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5-1-20 無策の人探し

「あの少女、やっぱり普通の人間じゃないよね」


美玲が真っ先に切り出す。


「うん。狐たちを従えていたし、あれを普通の霊で説明するのは無理だと思う」


月奈も静かに頷いた。


小夜は記憶をたどるように目を伏せる。


「でも、不思議だった。見た目は、ごく普通の女の子だったよね」


「ああ、私と同い年に見えたから、十七歳くらいかなって思った」


月奈がそう口にした瞬間だった。


「「えっ?」」


美玲と小夜が、ほとんど同時に声を上げる。


「……何?」


月奈が不思議そうに二人を見返す。


小夜が少し言いづらそうに口を開いた。


「その……私たち、月奈はもう少し年上だと思ってた」


「え?」


美玲も苦笑しながら続ける。


「体格もしっかりしてるし、落ち着いてるし。社会人かなって」


「そんなに!?」


月奈は思わず声を上げた。


小夜も申し訳なさそうに笑う。


「私は大学生くらいだと思ってた」


「ちょっと待って。じゃあ二人はいくつなの?」


美玲があっさり答える。


「あたし、二十二歳」


「私は二十歳」


小夜も続けた。


月奈はしばらく固まったまま二人を見比べる。


「そんな年上だったの!?」


今度は月奈が驚く番だった。


三人は顔を見合わせると、思わず笑い合う。


昨夜までの重苦しい空気が、ようやく少しだけ晴れていった。


ひとしきり笑ったあと、小夜が気持ちを切り替えるように口を開く。


「とにかく、あの少女の正体を調べないと」


「見た目が高校生くらいなら、近くの高校から当たってみる?」


美玲が提案する。


月奈も頷いた。


「それと、『狐』に関係する昔話とか事件も調べてみたい。


土地に伝わる話と繋がっているかもしれない」


「うん。両方から探してみよう」


月奈はスマホを片手に、SNSで「豊川稲荷」「女子高生」「狐」といった言葉を組み合わせながら、ひたすら情報を探し続けていた。


昨日目にした、あの白い狐と少女。


何か一つでも手掛かりが見つからないかと、画面を何度もスクロールしていく。


「どう? 何か見つかった?」


しばらくして、隣から美玲が覗き込む。


「うーん……」


月奈は困ったように首を振った。


「出てくるのは別の稲荷神社ばっかり。巫女さんとか白い狐の伝承はいくらでもあるんだけど、豊川稲荷の話には全然繋がらないんだよね……」


思わずため息が漏れる。


すると美玲が呆れたように笑った。


「だって豊川稲荷って、お寺でしょ? 巫女さんがいるわけないじゃない」


「あっ……そうだよね」


月奈は苦笑しながら額に手を当てた。


神社と寺の違いすら曖昧なまま調べていたことに気づき、自分でも少し情けなくなる。


情報が見つからないのも当然だった。


その時だった。


近隣の高校について調べていた小夜が、小さく声を上げる。


「ねえ……これ」


「豊川稲荷が運営している高校、あるみたい」


「えっ、本当に?」


美玲がすぐ身を乗り出し、小夜のスマホを覗き込んだ。


小夜は画面を見せながら説明する。


「理事長が住職だったから、もしかして関係あるかなって思って調べてみたら……本当に学校を運営してた」


「なるほどね」


美玲は感心したように頷く。


「住職が理事長か。そういう発想は思いつかなかったわ」


「さすが小夜」


月奈も素直に感心した。


小夜は照れくさそうに笑うと、そのまま別のタブを開き、「白い狐」についても調べ始めた。


しかし表示されるのは昔話や伝承ばかりで、目撃情報らしいものは一向に見つからない。


「やっぱり伝説ばっかり……」


小夜は小さく息を吐く。


「現代の目撃情報とか、そういうのは全然ないね」


月奈は腕を組み、少し考え込んでから口を開いた。


「他に手掛かりがないなら、その高校を見てみようか」


「少女が本当に高校生なら、通っている可能性もあるかもしれない」


「まあ、ゼロではないわね」


美玲も頷いた。


翌日。


三人は豊川稲荷が運営する高校の近くまで足を運んだ。


とはいえ、張り込みなどした経験は誰一人としてない。


まずは「どこにいれば自然か」を考えるところから始まってしまう。


「校門の前にあるスーパーなら、生徒が見えるかな?」


月奈が地図を見ながら言う。


小夜も周囲を確認する。


「でも、スーパーの中を何時間もうろうろしてたら、お店の人に怪しまれそう」


「それは嫌ねぇ」


美玲が肩を落とした。


「こんなところで時間潰すくらいなら、少し離れたショッピングモールにいた方がまだ気楽だわ」


「確かに」


小夜も納得する。


「三人で固まってる方が目立つかもしれないし」


結局、それぞれ別の場所から様子を見ることになった。


月奈は校門が見えるスーパー、美玲はショッピングモール、小夜は少し離れた公園。


だが、一日粘ってみても、それらしい少女の姿は見つからない。


一瞬見かけただけの相手を記憶だけで探し当てるなど、素人の三人には到底無理な話だった。


せめて白い狐でも一緒に歩いていてくれれば話は早いのだが、もちろんそんなことはない。


結局、目立った成果は得られず、三人は日が暮れる頃には疲労だけを抱えてホテルへ戻ることになった。


「振り出しだね……」


月奈が小さく息を吐く。


「高校も違ったし、SNSも空振り。ここまで手掛かりがないとは思わなかったわ」


美玲も肩を落とした。


しばらく誰も口を開かなかった。


行き詰まっていることは、三人とも痛いほど分かっていた。


やがて小夜が静かに顔を上げる。


「……もう一回、夜の豊川稲荷へ行ってみない?」


その一言に、美玲が苦笑する。


「結局それ?」


「でも、他に思いつかないんだもん」


小夜は申し訳なさそうに笑った。


「あの少女が現れたのは夜だけだったし、もう一度見れば何か分かるかもしれない」


月奈も静かに頷く。


「私もそう思う。今ある手掛かりって、それしかないから」


誰も反対しなかった。


策があるわけではない。


勝算もない。


それでも、何もしないまま帰るよりはずっと良かった。


深夜、三人は再び豊川稲荷の総門前へ向かった。


月奈の《巨蟹の腕輪》で光学迷彩を起動し、三人は人目を避けながら静かな境内へ足を踏み入れる。


昼間とは打って変わり、境内は深い静寂に包まれていた。


月明かりだけが総門を照らし、その影が石畳へ長く伸びている。


「それにしても……」


美玲が小さく呟く。


「あの子、何の目的で夜中にここへ来てたのかしら」


「そこが一番分からないんだよね」


小夜も頷いた。


「普通の参拝なら、こんな時間に来る理由はないし……」


月奈は答えず、ただ総門を見つめ続ける。


脳裏には昨夜見た、白い狐の群れと少女の姿が焼き付いていた。


あれが偶然だったのか、それとも今夜も現れるのか。


答えは、待つしかない。


三人は息を潜め、夜の境内を静かに見守り続けた。

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