56.決して機嫌を損ねるな
「なんだ、あの光は」
遠くから見ても、光を背負ってやってくる一団が見える。双眼鏡を覗かずともわかる。セレニータの奴らだ。
どう見たって尋常ではない。
遠目からどう見えるか――奴らに群がる民衆が、その答えだ。
「まるでこちらが国賊のようだな」
色なし風情を追い出したせいで後ろ指を差され、モントローズのアホがしくじったせいで、国の存亡を賭けることになってしまった。
「おい、そろそろ着くぞ。せいぜい平身低頭、媚び諂ってお帰りいただこう」
こちらは、全貴族を呼べと指図を受けた通り、王城内に呼び寄せてある。
そちらがその気なら、こちらは数で出迎えるのみだ。
王城前に馬車を乗りつけた奴らを出迎えに、しょうがなく出て行ってやった。
「遠路はるばる我がカラーリス公国へ、ようこそおいでくださいました。我が国は貴国を歓迎いたします」
「はんっ、何を言っている貴様。我々は親睦を深めるために来たわけではない」
なるべく親切を装ったつもりだったが、あっさりと裏切られた。
差し出した右手はあえなく無視され、宙を泳ぐ。
数で圧倒してやろうと集めた貴族共には、どう見えた。
(――くそったれの帝王め)
帝妃、第一皇子にも無視をされ、次に降り立った人物に目を奪われた。
色なし色なしと馬鹿にされてはいたが、実物を見たことがなかった。
この綺麗な人間を蔑む必要がどこにあったのか。
この美貌であれば――
(――追い出すくらいなら……私に寄越せばよかったものを。色など染めてしまえばいい)
無遠慮にジロジロと眺めていたのがわかったのか、第一皇子が後ろへと隠してしまった。
「ルナリス・ド・ロルモン公爵令嬢、よく我が国へ戻ったな。ロルモン公爵も来ている。後ほど会わせてやろう」
「余計なことをするな。こちらからの要望のみ聞いておればよい」
またもや帝王に嘴を突っ込まれ、封じられてしまった。
なんという横暴さ。
これがエドワード三世・ディ・ルミナーレなのか。
気づかぬうちに、怒りで全身が震える。
「さっさと客室へ案内せよ。貴殿の貴族共に、我らは決して頭は垂れぬ」
そう告げると、勢ぞろいする貴族共を騎士たちに押しのけさせ、勝手に王城内へと入り始めた。
「っ!」
近くに控えるメイド長へ指示し、勝手な振る舞いを続けるセレニータの奴らの案内をさせた。
「国王陛下、さきほどから彼らの振る舞いは目に余るものがあります。こちらから抗議したほうがよいのではないですか」
宰相が傍へ来て、ひそひそと耳打ちをしてきた。
が、しかし。
「ならん。そのようなことをすれば、この国は潰されてしまう」
「なぜです。最近は貿易も盛んで、特に問題なども起きていないではないですか。国内でも、セレニータ帝国風というのが流行っておりますよ」
こやつは、モントローズが起こした問題も知らなければ、活発に見える貿易の裏側も何も知らない、お飾りの宰相だ。
「できないのだ。黙って従うほかない。決して奴らの機嫌を損なうようなことをするな」
そう告げると、怪訝な表情を隠せない宰相は、黙って引き下がった。
☆
「おや。フランの部屋と同じようなかわいらしい部屋だな」
「フラン様というのは、他の皇族の方でしょうか」
「いや、ペットだ。知らんのか? うちのフランは賢くてなぁ」
「……さようでございますか。不勉強で申し訳ございません。フラン様はなんという種類なのでしょうか。ぜひお教えくださいませ」
「なに、ただのメダカだ」
「……」
メイド長に客室の案内をさせている帝王は、どの部屋も全くお気に召さない。
やれペットと同じだ、やれ狭い、やれみすぼらしいと、暴言のオンパレードである。
「そういえば、この国には特別な場所があると聞いたんだが」
質問を差し向けられたメイド長は、分かりやすく怯えた。
「その離宮は、国王陛下と王妃陛下しか使えない決まりでございます。いくら隣国の帝王陛下と言えど、そちらへ案内するわけには……」
「……ほう。我が申すのに案内できないと」
先ほどまで楽しげにしていた空気が、一気に冴え渡った。
わざとそうしていると分かってはいても、こちらの肝も冷えそうだ。
「い、いえ、そのようなことは。ただ……」
「ただ、なんだ? 申してみよ」
猛獣が草食動物をいたぶっているようにしか見えない。
「メイド長、もうよい。そちらで満足してもらえるなら案内せよ。それでよろしいかな」
いつの間にか追いついた国王が、そのように述べた。
「もちろんだとも。我らは元々そのつもりで来たのでな。案内は結構。もう調べはついている。さあ、グレン、先を行け」
心底馬鹿にしたように笑うと、セレニータ帝国一行は離宮へと消えて行った。
(――この国での振る舞い、きっと後悔させてやる。目障りな色なしの女共々な)
なに、ただのメダカだ




