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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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48.彼はまだ、手に入ると思っている

「お父様、新しいドレスが欲しいの。半年後に式典があるのでしょう?」


無色の乙女の騒ぎが、平民だけでなく貴族にも知れ渡り、我が家門が強烈な批判を受けていることを、リシーはまだ知らない。


今朝もノック無しで執務室に飛び込んで来たリシーを、温かく迎えた。執主に茶を淹れるように合図する。


「あぁ、リシー、今日も愛らしいな。だが、この前買ったドレスも、まだ袖を通していないものが沢山あるだろう。今回はそれを着て見るのはどうだ?父はそれを見てみたいぞ」


この国の誰よりも可愛く、愛らしい天使だ。真綿で包むように育てたお陰で、天真爛漫なところが実にかわいらしい。


「えー?お父様、式典なんですよ?もっと気合をいれたドレスを着ないと、リシーがばかにされちゃいます。アディ様もそう思われるでしょ?」


唇をとがらせて不満を言う様子も、いつまでも幼子のようで、あどけなさが残る。


白く柔らかい手を守るため、なにも政務を教えていないリシーに代わり、補佐をしているアドリアンは、動かしていた手を止めた。


「リシー、今回は、お父様の言うことに従ったほうがいいんじゃないかな。ほら、あんまりに素敵なドレスだと、来賓よりもリシーのほうが目立ってしまって、大変だろう?リシーが他の誰かの目に映ってしまったら、嫉妬してしまうよ」


心にもない甘い言葉を言えば、うっとりしたような顔で、コクコクと頷いた。


(――ちょろいな)


元気よくわかったわ、と返事をすると、淑女にあるまじき騒々しさで、執務室を出て行った。


「アドリアン、すまんな。あの子の望みを叶えてやりたいが、1着数百万もするドレスを、そうポンポン買ってやるわけにもいかんのだ」


ルナリスが出て行って以降、税収が減るばかりのロルモン公爵家は、自転車操業にも等しいほどの状況に陥っている。それは扱う書類を見れば、すぐにわかることで。


「いえ、彼女のことは私にお任せください」


人好きのする微笑みを浮かべて会釈すれば、公爵は満足げに頷いた。


(――本当にちょろい親子だ)


面倒な仕事を執主に押し付け、調整を怠った結果なのは自明の理なのに、それを是正しない公爵は本当に無能で馬鹿だと思う。


ルナリスがいたころは、きちんと数字が積み上がり、隙のない書類だったのに、穴だらけ、嘘だらけの書類は見る気も起きなかった。


どうせ手に入れるなら、あの頃のような完璧な状態でないと、私にふさわしくないだろう。


(――ルナリスか)


フェリシーに乗り換えてからついぞ思い出すこともなかった色なしが、まさか第一皇子の婚約者になるとは。


あの女にそんな価値があるなら、最初から教えてくれれば良かったものを。だが、あの女、価値があるというだけで、どうせ無理やり婚約者にされているだけだろう。


伸びをして立ち上がると、窓辺から外を眺めた。


相変わらずのどんよりとした曇り空で、良く晴れた青空を最後に見たのは、いつだっただろう。思えば、彼女が出て行ってからかもしれない。


視線を下げれば、裏庭でお茶をしているフェリシーの姿が見えた。


貞操観念の緩い女だ。最初は楽しかったが、攻略する楽しみもなければ、恥じらいもない女。


「もう、おもちゃにするのも飽きたしな」


あれこれを侍女に文句を言いつけて困らせて笑っている。あの底意地の悪さが顔にも滲み出ているような気さえする。


「紅茶がぬるいわ。何度入れ直しさせたと思っているの」


ティーセットを侍女に投げつけている、なんて愚かな女。


頭から紅茶を被り、侍女は泣いていた。これではまた新しく人を雇い入れねばならないだろう。教育にも金がかかるというのに、それすらわからない女。


「チッ」


思わず舌打ちしてしまった。


顔も瞳も体も、もっと価値のある女が欲しい。そう、ルナリスのような。


きっと彼女は、まだ俺に未練があるはず。一度婚約までした仲なのだから。


俺が捨てた後に、身の丈に合わない評価をされて、困っているだろう。この俺が助けてやらなければ。


酷薄した笑みが自然と口の端に浮かぶ。


自分の机に戻り、式典に向けて策を練ることにした。


――ルナリス、どこにいようが必ず取り戻す。プライドをへし折り、もう一度、俺の役に立つ女にしてやる。

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