5-2-1 島根出雲大社
葉山から指示を受けた月奈たちは、詳しい説明もないまま島根へ向かうことになった。
葉山は具体的な目的地を告げず、「現地で調査して手がかりを掴め」としか言わない。何を調べ、どこまで踏み込めばいいのかも曖昧なままで、その指示だけでは何とも要領を得なかった。
「現地へ行けば分かるってことじゃない?」
小夜はあっさりと言って荷造りを進め、美玲も「考えても仕方ないでしょ」と肩をすくめる。
結局、三人は釈然としない思いを抱えたまま飛行機へ乗り込んだ。
「島根っていえば、やっぱり出雲大社だよね!」
機内で小夜が自信満々に言うと、美玲も頷いた。
「観光客も多いし、紛れるには丁度いいわね。宿も近場に取れるだろうし」
すでに二人は、小旅行の計画を立てるような調子で話を弾ませている。
一方、月奈は窓の外へ広がる雲海を眺めながら、葉山の曖昧な指示を思い返していた。
「なんで目的をはっきり言わないんだろう。やっぱり何か隠してるのかな……」
そう考えたところで答えは出ない。
結局、自分たちは言われた通り動くしかないのだ。
島根へ到着した一行は宿へ荷物を預け、その足で出雲大社へ向かった。
初日は情報収集も兼ねて境内を歩いてみることにする。とはいえ、周囲から見れば普通の観光客と変わらない。
広々とした境内には大小さまざまな社が建ち並び、松並木の間を大勢の参拝客が行き交っていた。土産物を手に歩く人や、巨大なしめ縄の前で記念写真を撮る家族連れを眺めていると、自分たちまで旅行に来たような気分になる。
そんな中、小夜は早くもスマホで調べた知識を披露し始めた。
「ここ、出雲大社の本殿はオオクニヌシを祀ってるけど、スサノオの話も関係してるんだよね。昔、スサノオがオオクニヌシを試した話とかさ」
「まあ、神話の話でしょ?」
美玲はやや冷めた口調で応じたが、小夜はまったく気にしない。
「でもさ、もし今回の魔法遺物が草薙の剣だったらどうする? スサノオがヤマタノオロチを倒した時に現れた伝説の剣だよ!」
その言葉に月奈も一瞬だけ期待を抱いた。
しかし、すぐに現実的な疑問が頭をよぎる。
「草薙の剣って確か愛知県じゃないの? 熱田神宮にあるって聞いたことあるけど」
「あ、そうか……」
小夜は苦笑いを浮かべながら肩を落とした。
「いきなり当たりを引けるほど甘くないか。」
そんな他愛ないやり取りを交わしながら歩いているうちに、調査というより修学旅行の自由行動のような時間が過ぎていった。
翌日、葉山から新たな指示が届いた。
『スサノオを祀る神社を探せ』
届いたメッセージは、それだけだった。
「また情報が増えたようで増えてないね」
小夜が画面を見ながら苦笑する。
「まあ、昨日よりは前進したんじゃない?」
美玲も深く考える様子はない。
月奈だけが、小さくため息をついた。
「もう少し詳しく教えてくれてもいいのに……」
それでも、今は指示に従って動くしかない。
三人は最初の候補として、出雲大社本殿の奥にある素鵞社へ向かうことにした。
素鵞社はスサノオを祀る社として知られ、本殿のすぐ裏手、八雲山の麓にひっそりと建っている。
本殿周辺ほどではないものの、参拝客の姿は絶えない。静かな空気の中にも、人々が思い思いに手を合わせ、境内を巡る穏やかな時間が流れていた。
参道を歩くと、背後には堂々とした本殿が見え、その先には神域として守られてきた八雲山が静かにそびえている。
「ここが素鵞社ね。スサノオを祀ってるっていう場所だけど……」
月奈は社を見上げながら呟いた。
「禁足地の山の麓ってのが、いかにも神秘的よね。でも人が多いし、隠された遺物がここにあるって感じはしないけど」
美玲は周囲を見回しながら率直な感想を口にする。
「とりあえず、この辺を見て回ってみようよ。何か変わったものがあるかもしれないし」
小夜の提案に頷き、三人は参拝客の邪魔にならないよう境内を歩き始めた。
案内板を読んでみたり、社の裏手へ回ってみたり、写真を撮るふりをしながら周囲を見渡してみたり──。
だが、目に映るのは歴史ある社殿と穏やかな境内ばかりで、魔法遺物らしきものは見当たらない。
「人が少なくなる夕方とかなら、もう少しゆっくり見られるかもね」
小夜がそう言うと、月奈は少し考えてから首を傾げた。
「それまで待つ?」
すると美玲が苦笑しながら肩をすくめる。
「観光客だらけで無理よ。私たちまで怪しまれたら意味ないし」
月奈はもう一度、静かに佇む素鵞社へ目を向けた。
神話の舞台と聞けば特別な場所のようにも思える。しかし、今はどこからどう見ても、静かな神社でしかなかった。
「ここだと思ったんだけどな……」
期待が外れたことを惜しみながらも、いつまでも立ち止まってはいられない。
三人は素鵞社を後にし、次の候補地を探すことにした。
まだ調査は始まったばかりだ。
葉山の真意も、魔法遺物の行方も分からないまま、三人は神話の地を巡る小さな旅を続けていく。
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