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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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44.秋薔薇の庭で、永遠を君に誓う

輝かしい秋の月、某吉日。空はどこまでも晴れ渡り、絶好のプロポーズ日和である。

この2週間、ベルナール、コスタンツァと共に胃痛に耐えながら、完璧に準備を整えた。つもりである。


「お嬢様には絶対に気取られないようにしますわ」


そうコスタンツァは言ったが、どうにも見透かされているような気がしてならなかった。


場所は、王宮からほど近い離宮にある秋薔薇が美しく、ガゼボのある庭園を選んだ。

芳醇な香りがあたりに漂い、夜になったら無数のランタンで演出、今日は満月で月光も味方についてくれるはず。


三日前に訪れた時には、一緒に連れて行ったグレンですらため息が出るような、それはそれは素敵な庭園だった。だというのに。


「なんだこの有様は」


早朝から追い込みの準備をするために、使用人と近衛騎士で訪れてみれば、秋薔薇が咲き誇りすぎて、ガゼボが半分飲まれかけ、強すぎる香りはむせて咳き込んでしまうほどで。

また、この数日雨が降らなかったせいで、一部の薔薇は萎れている。


夕方にはルナリスを迎えなければならないのに、準備計画がもう崩れかけている。急いで王宮から庭師を連れてくるよう、使いを出した。


今日は、あの集団の力を借りることはできない。連れて来ることは簡単だが、どう考えても怪しすぎる。


「皆、今日という日を成功させるため、最後まで力を貸してくれ」


普段、第一皇子宮を仕切っている者たちだ。今日がどれだけ大事な日か、よくわかってくれている。丁寧に、それでいててきぱきと準備を進めてくれた。


私も枯れてしまった薔薇を摘んだり、庭師の切った枝などを拾って歩いた。拾っている私の姿に、縮みあがって恐縮されてしまった。


「本来のあなた方の仕事は、王宮内の庭を整えることで、陛下に雇われた身である。それなのに私の都合で勝手に連れ出したお詫びとして、協力することを許して欲しい。」


「そうでごぜえますか。それでしたら…」


それで、しぶしぶながら納得してくれた。後で付け届けを送ることにしよう。グレンに名前を聞いておくように頼んだ。


そろそろ夕方、というところでようやく準備が終わり、正直、皆の顔にも疲労が滲んでいる。

私も少々疲れたが、これからが本番である。


馬車の中でグレンに手伝ってもらいながら、濡れたタオルで体を拭い、着替えを済ませた。


ミッドナイトネイビーを基調とした上衣には金糸の刺繍が施され、胸元には複数の勲章が静かに並ぶ。肩からは濃赤に近い赤のマントが流れ落ち、縁には緻密な金の装飾が巡っている。今宵にかける気持ちを表した一着だ。


「よしグレン、彼女とは庭園の入口で待ち合わせだ。遅れないように早く迎えに行くぞ」


火が陰るにつれて庭園内に所々置かれたランタンが、柔らかな光を放ち始める。

夕暮れが迫って来ていた。


優しい光を放つ満月が、ゆっくりと姿を表し始める。



「ルナリス、よく来てくれたね」


馬車から降りてきた彼女は、シルクサテンとオーガンジーのペールピンクのAラインドレスをまとっていた。

背中が美しく見えるデザインに、秋薔薇に溶け込む薔薇刺繍が広がり、光の当たり方で優しく輝く質感が彼女らしかった。


「お待たせいたしました、レオ様」


最近は愛称で呼んでくれるようになった彼女は、まだ照れているのか、顔を赤らめている。低めのシニョンからおくれ毛がでているのが、妙に艶めいて見えた。


彼女の後ろには、最近復帰したハルト卿とライト卿が控えている。グレンに指示し、三人で距離を取らせた。


「いや、ルナリスを待たせなくてよかったよ。さぁ、こちらに。」


腕を差し出せば、そっと寄り添ってエスコートさせてくれる。彼女の体温と柔らかさを感じ、急激に緊張が高まった。


(——失敗したらどうしよう)


ドッドッと動悸が早くなり、考えないようにしていた一番の不安が押し寄せてきた。

彼女の顔がまともに見られなくなり、彼女との話は上の空になってしまった。


薔薇のアーチをくぐり小径を抜けると、大理石で作られたガゼボが姿を表した。

朝はあんなにひどい状態だったのに、庭師のハンとロン、使用人のおかげで、見違えるように美しく整えられている。


「ルナリス、こちらに来てほしい。」


彼女の両手を取り、正面に向かい合った。

彼女が今どんな表情を浮かべているのか、恐ろしくて見ることができない。


「ルナリス、もう決して貴女を離さないと誓ったことを覚えているかい?」


「ええ、もちろんですレオ様」


「今でも貴女の一番傍にいるのは私だと思うし、今後もそうありたいと思っている。貴女なしの日々は考えられない。もし他の奴に貴女の心が移ったと考えるだけで気が狂いそうだ。私と結婚することで、大変な目に合わせることもあるかもしれない。それでも、他の誰かと乗り越えるより、ルナリス、貴女と乗り越えたいんだ。あの時誓ったように、今後、これから一生貴女を守らせてほしい。」


彼女の瞳が一瞬潤んだように見えた。準備した言葉はあったが、彼女を前にしたら、全て飛んでしまい、口から出てきたのは、およそ王族とは思えない言葉ばかり。


受け入れてくれるだろうか、こんな私を。


「私と結婚してくれるか、ルナリス」


喉が渇き、声がかすれた。搾りだすように紡いだ言葉に、彼女は何と答えてくれるだろうか。


「返事を聞かせてくれるかい」


柔らかなランタンの光が、彼女の頬を包むように照らしている。

先ほどまではオレンジ色だった空は、すでに日が沈み、夜へと装いを変えつつある。


「レオ様。私も、貴方の隣に立つのが私以外の女性だったらと考えると、辛くて喉の奥が刺すように痛みます。私のこの力で、ご迷惑や余計な心配をおかけすることがあるかもしれません。でも、貴方とだけ一生を添い遂げたいのです。……はい。喜んで、お受けいたします」


闇夜の満月が、ひと筋の光を落とした。まるで、祝福するように。

その光の中で、呼吸の音だけがやけに大きく感じられる。

涙がこぼれるのを止める術もなく、ただ拭うことしかできなかった。


ふと見ると、彼女もまた、言葉を失ったまま目を潤ませていて──その静かな事実が、何よりも確かだった。



絹が触れ合う微かな音が、静寂に落ちる。コスタンツァとベルナール、そして見慣れた使用人たちの気配が、息を潜めたまま静かに頭を下げているのが分かった。


それ以上は今日は誰も踏み込んでこなかった。ただ静かに、この場を遠くから守るように見守っていた。

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