70.無色の乙女の裁き
大変ご無沙汰しております。公募に集中しておりましたら、こんなに遅くなってしまいました。
「贈り物は、お気に召していただけましたかね」
ゴロリと転がり出たのは、苦悶の表情を浮かべたバルカの首だ。もっとも、その頭は首を落とした先に膨れ上がり、元の人相とはかけ離れている。思わず悲鳴をあげそうになって、口を両手で塞いだ。
「昨夜、離宮を襲撃されましてね、我々は満身創痍ですよ。ですが、ご覧の通りです」
帝王陛下は不敵な笑みを崩さない。陛下自身も襲撃され、私たちとは別の場所で戦われていた。なのに、両陛下の気品と優雅さは少しも損なわれていない。
「襲撃とな…?なんのことかご存じか?」
「いや、何も。昨夜は妙に騒がしかったな、と思いはしましたが、まさか…隣国の王族を襲うなど、戦争になりますぞ」
僕と同じく周囲を囲んだ貴族が、ヒソヒソとざわめいている。
「何か言うことはないのか?こちらとしては、首謀者はもうわかっているのだが…」
帝王陛下の氷のように冷たい瞳が、とある人物を射抜いた。
「ひっ…!」
一歩二歩と後ずさる様は、次期侯爵とも思えない無様な姿だ。
「おや、あちらにも」
帝妃陛下に鉄扇で示されたのは、ロルモン公爵。妻を盾にするように、その陰に隠れ、ガタガタと肩を震わせている。
「なんとも、貴様の国の貴族共は、腰抜けばかりのようですなぁ。まったく、その王座に座る貴様が腐れたジジイだからかな」
わざとらしく首を傾げ、帝妃と、ねーっ?などとしているのが、逆に恐ろしい。
「それで、この不始末をどうしてくれるんだい?ん?お前が欲しい無色の乙女は、決して殺させないし、返しもしない。何より、彼女自身がもうこの国を必要としていない。潰してしまってもいいんだよ。さぁ、どうする」
どうする、と言われても、どうにもできないだろう。遠目で見ても気の毒なくらい、滝のように汗をかき、その衣服を濡らし続けている。その姿は、あまりにも惨めだった。
「…斬首以外の選択肢があるのか」
やっとのことで絞り出したカラーリス国王の声はしわがれ、まるで老人のようだった。
「ようやく口を開いたかと思ったら、それかい?まったく、能無しだねぇ。斬首以外の選択肢は、もちろんあるとも。聞きたいかい?」
首振り人形のようにコクコクと首を上下に動かし、帝王陛下の次の言葉を待っている。
「一つ。素直に国を明け渡し、一生幽閉されて生きる。二つ。斬首。即時開戦。三つ。無色の乙女の裁きを受ける。さぁ、どうするかな」
無色の乙女の裁きとは、なんだろうか。
(——所詮、この国出身の色なし。国で最も尊い方に、裁きなど下せるのだろうか)
会場がどよめいた。
「斬首だけは避けるだろう。わが身がかわいいはずだし、即時開戦では巨大な帝国相手に勝ち目がない」
「幽閉であれば、国を再興するチャンスも狙えるのではないか」
本人たちは小さな声で話しているつもりでも、存外声が通ってしまうものだ。
「では無色の乙女の裁きでは?」
「所詮、天候を操れるだけの能力だ。裁きとは大層なことを言うものだ」
怒りに燃える隣国の王族が目の前にいながら、口に出してそんなことを言うなど、命が惜しくないのだろうか。思った通り、隊列を組んだ帝国騎士団から厳しい視線を向けられている。
「無色の乙女の裁きとは、いかようなものなのだ」
我々もそれが知りたい。帝王に視線を走らせれば、面白そうな顔を浮かべている。
「知らん。だが、過去そのような裁きがあったことだけは知っている。さぁ、どうするのか、選べ。カラーリス国王よ」
「わ、我が選ぶのは…」




