出ている販売店舗だけで大規模な流通を維持するのは不自然だ」
グラビティウムの分析を聞き、小桜は迷うことなく答えた。
「だったら、その拠点ごと見つければいいのよ」
「どうするの?」
智絵里が少し身を乗り出す。
小桜は画面を見つめたまま、静かに答えた。
「リアル店舗を張り込む」
「何か刑事みたい……」
智絵里は苦笑する。
「で、張り込んで何を見るの?」
「大量入荷を告知した以上、商品は近いうちに動くはず。偽造品を抱えたままにしておく理由はないもの」
小桜は店舗情報を指でなぞる。
「目立つ行動をした直後だからこそ、相手も何か動きを見せる可能性が高い。そこを見逃さなければ、流通の先を追える」
智絵里は納得したように頷いた。
しかし、すぐに少しだけ眉をひそめる。
「でも、グラビティウムの話だと、店舗から先を追うのは難しいんじゃない?」
「だからこそ、私たちが見るの」
小桜は自信ありげに笑った。
「任せて。マスター・ウィザードの腕前を見せてあげる」
小さく力こぶを作る小桜の姿に、智絵里は思わず笑い、彼女の肩を軽く叩いた。
「そういうところ、本当に変わらないね」
—-
翌日。
小桜の読み通り、動きはあった。
ブランド品の大量入荷セールを告知した店舗を張り込んでいると、智絵里のスマホに宿る魔導AIアルシディアが、数時間先の未来を映し出した。
「……おかしな人影が増え始めたわ」
智絵里は映像を確認しながら、静かに告げる。
「どう見ても普通の納入業者じゃない」
小桜も画面を覗き込む。
そこに映っていたのは、大型トランクを引いた複数の人物だった。
彼らは周囲を警戒しながら、店舗裏の倉庫へ次々と荷物を運び込んでいる。
「まさか、人力で運んでくるなんて……」
小桜は驚いた表情を浮かべる。
しかし、すぐに別の可能性へと思考を切り替えた。
「……いや。だからこそ分かることがある」
「分かること?」
智絵里が問い返す。
「これだけの荷物を人が運ぶなら、移動距離は限られるはず。港や遠方の倉庫から直接運ぶ方法じゃない」
小桜は映像を見ながら続けた。
「つまり、流通拠点は新宿から電車やバスで移動できる範囲にある可能性が高い」
「なるほど……」
智絵里も納得したように頷く。
「グラビティウム、候補を絞り込んで」
「了解した」
グラビティウムの声が少し弾む。
「現時点で可能性が高い地域は、板橋区、練馬区、大田区、江東区だ。いずれも交通網が整っており、都心部への配送拠点として利用しやすい」
「でも、それだとまだ広すぎるわね」
小桜が考え込む。
すると智絵里が映像を見返しながら口を開いた。
「大きな物流センターなら、逆に目立つんじゃないかな」
「確かに」
小桜は頷く。
「人目につかない規模の施設……でも、都心へ運びやすい場所」
「そうなると――」
グラビティウムがすぐに答えを導き出す。
「足立区が候補になる。物流施設が多く、比較的小規模な拠点も点在している。規模を隠しながら流通を行うには都合が良い」
「悪くないかもね」
小桜は画面に表示された地図を見つめる。
智絵里が尋ねた。
「でも、そこからどうやって具体的な移動ルートを特定するの?」
小桜は意味ありげに微笑んだ。
「良い方法を思いついたわ」
倉庫へ集められる怪しいトランク。
その先に繋がる闇の流通網を追うため、小桜と智絵里、そしてグラビティウムは次の一手へ動き出した。
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