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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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50.虫は早めに潰しておくものよ

「お、ヴァル、いいところに来たな」


今日もだらしなく書類を読み込んではポイ、読み込んではポイしている我が夫。


「いかがしましたか、陛下」


側近たる近衛が甲斐甲斐しく面倒を見ている。ご苦労なことだ。護衛のための近衛は、この書類の状況に少し顔を曇らせている。


「なに、隣国への手土産は何がいいかと思ってなぁ」


チラリとこちらを見る陛下。おそらく、私のやっていることは全てお見通しなのだろう。陛下のソファの対面に腰掛けると、ようやく体を起こした。


「手土産など、必要ですか?あれに」


意識せずとも鼻で笑ってしまう。しゃっと鉄扇を広げると、顔を半分隠し、表情の変化を気取られぬようにした。国力は雲泥の差、こちらがけし掛ければ、綿埃のように飛ぶ国に、手土産、など。


「まぁまぁ、そういうな。手土産は常に良いもの、とは限らん」


そう言って見せてきた羊皮紙を受け取り、内容を読み進めるうち、陛下の意図が読めてきた。これはとても良い手土産になる。


(——このような悪いことを考えるときは、実に頭が冴える男だ。これを受け取った時の、間抜け共の顔が目に浮かぶ。)


ふ、と口の端に笑みが浮かぶ。


「気に入ったか。ヴァルなら気に入ると思っていたのだ。レオは渋い顔をしていた。あ奴はまだまだ尻が青いと見える。自分の妻になる者のためになるのが、わからんのだなぁ」


「ええ、まだ経験が浅いですもの。でも、いつかは追いつきますわ。あの子がそばにおりますもの。それに」


ここでいったん言葉を切り、紅茶を一口飲んだ。


「それに、なんだヴァル」


「あの子、何か吹っ切れたのか、成長が目覚ましいんですの。側近をつけたからかしら。人を使うことを覚えて、考え方も変わってきましたわ。先生がいいんでしょうねぇきっと。段々と誰かに似てきたような気がいたします。ふふ…誰かしら」


蠱惑的に微笑むと、ゴクリと生唾を飲み込む音がした。私のことが大好きな陛下の目が釘付けになっているのは、いいとして。


「そこの近衛!」


鋭い視線と鉄扇で指し示したのは、先ほど表情を曇らせていた近衛騎士だ。自分が槍玉に上がるとは思っていなかったらしい近衛はわかりやすく怯えた。困惑を浮かべる側近の一人は、ハッと気づいたようで、ドアの外へと走った。


「お前、今、この私に色目を使ったな」


なにも言わない陛下から、うすら寒いような、底冷えのする気配が立ち込めてきた。怒っている。


「いえ、そんなこと考えたこともございません。何かの間違いです」


「ほぅ、私が間違えたと申すのか」


すっーと心の奥が冷えた。


「そういう訳では」


ジリジリと後ずさりする近衛は、部屋の出口を確認するように、チラリと視線を走らせた。


その時。


窓があけ放たれ、黒ずくめの者たちが侵入し、展開。この不埒な近衛を縛り上げた。その間、10秒にも満たなかった。


「両陛下、お怪我はありませんでしょうか」


見た目は賊にしか見えないが、この者たちは、レオに仕えし者たち。一人は片腕がない。


「レアルタ。初めてにしては見事だったな。よくやった」


「…あぁ。もう少し遅かったらお前たちも縛り首にするところだったぞ」


怒りが抑えきれない陛下は、一呼吸おき、気持ちを落ち着けている。私の事になるとすぐに周りが見えなくなるのが、陛下の悪いところの1つだわ。


「あら、そこまで私の心配をしてくださったのですか」


陛下に寄り添えば、途端に機嫌がよくなった。


(——わかりやすい人ね。)


「それにしても、あの近衛に問題があること、よく知っていたな。事前に知っていたとはいえ、怒りで爆発しそうだった」


「ええ、陛下。いつか処分してやろうとタイミングを伺ってましたの。どうも、怠惰な様で執務をこなす陛下が嫌いだったようで、その妻たる私にあろうことか憐憫を覚えていたとか。」


懐から手紙を陛下に差し出すと、またもや怒りを露わにし、木っ端に破り捨てた。そして言葉にならない雄叫びをあげると、何事もなかったように、平常を保った。これがいつもの陛下のやり方だ。


「この者は不敬罪に処す。即刻首を刎ねよ」


簀巻にされて転がされた元近衛は、うめき声をあげた。猿轡をされ、もう人として発言することは叶わない。するずると後から来た近衛騎士に引きずられて出て言った。


それを一瞥すると、彼らへと向き直った。


「レオの役に立ててよかったわ。ねぇ、レアルタ」


声をかけられた彼は、どう対応したらよいかわからないらしく、視線が彷徨った。


「母上、コレで遊ばないでいただきたい」


いつのまにかレオが入口に立っており、肩をひそめていた。


「あら、いつからそこに。」


とぼけたようにこてりと首を傾げたけれど、やはり息子。誤魔化されてはくれない。


「さっきの雄叫びを聞けばなにか起きたと思うでしょうに。それより、コレの試運転はまだ先のはずですよ。それに、許可を取っていただかないと。」


「あらあら、ごめんなさいね。ちょうど虫を殺したかったの。不快だったから」


ふふと笑うと、レオが一歩後ずさった。


(——なんで怖がってしまうのか、理解できないわ。)


陛下は、ニヤニヤと笑い、レオを見つめているだけだ。


「だって、あんな不埒な近衛を、ルナリスちゃんに会わせるわけにいかないじゃない。将来、傍に置くかもしれない騎士の一人なのよ?貴方だって嫌でしょう」


図星をつかれたのか、レオの目が少し泳いだ。ゴホンと咳払いした彼が口を開いた。


「ええ、わかりました。今回は、もう何も言いません。でも次回からはきちんと許可を取ってから使ってくださいよ。私の、もとい私たちの、なんですから」


ぷりぷり怒る息子は、いつもかわいいわ。でもあんまり怒らせると口をきいてくれなくなってしまう。


レアルタらに下がるよう指示すると、音もなく去って言った。


(——これなら三か月後までには使い物になりそうね。)


彼らの出番はきっと来る。——そう、きっとね。

レオは真面目に育ちましたな。

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