5-3-20c 組織の仕事
月奈、小夜、美玲の三人は、葉山から待機を命じられて以来、久しぶりに静かな日々を過ごしていた。
奈良での危険な任務を終えた直後こそ、ようやく休めると胸を撫で下ろしたものの、その待機期間は予想以上に長かった。
何もしない時間は、彼女たちにはあまりにも落ち着かない。
その日も三人は、それぞれの部屋でビデオチャットを繋いでいた。
月奈はスマホをペットボトルに立て掛け、小夜は机のスマホスタンドに固定し、美玲は片手にスマホを持ったまま、気だるそうに画面を覗き込んでいる。
「最近、ほんと暇だよね」
美玲が大きく欠伸をしながらぼやく。
机の上には食べ終えたカップ麺の容器がいくつも積まれ、本人も片付ける気はないらしい。
「お金も尽きそうだし、そろそろ次の仕事が欲しいんだけど」
「そうね」
小夜も小さく頷いた。
「葉山さんがこんなに連絡寄越さないなんて珍しいな」
声色はいつも通り淡々としているが、その一言には生活への焦りが滲んでいる。
「で、前回の報酬はどうしたの?」
月奈が尋ねる。
椅子へ深く座り、足を机へ投げ出したままの気楽そうな姿勢だったが、その表情はどこか冴えない。
「返済に全部消えた」
「私も。ほとんど借金の返済。残った分も生活費で終わり」
小夜はそっけなく答え、美玲は肩をすくめた。
月奈も苦笑するしかない。
自分の財布事情も、人のことを笑えるようなものではなかった。
「みんな同じか……」
その呟きに、誰も返事をしない。
三人とも、それが現実だった。
ふと会話が途切れる。
ビデオチャットの片隅で流れていたニュース映像が切り替わり、速報のテロップが大きく表示された。
『京都・愛宕神社 全焼』
「何それ?」
月奈が画面へ目を向ける。
「また放火か何かでしょ」
美玲は興味なさそうに答えた。
「そんな感じね。でも京都でそんな騒ぎがあったなんて、初耳だわ」
小夜も一瞬だけ画面を見つめる。
美玲が「暗いニュースはいいや」とチャンネルを切り替えた。
その火災が、自分たちの探していた魔法遺物を巡る戦いだったことなど、知る由もない。
「とにかく、待っててもお金は増えないし」
月奈はビデオチャットを小窓に移動させ、電話アプリの呼び出しボタンを押した。
「葉山さんに連絡取ってみようか。何か仕事あるかもしれない」
だが返ってきたのは、無機質な自動応答だけだった。
しばらくすると、ノクターナル本部のオペレーターへ転送される。
「現在、葉山は京都に出張中です。連絡をご希望の場合は──」
「京都?」
月奈は思わず眉をひそめ、電話アプリのマイクをミュートした。
「あの神社のニュースと関係あるのかな?」
「さあね。こっちには何も連絡ないし」
小夜は肩をすくめる。
「葉山さんのことだから、全然別件じゃない? 接待とか」
美玲の軽口に、月奈も苦笑した。
少しだけ考え込んだあと、小さく首を振る。
「それより」
再びマイクをオンにする。
「直接そちらに聞きたいんですけど、何か仕事ってありますか?」
少々お待ちください──。
保留音が流れる。
「葉山さん飛ばして直接?」
小夜が意外そうに目を丸くした。
「だって、お金が必要なんだもん」
月奈はあっさり答える。
「葉山さんが京都で忙しいなら、自分から動くしかないでしょ」
その口調は軽い。
だが、待っているだけでは何も変わらないという覚悟だけは伝わってきた。
「まあ、それもそうか……。あたしもそろそろ借金の督促が怖いし」
美玲が苦笑する。
「無茶だけはしないでよ」
小夜が釘を刺す。
「分かってるって」
月奈は笑って受け流した。
やがて保留音が切れ、オペレーターが戻る。
「今でしたら、物資輸送の任務がございますが──」
三人は顔を見合わせた。
葉山を介さず、自分たちだけで仕事を請ける。
彼女たちは、それを少しだけ賢いやり方だと思っていた。
その判断が、後になってどれほどの代償を伴うのか、この時の彼女たちは知る由もなかった。
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