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5-2-27 始まりの地、奈良

スサノオの神社を後にした杏子、聖奈、愛蓮の三人は、山道を下りながら次の手掛かりについて話し合っていた。


「腕輪の主……どこへ向かったんだろう?」


静かな山道を歩きながら、聖奈がぽつりと呟く。


杏子は腕を組み、しばらく考え込んでから口を開いた。


「もし巨蟹の腕輪の持ち主も、私たちと同じように神代の遺物を探しているとしたら……もう島根にはいないかもしれないわね」


その言葉に、愛蓮が顔を上げる。


「それなら、他に神様がいそうな場所を探しますか? 奈良とか京都、それに伊勢とか」


「奈良……」


聖奈はその名を聞いた瞬間、小さく目を見開いた。


「そういえば私、獅子の剣に初めて会ったの、奈良の春日大社の原始林を散策していた時だった」


杏子と愛蓮が同時に聖奈へ視線を向ける。


少し照れくさそうに笑いながら、聖奈は続けた。


「その時は獅子の剣が突然現れて、それどころじゃなかったんだけど……」


記憶を辿るように空を見上げる。


「でも、あの場所だけ空気が違ったのは覚えてる。普通じゃない感じがしたの」


獅子の剣も静かに応じる。


「確かに。今思えば、あのただならぬ気配は神のものだったのかもしれん」


その言葉を聞き、聖奈は静かに頷いた。


「もう一度、行ってみたい」


その声には迷いがなかった。


「今なら、あの時とは違う景色が見える気がする」


杏子は小さく微笑む。


「OK。じゃあ次の神様に会いに行きましょう」


「はい」


愛蓮も力強く頷いた。


三人は目的地を奈良へ定め、その日のうちに春日大社へ向かった。


—-


奈良へ到着した三人は、春日大社の鳥居をくぐり、木漏れ日の降り注ぐ参道を歩いていた。


深い森に囲まれた参道には独特の静けさが満ちている。


風が枝葉を揺らし、遠くで鹿の鳴き声が響く。


人の姿はある。


それでも、この場所だけは街とは切り離された別世界のようだった。


「春日大社には、どんな神様が祀られてるの?」


聖奈が尋ねる。


愛蓮はスマホを取り出し、検索画面へ目を落とした。


「えっと……主祭神は、タケミカヅチという軍神みたいです」


「軍神ね……」


杏子は少しだけ顔をしかめる。


「厄介そうな相手だわ」


獅子の剣もどこか面白そうに笑う。


「確かに、頭の固い神ならお前との相性は悪そうだ。今回は大人しくしている方がいいんじゃないか?」


杏子は苦笑しながら鞘を軽く叩いた。


「言ってくれるわね。でも、大人しくしてろって言われて聞くと思う?」


「思わんな」


即答する獅子の剣に、愛蓮が思わず吹き出す。


「もう……神様の前では喧嘩は無しにしましょう」


その一言に三人の表情が少しだけ和らいだ。


やがて聖奈の案内で、獅子の剣が発見された原始林へ足を踏み入れる。


木漏れ日が深い緑を照らし、澄んだ空気が辺りを満たしていた。


森の奥には、一つの大きな岩が静かに佇んでいる。


「ここ」


聖奈が足を止める。


「あの岩に、獅子の剣が刺さっていたの」


杏子と愛蓮は岩へ近付き、静かに見上げた。


その瞬間だった。


森を吹き抜けていた風が、不意に止む。


木々のざわめきも消え、辺りを満たしていた鳥の声さえ途絶えた。


まるで森全体が息を潜めたかのような静寂。


その異様な気配に、三人は思わず身を固くする。


岩へ視線を戻した、その時だった。


そこには、一人の男が立っていた。


いつ現れたのか、誰も気付かなかった。


純白の鎧をまとい、腰には巨大な剣を携えたその姿は、一切の隙を感じさせない。


鋭い眼差しだけで空気が張り詰め、近寄ることすらためらわせる威厳があった。


ただそこに立っているだけで、この場の支配者が誰なのかを理解させられる。


男が静かに口を開く。


「性懲りも無く、再びここへ現れるとは」


低く響く声が森へ広がる。


「何を企んでいる」


その一言だけで胸の奥が震えた。


聖奈は息を整え、一歩前へ出る。


「あなたは……タケミカヅチ様ですか?」


男は微動だにしない。


「その通りだ」


短く答えると、その視線は聖奈ではなく獅子の剣へ向けられた。


「だが、お前たちに問いたい」


一拍置き、静かに続ける。


「一度は持ち去ったはずの異世界の危険物を、なぜ再び持ち込もうとする」


その声音には、強い警戒が滲んでいた。


獅子の剣が静かに応じる。


「危険物というのは私のことか。私を脅威と見なすのは理解できる。しかし、平穏を乱す気など毛頭ない。この者たちに手を貸し、平和な未来を切り開こうとしているだけだ」


「平和な未来?」


タケミカヅチの表情は少しも揺るがない。


「そんな大層な言葉で誤魔化されると思うな。この世界の平穏は脆い。異世界の力こそ脅威だ」


その低い声が響いた直後だった。


遠くで、空が低く唸る。


晴れていたはずの空から聞こえた重い雷鳴に、聖奈たちは思わず顔を上げた。


雲は見当たらない。


それでも、神域全体が何かに息を潜めるような緊張に包まれていく。


タケミカヅチは視線を逸らさない。


「それに、お前たちはまだ答えていない」


その声が一段と低くなる。


先ほどより近い雷鳴が山々へ反響し、森の木々がざわめいた。


まるで神の怒りに呼応するように、大地まで微かに震え始める。


タケミカヅチの瞳が鋭く細められた。


「再び現れた目的は何だ」


返答はない。


その沈黙が、さらなる怒りへ火を注ぐ。


次の瞬間──


眩い閃光が原始林のすぐ近くを貫き、鼓膜を打ち抜くような轟音が境内を揺るがした。


稲妻が地面へ突き刺さり、衝撃で木々が大きく軋む。


聖奈と愛蓮は思わず身をすくめ、杏子も反射的に目を細めた。


「再び現れた目的は何だ!」


雷鳴すらかき消す怒声が森へ轟き、神域そのものが震えた。


ブクマで聖奈たちの応援をお願いします!

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