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5-1-16 愛知豊川稲荷

月奈、小夜、美玲の三人に再び召集がかかったのは、前回の任務からしばらく経ったある日のことだった。


葉山から送られてきた連絡は、今回も驚くほど簡潔だった。


『現地に直行してくれ』


たったそれだけである。


指定された場所は、愛知県にある豊川稲荷。


葉山の話では、そこに何らかの魔法遺物が眠っているらしい。しかし、それ以上の説明は何もなかった。


『今回は調査も仕事のうちだそうだ』


美玲がスマホの通話履歴を再生しながら、呆れたように肩をすくめる。


「交通費と宿代だけ出して、『あとは現地で何とかしろ』ってことでしょ」


皮肉交じりの口調に、月奈も苦笑しながら息をついた。


「本当に来ないんだ……」


「初回だけ面倒を見るって、言ってたね」


小夜も困ったように笑う。


「でも、何を手がかりに探せばいいのかは、本当に分からないよ」


前回は目当ての装飾品がある場所まで分かっていた。


だから迷うことなく動けた。


だが今回は、「豊川稲荷に何かある」という情報だけが頼りだった。


何を探せばいいのかさえ分からないまま現地へ向かうしかない。


「考えてても始まらないよ」


月奈が気持ちを切り替えるように立ち上がる。


「とりあえず行ってみよう。何か見つかるかもしれないし」


「そうね。観光ついでくらいの気持ちで歩いたほうが、案外見つかるかも」


美玲も荷物を肩へ掛け直した。


三人はそれぞれ新幹線を乗り継ぎ、愛知県豊川市へ向かった。


—-


豊川稲荷の総門へ着くと、想像していた以上に参拝客の姿が多かった。


平日にもかかわらず境内は賑わい、観光客や家族連れが思い思いに写真を撮っている。


「思ったより人が多いね」


月奈が周囲を見回す。


小夜はスマホを確認しながら、小声で言った。


「ここ、ライブカメラも設置されてるみたい。普通に観光するぶんには大丈夫だけど、変なことすると記録に残るかもしれない」


「じゃあ普通に歩けばいいじゃない」


美玲はあっさりと言い切る。


「コソコソしてるほうが目立つわよ」


そのまま何事もない観光客のように総門をくぐり、三人は境内へ足を踏み入れた。


歴史ある建物が並び、線香の香りが風に乗って漂う。


広い境内には大小さまざまな堂や社が点在し、歩いているだけでも小さな発見が続いていく。


「こういう所、初めてかも」


月奈が辺りを見回しながら呟く。


「私は修学旅行以来かな」


小夜は境内図とスマホを見比べながら歩いていた。


「意外と広いね」


やがて三人は、霊狐塚へたどり着いた。


無数の狐像が整然と並ぶ光景を目にした瞬間、自然と足が止まる。


「わあ……」


月奈が思わず声を漏らした。


「すごい……」


小夜も目を丸くする。


「千体近くあるって書いてあったけど、本当にこんなに並んでるんだ」


白や灰色に風化した狐像が幾重にも並ぶ景色は、観光写真で見るよりもずっと圧倒的だった。


美玲も辺りを見回したあと、小さく肩をすくめる。


「確かに迫力はあるけど……」


そう言って一体の狐像へ近づき、ぐるりと眺める。


「でも、見た感じは普通の石像ね」


月奈と小夜も何体か見て回ったが、どれも長い年月を経た石像や木像にしか見えなかった。


「さすがに、これ全部調べるのは無理だよね」


月奈が苦笑すると、小夜も小さく笑って頷いた。


「うん。今日は普通に歩きながら気になるものを探してみよう」


三人は観光客に混じりながら、ゆっくりと境内を歩き始めた。


境内をひと通り歩き回ったものの、それらしいものは何一つ見つからなかった。


堂や社を巡り、案内板へ目を通し、気になった場所では足を止めてみる。


それでも、魔法遺物を思わせるようなものは見当たらない。


「宝物殿みたいな所にあるのかな」


月奈が何気なく呟く。


小夜は境内図を見直しながら首をかしげた。


「私もそう思ったんだけど……それらしい建物は載ってないんだよね」


「見落としてるだけじゃない?」


「案内があるなら分かると思うんだけど……」


美玲も辺りを見回しながら言う。


「こういう施設って、普通はちゃんと案内板があるでしょ」


結局、それらしい場所は見つからなかった。


三人は再び霊狐塚へ戻り、並ぶ狐像を一体ずつ眺めてみる。


近くで見ると、それぞれ表情も大きさも少しずつ違っていて、長い年月を経た風合いが残っていた。


「魔法遺物ってさ」


月奈が狐像を見つめたまま口を開く。


「何も宝石とか、お宝みたいなものとは限らないのかも」


「どういうこと?」


小夜が振り向く。


「例えば、見た目は普通の道具とか。誰も気に留めないような物だけど、本当は力を持ってるとか」


自分でも確信があるわけではない。


ただ、そんな気がしただけだった。


「それじゃあ、ますます見つからないじゃない」


美玲は苦笑しながら肩をすくめる。


「観光客に紛れて歩いてるだけじゃ、日が暮れちゃうわ」


空を見上げると、傾き始めた陽射しが境内を淡く照らしていた。


「今日は、このくらいにしない?」


その提案に、月奈と小夜も異論はなかった。


こうして初日の調査は、何の成果も得られないまま終わりを迎えた。


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