52.その処分は罰ではありません
ルナリス様の命で隣室に連れだしたビアンカ様は、私がみてもわかるくらいにわかりやすく落ち込まれている。
正直、私からしたら彼女はどうでもいい存在で。
(——ルナリス様のお手を煩わせる女なら、始末してしまえばいいのに)
ライト卿もこちらに来て、監視に当たっている。
本当に迷惑な人だ。
最初はルナリス様に敵愾心を燃やしていたことを、我々が知らないとでも思っているのだろうか。
「それで、マーサ様に何をなさったのです」
報告のため、渋々聞き役に回るしかない。
「それは……でも……ええと、ルナリス様に直接お話するわけにはいかないでしょうか」
使用人に敬語など使用しない居丈高なお嬢様が、私に敬語を使っている。
それほど知られたくないことなのか。
でも、ルナリス様のご命令だから、と半ば無理やりに聞き出した。
「まさか、商人への代金未払いとは。」
ライト卿も呆れた表情を隠さない。
商人へそのようなことをすれば、人から人へ伝わり、出禁に近い状態になることも有りうるのに。
考えが足りなさすぎるわ。
その時、ルナリス様の入室の許可の声がかかる。
即座に扉をお開けすると、ややお怒りのようだった。
私は、護衛のお二人と可能な限り、壁の花となるように務める。
「…はぁ、ビビ。まさか貴女が犯罪者だったなんて、夢にも思わなかったわ」
ソファに腰掛けたルナリス様が、こめかみを抑えて、天を仰いでいる。
(——頭がお辛いのかも。ハーブティーをご用意しましょう)
「犯罪者だなんて!私は、平民の作ったドレスが気に入らず、購入しなかっただけですわ」
「…本当にそう思っているのかしら」
「もちろんです。我々貴族は、常に誇り高くおらねばなりません」
パンっと乾いた音が部屋に響いた。
お茶の用意のため、視線を外した間に、ビアンカ様の頬に、一筋の赤い痕がついた。
「黙りなさい、ビアンカ嬢。貴女は私の側近にもなって、何もわかっていなかったのですね」
ルナリス様が扇子で打ったのだわ。
そう気づいても。ざまぁ見ろとしか思えない。
ハルト卿、ライト卿は、ルナリス様を止めようと思えば止められたはず。
それを止めないということは、そういうことなのだ。
「っ、もうし、申し訳ございません。ルナリス様、どうか、どうかお許しください」
平伏しそうになる彼女を、その場におしとどめるのは、ルナリス様だった。
「謝罪をする相手は私ではありません。カヴァッリ伯爵に、連絡を入れました。貴殿の娘が、商人へ代金を支払っていないと。マーサには、即座に支払いをさせます。ですが」
ここでルナリス様は一呼吸おいた。
「それは罰ではありません。商人へ注文したドレスの代金を支払う。ごく当たり前のこと。貴女への罰はこれから、伝えます」
そこで、ハーブティーをお飲みになり、少し表情が和らいだように感じた。
「三日間のカヴァッリ伯爵邸での謹慎。ハルト卿とライト卿、両名で貴女の監視に当たらせます。それから、王宮のお針子部屋へ、2週間研修にしてきなさい。貴女の大好きなドレスが、どのように作られるのか、実際に見てきなさい。今は、帝妃陛下の式典用ドレスが大量に作られているはずよ。貴女のせいで失敗したら…わかるわね?」
お針子部屋の研修と聞いたあの女は、べそべそと泣き出した。
あそこは、厳しい採用試験を突破した平民からなる精鋭部隊の部署だ。
平民、と一括りにして馬鹿にする彼女には、いい薬になるに違いない。
「先ほどカヴァッリ伯爵には早馬を出したから、もう手紙を読んでいる頃かしら。早くお行きなさい、ビアンカ嬢。そうね、最後に。当然、カヴァッリ伯爵も罰を受けることになるわ。娘の監督不行き届き、という名目でね。貴女のせいなのよ、ビアンカ嬢。よく肝に銘じなさい」
ルナリス様のあんなに底冷えのするような冷たい瞳は、見たことがない。
廊下の護衛騎士に合図すると、嫌々と駄々をこねる彼女を、文字通り運んで行った。
大きくため息を吐かれるルナリス様に、改めてお茶をお出しした。
「ありがとうキティ。さきほどのハーブティーも。頭が痛いのを見抜くなんて、すごい子ね」
温度のなかった瞳に、再び温かな色が戻った。
「さ、これでビビの考えが改まるといいけれど。もしダメなら、…親子共々、次はもうないわね」
柔らかな表情で、最終勧告を話すルナリス様。
私はこんな主が大好きなのです。
ずっとお傍でお守りいたします。




