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5-3-12 火神乱舞:フェーズ0

次第に、愛宕神社の境内を覆っていた祝詞は乱れ始めていた。


厳かな祈りの声は次第にざわめきへと変わり、人々の間には隠しきれない動揺が広がっていく。


その異変を察した昂弥は境内へ駆け戻り、その後を追うように聖奈たちも石段を駆け上がった。


「何が起きているの……?」


境内へ足を踏み入れた聖奈は、思わず息を呑む。


境内の中央では、巨大な篝火を囲むように大勢の神職たちが祝詞を唱え続けていた。


しかし、その炎はすでに人の火ではなかった。


赤黒い炎は渦を巻きながら天へと立ち昇り、境内全体を焼くような熱波を放っている。


昂弥の顔色が変わる。


「これは……火神ヒノカグツチが……!」


その瞬間だった。


轟音とともに炎が大きく膨れ上がり、その中心から一つの人影がゆっくりと姿を現す。


まだ幼さの残る少年だった。


だが、その瞳が開いた瞬間、境内の空気が灼けつく。


少年は獣のような咆哮を響かせると、手にした剣を大きく振り払った。


次の瞬間、剣先から放たれた無数の炎が境内へ降り注ぐ。


社殿。


神木。


石畳。


触れたものすべてが爆ぜるように燃え上がり、炎は瞬く間に境内全体へ広がっていった。


「鎮めの札はどうした!」


「止めろ! 祈祷を止めるんだ!」


「もう無理だ!」


「逃げろ! 逃げろ!」


先ほどまで神を迎えようとしていた神職たちは完全に恐慌状態へ陥り、祝詞は悲鳴へと変わる。


人々は我先にと境内から逃げ出し、押し合いながら石段へ殺到した。


昂弥も我に返り、叫ぶ。


「このままじゃ神社が……何とかしないと!」


式神へ避難誘導を命じると、自らも炎へ飛び込み必死に鎮火を試みる。


だが、ヒノカグツチの炎は人の火とは違う。


術を重ねても、水を浴びせても、炎は揺らぐことすらなく燃え続けた。


その様子を見渡した杏子は、一瞬で状況を整理する。


逃げ惑う神職たち。


燃え広がる炎。


そして境内の中央で荒れ狂う火神。


迷いなく口を開いた。


「愛蓮、彼らを守りながら避難させて。放っておいたら巻き込まれて死ぬわよ」


「わ、わかりました!」


愛蓮は即座に《白羊の盾》を展開し、巨大な防壁で逃げ遅れた神職たちを守りながら境内の外へ誘導し始める。


杏子は続いて神代の鞘を握り締め、ゆっくりとヒノカグツチを見据えた。


「杏子……まさか、本当に戦うつもり?」


聖奈の問いに、杏子は視線を逸らさない。


「当たり前でしょ。このまま放っておいたら、神社どころか、この辺一帯が焼け野原になるわ」


「でも、火の神に火属性の武器なんて……相性が悪すぎるよ!」


聖奈の不安を聞いても、杏子は口元をわずかに緩めるだけだった。


「だから?」


神代の鞘へ静かに手を添える。


「少しくらい相性が悪いからって逃げるのは、弱いやつのすることよ」


杏子は口元をわずかに緩めた。


その表情に恐れはない。


聖奈は思わず息を呑む。


その頃、昂弥は式神への指示を終えると、杏子のもとへ駆け寄った。


「俺も戦わせてくれ!」


炎を見据えたまま叫ぶ。


「これは愛宕神社が引き起こした問題だ。俺が何とかしなければ……!」


杏子は一度だけ昂弥へ視線を向ける。


その真っ直ぐな目を見た瞬間、思わず顔をしかめた。


「……嫌なこと思い出したわ」


小さく吐き捨てるように呟いてから、肩をすくめる。


「あんた、私の妹みたいなこと言うのね」


「何……?」


意味が分からず昂弥は眉をひそめる。


杏子はそれ以上説明する気もなく、気持ちを切り替えるように話を続けた。


「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私は杏子。こっちは聖奈」


杏子は昂弥を数秒見つめ、小さく息を吐く。


「昂弥。あんたも編成に加えるわ。私たちが前へ出る。その隙に動きなさい」


昂弥は深く息を吸い、力強く頷いた。


「……よろしく頼む」


その間にも、ヒノカグツチは炎を撒き散らし続ける。


幼い姿とは裏腹に、その一振りごとに社殿は崩れ、木々は燃え、熱風が山全体を揺らした。


「何て……酷いことを……」


聖奈が震える声を漏らす。


するとヒノカグツチがゆっくりと三人へ顔を向けた。


怒りに満ちた咆哮が境内を震わせる。


その圧倒的な神威を真正面から受けながらも、杏子だけは一歩も退かなかった。


神代の鞘から《獅子の剣》を抜き放ち、静かに微笑む。


「準備はいい?」


その瞳は獲物を見据えるように細められる。


「あの神、相当手強いわよ」


聖奈は深く息を吸い込み、スマホへ視線を落とした。


「もちろん! ブラゼリオン、お願い!」


呼びかけに応じるように光が集まり、彼女の手にも《獅子の剣》が顕現する。柄を握り直すと、その剣身には再び獅子の炎が宿った。


昂弥は静かに札を構えた。


「やるしかない!」


人の理を超えた火神と、それに挑む三人。


愛宕山を舞台とした神との戦いは、ここから真の幕を開ける。


ブクマで聖奈たちの応援をお願いします!

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