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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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47.敗北の光の中で、誇りは塗り替えられる

「わかっているな、ビアンカ」


ようやく支度が終わり、一息着いたところでお父様から声がかかった。


「心得ておりますわ。ご心配されなくとも大丈夫です」


今日は、全ての貴族が招集されるという異例の日である。

しかも準備期間もままならない、たった一ヶ月前の招待状という、記録的な遅さだった。

遠方に領地のある貴族などは、招待状が届いたその日に馬車に飛び乗った者もいるという。


(――哀れなこと)


思わずふっと笑いが込み上げてくる。

最後の仕上げにボルドーの深みのある口紅を引くと、姿見の前で最終チェックをした。


黄金の巻き毛は豪奢に。

ふさふさなまつげで彩られた瞳は、今日も翠に輝いている。

肉感的な体は、今日のために急遽仕立てさせた深いエメラルドグリーンの、重厚なシルクベルベットのドレスに収められていた。


(――完璧だわ)


合わせたパリュール(宝飾品一式)は、カヴァッリ家に代々伝わる大粒のエメラルドがあしらってある。ダイヤモンドと金細工の見事なものだ。


この国一の美女の名を欲しいままにしてきた私に、あろうことか皇子妃の「側近候補」の打診が来た。

この国が出来た当時からの忠臣である当家に声掛けをいただいたのは、本当に見る目があると思う。けれども――。


「側近候補ですって? この私に? 皇子妃の打診の間違いじゃないのかしら」


その知らせを聞いた時、喜ぶお父様をよそに、思わず持っていた扇子を握る手に力が入り、手を痛めてしまったほどだ。

今日のパーティーで貴族へお披露目した後、何回か交流して側近を決めるのだという。


しかし、その皇子妃になる女というのが、「無色の乙女」というわけのわからないモノなのだとか。

出自は隣国の小さな公国で、実家を追い出されて貴族籍しか持たないという。野蛮すぎるわ。


「なぜこの私が、そんな女に仕えねばならないのかしら」


今日のパーティーでは顔合わせということになっているけれど、あわよくば皇子妃の立場を奪ってやろうと思っている。


「私のこの美貌があれば、そんなこと簡単よね」


ムスクの濃厚な香水を振り、この後に起こる出来事に胸を馳せた。



貴族が一同に会する王城のホールで、お父様について挨拶に回った。

会う人会う人から今日の装いを褒められて、とてもいい気分だった。


対抗馬と言われている側近候補は、当家と同じく古くからある子爵家の令嬢だった。


(――でも、あれはダメね。この場で怯んでいるようでは、側近は勤まらないもの)


周囲の貴族たちの話し声が、耳に届く。


「婚約式兼、貴族へのお披露目兼、無色の乙女の宣誓も兼ねるそうですな」

「ええ、異例づくしですな。二日間に渡ってパーティーをするというのも、社交シーズンから外れたこの季節には、前例のないことですぞ」


それだけ愛された女性なのだろうと、呑気にお父様は笑っている。


私の敵になるような令嬢は、やはり今日もいなかった。

そろそろかと思って入り口を見やると、ちょうど入場口でファンファーレが鳴り響いた。


ようやく、第一皇子と野蛮な女の入場ね。

見てやろうじゃないの……。


第一皇子と腕を組んで入場してきたその女性は――この上ない美貌の持ち主だった。


第一皇子殿下が白皙の美貌の持ち主なことは、この国の誰もが知っている。

だからこそ、彼に憧れながらも、隣に並んだ時に己が見劣りするのに尻込みして、遠巻きにする令嬢は多い。

けれどもこの女、いえ、この方は……。


「なんという美しさなの……」


思わず見惚れてしまい、ほうっと溜息が口から漏れてしまうほど、可憐な女性だった。


私とは真逆を行く美。

ジャガード生地に、チュールレースを重ねた細身のドレス。レースのおかげで、とても軽やかに見える。

装飾品は、銀でできた髪飾りのみ。でも、恐ろしいほどの高額な品なのは、その細工の細かさで見て取れた。

粒ぞろいの真珠が、控えめな主張をしている。


所作も美しく、私の中の「野蛮な女」のイメージは完全に崩れ落ちた。


(――無色の乙女って、本当に色がないのね。それが浮世離れした透明感を感じさせるのかもしれないわ)


陽光の明かりの中、彼女だけが輝いているように見えた。


と、同時に、急に自分自身の装いに自信が無くなってきた。

なんだろう、この分厚くて野暮ったいベルベットは。

なんだろう、この重たすぎるパリュールは。

……この口紅は、濃すぎやしないか。


周りをそっと見やると、同じように自信を無くした令嬢たちがチラホラいる。


(――いえ、違うわ。こんなのたまたまよ。私がこんな女に負けるなんて)


そう思ったけれど――婚約式の後、曇りだした空を「晴天」に変えた彼女の力を見た瞬間、私は貴族の嗜みすら忘れて呆然とした。


ただ風が吹いて雲が切れたわけではない。

圧倒的な力で、真っ二つに雲が裂けたのだ。

そして、祝福の光が降り注ぐ。


足が震えて動けなかった。

こんなの、人の力じゃないわ。


遠くで陛下が宣誓している声が、ぼんやりと聞こえた。


「おおー! 皇子妃殿下、万歳!」


歓声が上がる中、私の両手は震え、プライドはズタズタだった。

けれど、一縷の望みを懸けて挑んだ夜会でも、やはり同じく圧倒的な敗北を感じることになった。


(――こんな素敵な人のそばに、あんな格下の子爵令嬢を侍らせていいの? いいえ、絶対ダメよ!)


あの方のそばにいるのは、絶対に私でなければ。

それには、まず彼女に気に入っていただかなければならないわ。


一度大きく深呼吸すると、パンッと自分の頬を叩いて気合を入れ直した。


この私が、必ず側近になってみせますわ。

――この命に代えましても!

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