67.希望は東より来たり
ヒュッ!耳を矢が掠めた。
「ルー!危ないっ」
後ろから庇われるように、レオ様に抱えられた。
肩越しに後ろを見れば、騎馬が数騎、こちらを追ってきている。
「奴らが追ってきている。身をかがめたまま、走るぞ」
コクリと小さく頷いた。
二人で騎乗するディヴァーノの足は、少しずつ落ちてきている。さすがに成人を二人載せての長距離は、ディヴァーノといえど負担になるわ。
「ごめんなさい、ディヴァーノ。もう少し、頑張れるかしら」
そっと囁けば、耳がブルンと震え、少しスピードが上がった。
頑張ってくれるということなのね。
けれども、そう無理はさせられない。どこかに身を隠せる場所、敵を惑わせる場所はないかしら。
「レオ様、敵は何人くらいでしょうか」
同じく上体を低くし、飛来する矢を警戒するレオ様に尋ねた。
「ああ、さっき見たときは、五人か六人か。もしかしたらもっと増えるかもしれない」
「そうですか…思ったより多いですね」
それでも、みんなが身を挺して庇ってくれたおかげで、ここまで逃げおおせている。
前が見えず、行く先はディヴァーノ任せになってしまう。
「どうしましょう。このままではディヴァーノが」
思わず心配が口から零れ落ちる。
矢が一本でも彼に当たれば、ディヴァーノの命が危うくなってしまう。
「あぁ、そうだな…。ルー、1つ考えがある。不快かもしれないが、少し体勢を変えさせてくれ」
疾走する馬上で、レオ様は身体を捻り、前を向く私と向かい合う形で後ろ向きになった。
「レオ様、なにをなさるのです!」
腰から剣を引き抜き、後ろを見定めるレオ様に、悲鳴が迸ってしまった。
「これなら、ルーを守りながら矢を叩き落とせる。私を信じて、行けるところまで行くんだ!」
ディヴァーノの腹を鋭く蹴ったレオ様は、左腕で私を抱き込み、その腕で頭も守ってくれた。
ヒュンッ!風を切る矢の音がいくつもする。
「はっ!」
気合の音とともに、矢を切り、叩き落とす音がした。
レオ様の腕は、少し震えている。
心臓が早鐘のように鳴っている。
一本でも当たってしまえば、レオ様を失ってしまう。私に当たれば、私もそこで死ぬ…。
全力で走っているディヴァーノは、口から泡を吹きだした。
「ディヴァーノ、ごめんなさい、ごめんなさい、もうやめて。死んでしまうわ」
そう叫んでも、その足は止まることがない。
もう逃げ切れないのかもしれない。
そう思った途端、涙が滲んだ。
覚めない夢を見ているの?
暗い、暗いわ。
ここで終わりなの…?
私たちは、ここで死ぬのかしら。
こんな賊の手にかかって。
涙が頬に流れ落ちた。
(——誰か、どうか助けて。お願い。レオ様を。ディヴァーノを。どうか、お願いします)
心の限り、ステンドグラスの君に、天に、そして神に祈った。
空が明るくなる。
もう夜明けなのだ。
涙に塗れた目に、朝日が刺さった。
ふと、大地が揺れた。
ディヴァーノに乗っているせいでそう感じるの?
いいえ、違うわ。
土埃。
大勢の騎馬が、こちらに近づいているのが、おぼろげに見えた。




