【閑話】 二度目の命の使い道
試験勉強で間が空いてしまいました。申し訳ありません。
「ほら次は、お前だよ」
まとめて湯船に放り込まれ、畜生のように丸洗いされた。雑に水分を拭かれ、燦々と降り注ぐ日差しの中で、日干しにされている。
この季節には珍しいほどのギラギラとした日差しによって、僅かに残っていた湿り気はあっという間に乾いてしまった。
「ルナリス様が、お前たちのために日の光を集めてくださったお陰だ」
グレン、と言う名の近衛騎士が言う言葉に、最初は何を言っているのか、意味がわからなかった。
話を聞くうちに、理解した。彼女はとても稀有な存在なのだと。自分たちのしでかした事の重大さを恥じた。
と同時に、モントローズ侯爵がなぜ彼女を手に入れたがったのか、その意味も事ここに及んでようやくわかったのだった。
「あの方にお礼を伝えてください」
「ああ。伝えておこう。……それじゃ、ここからはこの二人に引き渡す約束だ。お前たちなどに期待などしていないが、生きて戻ってこい」
老人にしか見えない二人連れが現れると、グレン卿はそそくさと立ち去った。よほどこの二人が怖いと見える。
やろうと思えば、いつでもこちらの首を掻き切ることができるのに、それをしない、底知れぬ忠誠心の高さ。その全てがルナリス嬢へと向けられている。あの方が命じたならば、死んでもなお相手の喉笛に喰らいつきそうだ。
「あら、綺麗にしてもらってよかったじゃない」
しげしげと我々の姿を観察し、老婆が満足そうにニコニコと笑った。
「では、今日は軽く体力づくりでもしましょうか」
隣 of 老爺が軽くストレッチを始めた。
「体力づくりですか」
「ええ。隣のミラネッタまで走って、広場の女神像にタッチして帰ってくるの。簡単でしょう?ウチで一番のちびちゃんと競ってもらうわ」
ここで老婆は一度深く息を吸った。
「この子に負けたらその場で首を刎ねるわよ」
(——簡単に首を刎ねるとか言わないでもらいたい。)
思わず口に出そうなところを飲み込んだ。
二人の後ろに立っていたのは、12,3歳に見える少年だ。この年齢で暗殺者稼業?と思ったのが顔に出たのだろう。
「虐待かと思った?いいえ、この子はもうとっくに成人しているのよ。元いた環境が劣悪で、栄養が足らなかったのね。これ以上成長することができない体になってしまったの」
いたわるような優しい視線で少年を見るさまは、まるで孫と祖母のようだ。
「それで殿下が救出されて以降、彼の意思でこの仕事についている。見た目に惑わされてはいけないぞ。ちびちゃんと呼んでいるが、お前たちよりよっぽど強いぞ」
煽るような視線は、この後のトレーニングのために士気をあげるためか。
「まぁ、だいたい半日あれば帰ってこれるだろう。1人ずつ道案内はつけるから、迷うことも逃げることもできないぞ」
抜け目のない老爺は、口元は微笑んでいるのに目は決して笑わない。
「それから、街道は通ってはだめよ。私たちが使うのは、裏道、獣道、山道、屋根の上、人目についたらダメだもの」
当たり前のように微笑む老婆。
(——ということは、ルートは走りながら考えねばならない。それも、この二人の弟子に追われながら、だ。)
「10分後にスタートよ。さ、準備して。水分と食料はこれを持っていけばいいわ。さ、道案内とペアを組んで自己紹介を。みんな、新しい名前をもらったはずでしょう」
俺とペアを組んだのは、キティという赤髪の少女だった。
「あんたの名前は」
ぶっきらぼうな彼女は、光に透けると紅茶色のように見える、綺麗な髪をしていた。彼女は先の戦いには参加していなかったように思う。
「あぁ。元の名はトロー、今日からレアルタという。よろしく頼む」
握手しようと手を差し出せば、控えめに握り返してくれた。
「忠誠心、か。大層な名付けね。その名を付けた人をがっかりさせないよう、せいぜい頑張りなさい」
「もちろんだ」
コクリと頷くと、老婆の合図と共に、駈け出した。
このスタートは未来へのスタートなのか。それとも地獄への片道切符なのか。
それでもいい。まだ俺たちは生きている。




