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5-1-12 新チーム結成

堂内へ着信音が響いた。


黒い霧の怪異を押し返しながら、月奈は思わず肩を震わせる。


画面には「葉山」の文字が表示されていた。


「こんな時に……!」


慌てて通話へ出ると、落ち着き払った声が耳へ届いた。


「首尾はどうだ」


「それどころじゃないんです!」


月奈は《巨蟹の腕輪》の反射バリアを維持しつつ、通話口に向かって叫ぶ。


「変な霧に襲われてて……全然近づけません!」


葉山は驚く様子もなく、小さく息をついた。


「やはり出たか」


その一言に、月奈は思わず顔をしかめる。


「聞け。お前がリーダーだ」


「……え?」


予想もしなかった言葉だった。


「お前が一番冷静だ。だから指示を出せ」


「わ、私がリーダー……?」


「全員が好き勝手に動けば死ぬ。それだけだ」


淡々とした口調だった。


励ましも優しさもない。


だが、その一言だけで月奈の頭は少しだけ冷えた。


サッカーでも同じだった。


試合中に誰かが指示を出さなければ、チームはばらばらになる。


「霧が相手なら直接殴っても効かん。小夜の分析を使え」


「……分かりました!」


通話が切れる。


月奈は深く息を吸い込み、振り返った。


「小夜! 分析できる?」


「え?」


小夜は思わず籠手を見下ろえる。


「格闘ならともかく、そんなこと……」


ストラグレイヴが静かに告げた。


「《磨羯の籠手》は戦うためだけのデバイスではない」


その瞬間、黒鉄色の籠手が低く唸るような音を立てる。


装甲がゆっくりと展開し、指先から肘へかけて幾何学的な紋様が浮かび上がった。


「解析モードへ移行する」


「え……?」


小夜が意識を向けた瞬間、景色が一変した。


堂内を漂う霧の流れが、淡い光の筋となって視界いっぱいへ広がる。


「すごい……」


思わず息を呑む。


「魔力の流れが……全部見える」


無数の光は一点へ向かって収束していた。


ストラグレイヴが静かに告げる。


「魔力の残滓には必ず核が存在する。流れを追え」


小夜は光を目で追った。


「あった!」


霧の中心。


黒く脈打つ核が淡く明滅している。


「あそこ! 霧の中心に核がある!」


美玲が反射的に《双児の双剣》を構える。


「まとめてぶった斬ればいいのね!」


「待って!」


月奈が声を張る。


「美玲は核だけ狙って!」


「え?」


「私が霧を止める! 小夜は核を見失わないで!」


三人の視線が初めて交わる。


「……分かった!」


美玲が頷いた。


その瞬間、霧が一斉に襲いかかる。


黒い触手が何本も伸び、三人を呑み込もうとした。


月奈は咄嗟に腕輪を掲げる。


「カールスティール!」


銀色の光が広がり、触手が弾き返される。


しかし霧は止まらない。


押し寄せるたびに衝撃が腕へ伝わり、足元が少しずつ後ろへ滑っていく。


(重い……!)


それでも退かなかった。


「小夜!」


「まだ見えてる!」


小夜は核から目を離さない。


霧が形を変えても、魔力の流れだけは隠せない。


「少し右!」

「そのまま真っすぐ!」

「あと少し──今!!」


美玲は迷わなかった。


「行くよ!」


アマルテウスが落ち着いた声で告げる。


「守りは我に任せろ」


セレティスが愉快そうに笑う。


「派手に決めようぜ!」


美玲は床を強く蹴った。


月奈が押し返した霧の隙間へ、そのまま身体を滑り込ませる。


黒い触手が四方から襲いかかる。


だが、美玲の身体は止まらない。


左の剣が円を描いて触手を弾き、勢いを殺さないまま腰を軸に身体を回転させる。


「受けろ!」


その遠心力を乗せるように、右の剣が鋭く走る。


「斬れ!」


流れるような連撃が途切れることなく続き、二振りの剣は互いの軌道を補い合うように霧を切り裂いていく。


「「そこだ!!」」


双子の声が飛ぶ。


美玲は回転の勢いをそのまま乗せ、交差した双剣を一気に振り抜いた。


十字の閃光が霧の中心を貫く。


黒く脈打っていた核が砕け、堂内へ悲鳴にも似た震動が響き渡った。


靄は細かな光となって空気へ溶け、やがて跡形もなく消え去る。


静寂だけが残った。


「終わった……?」


月奈は腕を下ろし、慎重に周囲を見回す。


小夜もゆっくり息を吐いた。


「魔力反応……消えてる」


美玲は双剣を肩へ担ぎ、満足そうに笑う。


「初仕事にしては悪くないじゃん」


月奈は二人の顔を見た。


誰か一人だけでは勝てなかった。


三人がそれぞれの役割を果たしたからこそ、勝てた。


その実感が、月奈の胸へ静かに残る。


サッカーと同じだった。


互いを信じ、それぞれの役割を果たした時、初めてチームは一つになる。


まだ出会ったばかりの三人だった。


それでも、この瞬間だけは確かに同じ勝利を分かち合っていた。


ブクマで月奈たちの応援をお願いします!

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