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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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60.陽動

檄に応えた部下と共に、鬨の声を上げながら、賊どもへと駆けてゆく。向こうも刃を抜いたらしい。サーベルの刃が、月明かりにキラリと輝いている。


向こうは連携が取れていないらしく、隊形はめちゃめちゃだ。数で押し切れると踏んできたのだろう。


(——舐めてくれる)


ギリッと奥歯を噛み締め、愛馬の腹を蹴った。すぐさまスピードを上げた愛馬と、一番乗りで敵と交差した。二手三手と切り結ぶ。致命傷を与えようと振りかぶると、スッと躱わされてしまう。戦ううちに、違和感が顔をもたげてきた。


(——剣が軽すぎる。本気でこちらを殺りにきていない)


どの相手も、何度か打ち合うと、すっと脇を抜けて行ってしまう。こちらの刃を軽くいなされている。急な切り返しで仕掛けても、相手に深く届かない。思いのほか手練れを揃えてきている。背中を嫌な汗がツーと流れ落ちた。伝達せねばと振り返るも、連れていた部下たちは散り散りにされていた。


「なにかおかしい。混戦をといて下がれ!」


自分の声が届く範囲だけでもと思ったが、周囲の刃を交える音でかき消され、うまく通らない。敵に陣形を乱され、分断されてしまった。もはや味方がどこにいるのかわからない。


「クソっ」


想定しなかった正面突破、馬鹿な侯爵家のバカ息子が考える手ではない。どうする。


その時、黒衣の一団が音もなく駆けつけた。


「グレン卿、我らも参戦いたします」


それは、ルナリス様の使用人のうち、勝手についてきたもの達であった。


「助かるが、主人の守りに入らずいいのか」


「あちらは、我々の精鋭がついています。お判りでしょう?」


「あぁ。わかった。じゃあここを頼まれてくれるか。俺は部下をまとめて隊列を組みなおす。何人か貸してくれ」


「心得た」


数名が付いてきてくれた。2、3人で固まって戦っていた部下たちを拾い集めると、さらに手を広げて捜索する。借りてきた者たちがよく働いてくれた。


(——どう教育したらこんな部下に育つんだ)


こんなにも臨機応変に対応できる人材はそういない。育成の面でも負けた気持ちになり、心が折れそうになる。騎士と暗殺者では、そもそもの役割が違う。育ち方も違って当たり前なのだ。


隊を整え直し、再度突撃のタイミングを測っていると、敵側から不意に照明弾が打ち上げられた。色は赤。それをきっかけに、先ほどまで暴れていた賊たちが急に動きを止め、引き始めた。わざと背中を見せつけ、笑っているのが月明かりで見える。


(——まだ戦いは序盤のはず。なぜこのタイミングで)


なぜなのか、グレン卿は理解ができない。


隊を立て直した騎士たちは、とどめをさせない苛立ちに溢れていた。馬にも苛立ちが伝わったのか、落ち着かない様子で尾を振ったり首を激しく振っている。


何度攻撃しても躱され、いなされすり抜ける。そして今度は逃げ始めた。鬱憤が頂点に達した瞬間、背を追いかけずにはおられなかった。


「この野郎!馬鹿にしやがって!」


「やめろ!背を追うな!戻れ!」


頭に血の上った騎士が、勝手に追いかけ始めてしまった。一人、二人と追えば、もう統率が取れない。敵は、眼前でこちらを侮辱し、嘲るような仕草で騎士たちの心を逆撫でしてくる。


「罠だ!追うな!止まれ!」


叫び声は、背を追う騎士たちの耳には届かない。


(——外は任せろと伝えたが、無念だ)


離宮をちらりと見ると、まんまと誘い出されてしまった騎士達を追いかける。


「不甲斐ない。すまないが、こちらにも付いてきてくれるか」


並走してきた一団に告げると、


「心得た。先に行く」


彼らしか使えない技術で、どんどん前へ進み始めた。馬と一体化して走るその技は、見て盗めるものではない。その背を見ることしか叶わない、己の無力さを噛み締めた。


(——どうか、殿下、ご武運を)

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