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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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58.誰もが大丈夫だと思っていた

「ねぇ、コスタンツァ、片づけは明日にして、今日はもう休んだらどうかしら」


せわしなく荷ほどきにかかるキティとコスタンツァに気持ちが落ち着かなく、つい声をかけてしまった。


「ダメですよ、お嬢様。今日のうちにしなければ、ドレスのシワが取れなくなってしまいます」


鼻息荒く次々に片づけをするキティとコスタンツァ。そして、離宮の確認に飛び出して行ったベルナール。同じように長距離移動したと思えないくらい、パワフルだった。


「そう、それなら、お任せするわ。…申し訳ないけれど、私はちょっと休ませてもらうわね」


「はい!お任せください、ルナリス様」


そう告げると、ライト卿とハルト卿に守られた寝室へと籠った。


馬車の振動で痛めてしまった腰を伸ばすと、うっとりするくらい気持ちがいい。


ドレスにシワができてしまうかも、と思ったけれど、後で叱られることにした。


(——今回も誘拐されるの、よね)


帝妃陛下から、事前に話を聞いていた。


私はある意味で囮、もしくは撒き餌。


帝王陛下の尊大な態度も、さっさと考えなしの方々を一網打尽にとらえるための策と聞いている。


事前に知っていることは内密に、と言われ、レオ様にも内緒にしていた。


(——ちょっと驚いた演技をしてみたけれど、違和感はなかったかしら)


あの時のことを思えば、また攫われるなど、二度とごめんだと思ったけれど。


今は他国の只中にあるのに、味方が信じられないくらいいる。


怖いことなんて、起きるはずがない。


そう無条件に信じられることの素晴らしさを噛み締めた。


柔らかな布団に潜り込むと、長旅の疲れが出たせいか、いつしかウトウトとまどろんでいった。



「おい、ライト、ちょっといいか」


寝室の前で護衛に徹する相棒のライトへ、小声で話しかけた。


勤務中に私語など許されないが、急ぎで確認したいことがあった。


「ハルト、勤務中になんだ。後にしろ。ルナリス様がお休みの時に、騒がしくしたくない」


クソが付くほど真面目なハルトは、予想通り渋った。


「いや、今じゃなけりゃダメなんだ。さっきのカラーリスの貴族の中に、異常なほどルナリス様を凝視した若い奴がいただろ。あれがモントローズ侯爵家のアドリアン、ルナリス様の元婚約者だ」


「なんだと!」


声が大きくなるハルトをシーッと黙らせ、続けた。


「おい、声がでかいぞ。…グレン卿の話だと、なんだか拗らせて、俺たちの大事なルナリス様を攫おうとしているらしい。しかもめちゃくちゃ分かりやすくな」


「…敵ながらお粗末だな」


「だな。事前に情報漏れてることからして杜撰だ。でも、な。俺たちは前回お守りすることは叶わなかった。今、こうしてまた護衛させていただいているのも、ルナリス様からチャンスをいただいたからだ。今回は守り抜くぞ。絶対に」


ぐっと拳を握りしめると、ハルトが重々しく頷いた。


「もちろんだ。そのために、今日まで血反吐を吐く思いで、今日まで訓練してきた。なんとしてもやり抜くぞ」


そう小声で話していると、ベルナール殿が通りかかった。


「おや、どうされたのですか」


「いや、なに。この離宮の構造の調査をと思いましてな。把握しておかないと、お守りできませんからな」


鷹のように鋭い眼差しを向けられ、思わず息が詰まった。


怪我の後、すんなりと復帰できたのは、この好々爺の皮を被った化け物の特訓メニューのおかげ。


もしかして今度こそ死んだかも、と思うほどの扱きだった。


「っそうですか。ルナリス様はお休みされていますので、ご安心ください」


「ええ。信頼していますよ」


ポンポンと肩を叩き、ベルナール殿は去って行った。


叩かれるたびに、重りのようなプレッシャーを感じた。


「大丈夫だ、ライト。あれだけの訓練を積んだ我々だ」


「そうだな。いつも通りやればいいんだ。いつも助かるよ、ハルト」


「さ、私語はもうおしまいだ。集中するぞ」


「ああ」


そうだ、伝え忘れた。もしかしたら国王も狙ってくるかもしれないぞ、と。



「どうだったベルナール」


板に羊皮紙を敷き、構造を写し取って戻ってきたベルナールの手元を眺めた。


「あぁ、まぁまぁな造りだな。緊急避難用の隠し通路が3つ、からくりの扉もあったな。向こう側から開けられないように、細工済みだ」


「さすがベルナールね」


図面をしげしげと見つめるコスタンツァは、今は暗殺者の顔つきだ。


「あら、石造りなのね」


「堅牢ではあるが、火を放たれると弱そうだ。蒸し焼きになってしまう」


後ろでクルクルと動いていたキティが、私たちの間に割って入った。


「石なら燃えないし、大丈夫なんじゃないんですか?」


「ああ、燃えはしないが。パン窯と同じだ。外が熱くなって、中にはいられない。これだけ広いし、大丈夫だとは思うが、念のため用心しよう」


コスタンツァは独自にメモを取り、頭に入れているらしい。


指先が僅かに震えているのが見て取れる。


メモを遠くにやったり近づけたりして、眉間に皺を寄せている。


キティは面白そうに、彼女を眺めた。


「こういうのも学ばないとですね」


「あぁ、今回の件が終わったら、また教えてやろう」


いつになく聞き分けのよいキティに破顔した。


「さて、これを殿下方に共有してくる。片づけとお嬢様のことを頼むぞ」


「もちろんよ」


さっと部屋を後にした。


ふっと肺から空気が漏れた。


離宮を回るだけで息切れなど、今まででは考えられない。


前回の怪我がまだ治りきっていない。


事実、コスタンツァも私もとっくに現役から退く年齢だ。


大事にならないことを祈るのみだ。


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