【閑話】 悪い虫を潰す方法
「ルナリス様、本日の報告書です」
ハルト卿とライト卿が、この2週間毎日ビビについての報告をあげてくれる。謹慎の三日はかなり荒れていたみたい。遠まわしに書かれた報告書をみて、苦笑を禁じ得なかった。
「なぜこんな目にあっているのか、わかっていないのよね」
ぽつりと漏らすと、ハルト卿がなんともいえない表情を浮かべた。
「我々に対しても、まぁ…それなりな態度でしたね」
ライト卿もコクリと頷いた。
「それなり、ね」
彼らに当たれば、私の耳に入るとわかっているはずなのに。どこまで愚かしいのかしら。
「ルナリス様、僭越ながら申し上げます。あのような者を投獄せず、お傍に置くのは、いかがなものかと思ってしまうのですが」
「そうよね、そう見えるわよね」
彼らにソファを勧め、彼らの対面に座ると、これは内密な話よ、と告げて話した。
「帝妃様からね、宿題があるの。1つ目、新しく雇用を生み出す何かをすること。これはいいのよ、商会を作ることになったから。2つ目、自分の馬を決めること。これもいいわね。幸運にもディヴァーノをもらい受けることができたもの。」
ここまでは彼らも静かに聞いてくれた。
「3つ目が私には一番難しかった。悪い虫を潰すこと。でもね、私の周りには、貴方たちを始めとして、私に対してよくしてくれる人ばかりだった。でも、ビビが側近で入った時に思ったのよ。あぁ、この子はその対象になりえるわって。」
ここでニコリと微笑んだ。
「コスタンツァやベルナールにも当たりが強かったし、私に対して敵愾心があったことも知ってたの。マーサに対しての未払いは偶然ね。そのうち問題を起こすだろうことが分かっていたから、遠くない未来に罰するのは決めていたわ。」
キティがワゴンを引いて入ってきた。最近お気に入りのハーブティーを入れてくれて、少し気が休まるわ。
「悪い虫を潰すって、二通り読み取れると思ったの。文字通り殺してしまうか、悪い部分だけを潰してしまうか、ね。二人には、あの子がどうしようもない子に見えるでしょう。」
二人とも、肯定も否定もしなかった。でもそれがかえって、気持ちを現わしている。
「でもね、育った環境があの子をそうさせたのよ。だから、罰と称してお針子部屋に送り込んだの。ビビは、きっと改心して戻ってきてくれると、信じてるわ。これでダメなら、牢獄に入れる。それは約束するわ」
「そこまでお考えでしたか。浅慮で申し訳ございませんでした」
「いいえ、いいのよ。私も何も言わなかったしね」
ここまで聞いた二人は、納得したのか、ベルナールと入れ替わりで、一礼して退室していった。
「ベルナール、頼んでいたことは大丈夫かしら」
「もちろんです、ルナリス様。給金三割増しに夕飯メニューの追加、ですね。問題なく」
ソファから立ち上がると、窓から外を見た。馬で行く、ライト卿とハルト卿の後ろ姿が見える。
(——お針子部屋の皆に、迷惑料を届けたの。迷惑をかけられて、何もなしじゃ、やる気も出ないものね)
「ありがとう。コスタンツァのほうは?」
「そちらも問題ないかと」
王城のお針子部屋は、王城全ての人間の衣装を作っている。両陛下、騎士、侍従に御者、料理人に至るまで。服が破れれば修繕を、新しく働くものがいれば採寸を。全部署の人間が出入りする、数少ないうちの一つである。
(——私の噂が広がればいい。)
第一皇子殿下の婚約者は、慈悲深い。粗相をした側近を切り捨てず、教育し直し、傍に置く懐の広さを。そして、迷惑料を支払う、気遣いを。




