表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
58/74

5-3-3 愛宕山の刺客1

京都駅の喧騒の中、聖奈たちは人波をかき分けるようにバスターミナルへ向かっていた。国内外から集まった観光客が絶え間なく行き交い、構内にはアナウンスと足音が重なり合う。


その雑踏から少し離れた柱の陰では、一組の男女が、彼女たちの姿を静かに見つめていた。


大柄な男が低く落ち着いた声で呟く。


「若い女三人組。特徴も一致しているな」


隣に立つ細身の女は目を細め、聖奈たちへ鋭い視線を向けた。


「ああ、間違いないわ。あの三人、物の怪みたいな存在感を放ってる。あいつらが尾飾りを奪った連中よ」


男は無言で頷き、短く告げる。


「追跡は任せたぞ、霞」


霞は口元をわずかに緩めた。


「了解。あなたは先回りして、鋼」


二人が別れようとした時、霞が思い出したように声をかける。


「昂弥様への報告も忘れないで、鋼」


「承知している、霞」


それだけ言葉を交わすと、鋼は一歩後ろへ下がり、人混みへ溶け込むように姿を消した。


霞もまた、影が形を変えるような自然さで歩き出す。


聖奈たちは、自分たちへ向けられる視線にまるで気づいていない。


だが、その背後では静かに、確実に包囲の網が狭まり始めていた。


—-


愛蓮はスマホを操作しながら、愛宕神社までの経路を調べていた。


「行き方はいくつかありますね」


画面を見せながら説明する。


「一つは近鉄からJRに乗り換えて最寄り駅まで行き、そこから徒歩で神社へ向かうルートです。もう一つは、駅前のバスターミナルからバスに乗って表参道へ入るルートですね」


「どっちも最後は歩くの?」


聖奈が覗き込む。


「はい。どちらも最終的には二時間くらい山道を歩くみたいです」


「表参道って聞くと、そっちの方が歩きやすそうだけど」


聖奈がそう言うと、愛蓮はバスの時刻表へ視線を移した。


「あ……でも、一時間に一本しかありません。それに、ちょうど今出たばかりですね」


「だったら電車で行きましょう」


杏子は待つことなど最初から選択肢にないという口調で言った。


愛蓮は少し考え込む。


「でも電車のルートだと、神社までの道があまり整備されてないかもしれませんよ。杏子さん、車の運転とかは……」


杏子は平然と答える。


「運転免許なんて取ったことはないけど、車ぐらいやろうと思えば動かせるわよ」


そこで少しだけ肩をすくめた。


「ただ、道が吹き飛んで車が残らないかもしれないけどね」


その口調は軽い。


しかし、本人だけは少しも冗談を言っているつもりではなかった。


「それは遠慮したいかな……」


聖奈は苦笑しながら肩を落とす。


「二時間歩くんだし、少しでも早く出発した方がいいんじゃない?」


異論は出ず、一行は電車で向かうことに決まった。


—-


柱の陰からその様子を見届けていた霞は、小さく目を細める。


「バスじゃないのか……」


ほんのわずかに舌打ちする。


だが、すぐに表情を戻した。


「まぁ、想定内」


そう呟くと、彼女もまた人波へ紛れ、三人の後を追い始めた。


—-


近鉄からJRへ乗り継ぎ、聖奈たちは愛宕神社の最寄り駅へ到着した。


駅前には車道が広く伸び、しばらくは歩きやすい舗装路が続いている。


「案外、歩きやすい道じゃない?」


聖奈が前を歩きながら笑う。


「そうね。これなら二時間って言われても何とかなりそう」


杏子も軽い調子で応じた。


だが、その印象は長く続かなかった。


住宅が途切れ、道路は次第に細くなる。


いつの間にか勾配も急になり、前方には長い上り坂が続いていた。


「ここから登山道でしょうか……」


愛蓮が地図と現在地を見比べながら、不安そうに呟く。


「まあ、これくらいなら運動不足の解消にはちょうどいいんじゃない?」


杏子はそう言って先へ進む。


さらに坂を登ると、舗装路はそこで終わっていた。


目の前には木々が生い茂る山道が続き、湿った土の匂いが風に混じる。


鳥のさえずりだけが森に響き、人の気配はほとんどない。


「この道、本当に整備されてるって言えるのかな……」


聖奈が苦笑混じりに漏らした。


「ハイキングだと思えばいいのよ」


杏子は軽口を返すものの、その額には汗が滲み始めている。


山道は思った以上に険しかった。


傾斜は少しずつ急になり、足元には木の根が張り巡らされ、湿った石が滑りやすくなっている。


三人の呼吸も徐々に荒くなっていった。


特に運動習慣のない愛蓮は、次第に歩幅が小さくなり、少しずつ遅れ始める。


「ごめんなさい……」


申し訳なさそうに息を切らす愛蓮へ、聖奈はすぐ引き返した。


「気にしないで!」


そう言って手を差し伸べる。


「もう少しで次のポイントまで行けるはずだから」


愛蓮はその手を借りながら、小さく頷いた。


「……はい」


それでも山道は容赦なく続いていく。


杏子も黙々と歩いていたが、不意に歩みを止めた。


「妙ね」


「どうしたの?」


聖奈が振り返る。


杏子は周囲をゆっくり見回した。


「歩き始めて二時間近く経つのに、景色が変わらない」


その言葉に聖奈も辺りを見渡す。


言われてみれば、目に映る景色はどこまでも同じだった。


似たような杉林。


似たような曲がり角。


似たような坂道。


どれだけ歩いても、どこか同じ場所を巡っているような違和感がある。


—-


少し離れた木立の陰から、その様子を霞は静かに眺めていた。


口元には薄い笑みが浮かんでいる。


「もっと迷いなさい……」


誰にも聞こえないほど小さく呟くと、霞は再び木々の間へ身を潜め、静かに次の行動の準備を始めた。


ブクマで聖奈たちの応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ