表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/66

41.死んだ者として生きよ

お茶会の裏側で、両陛下から任務を任されている。


例の襲撃犯である、元モントローズ騎士団をどうするのか、についてだ。あの件は、対外的にはただの非常時の訓練、ということになっている。真実を知っているのは、ルナリス嬢に、俺たちセレニータ帝国騎士の一部、当然両陛下と第一皇子殿下。それからあの暗殺者集団、そしてメイという平民のみだ。


殿下によって腕を切り落とされたトローとかいう元騎士団長の容体がようやく落ち着き、処遇について決めることになった。どうせ死刑になるというのに、生かすのか、という意見もあったが、元騎士の立場でなら、片腕をなくして生かされるほうが屈辱を感じるはずだと俺は思う。


「さて、お前たちの処遇についてだが」


それぞれに手枷と足枷をつけられた元騎士どもは、王宮の裏庭の片隅に地下牢から引き出され、転がされている。ずっと投獄され、最低限の衣食住を与えられている彼らは、ひどく獣臭い。


(——賊に違いないのに、ぼろ切れを纏い、薄汚れてもどこか気高く見えるのは元騎士だからだろうか。)


久しぶりの日差しに目を細めるものや、気持ちよさそうに空を見るような余裕を見せる者もいた。


彼らの周りを、王城の近衛騎士で取り囲み、もし逃亡しようとした者がいた場合、処刑してよいと許可を得ている。そして、姿は見えないが、第一皇子殿下の子飼いの彼らも、間違いなくこの場にいる。


「我らは死刑になるのが決まっているものと思っている。妙な期待を持たせず、首を切ってほしい。」


緊張感の高まる中、元騎士団長であるトローが口を開いた。


「貴様に発言の許可は与えていない。次に無断で口を開けば、喉を切る」


さっと目配せし、トローを地面に押さえつけさせる。


「貴様らに与えられた選択肢はいくつかある。1つ、即時即刻の処刑。2つ、鉱山での一生涯に渡る重労働。3つ、奴隷として海外へ売り飛ばされる。4つ、死んだものとして生きる。さぁ、どれにする。」


4つ目を口に出したとき、賊どもがざわりとどよめいた。そもそも選択肢が与えられることがない点において、今回は特例中の特例と言える。


発言を求めてか、幾人かが手をあげたが、それを無視してさらに続けた。


「個人の意見は聞かん。賊だが、元騎士団であることから、一蓮托生とみなす。判断は、元騎士団長のトローに委ねるとする」


地に伏せているトローに一斉に視線が向けられた。彼は、押さえつけられた無理な体勢から、発言権を求めて挙手をした。相当激痛がしているだろうに、顔に出さない胆力だけは認めてやる。


「4つめの死んだ者として生きる、というのはつまりどういうことなのか」


「言葉遣いがなっていないようだ」


ぐっと顔をゆがめ、言葉を飲み込んだらしい彼は、再び口を開いた。


「死んだものとして生きるということは、どういうことでしょうか」


「それは——」


「我々のように生きるということだ」


音もなく、お仕着せを着たコスタンツァとベルナールが姿を表した。ここにいるほとんどの者が、二人に煮え湯を飲まされている。ギラギラとした瞳で睨みつける者、恐怖に震える者、そして冷静に見つめる者。反応は様々だ。


(——俺は置いてけぼりか)


突っ込みたいが、二人がそれを許さない。


「それは、暗殺者集団の一団になれと、そういうことか。」


内心燃えるような激情に駆られているのを、必死に押し隠しているように見える。


「ええそうよ。今回のことで、私たちはお嬢様付きになることが決まったの。そうすると、ぼっちゃまに付くものがいなくなるでしょう。」


「近衛だけだとなにかと不安がありますから」


失礼な物言いだが、実際問題そうだから反論もできない。そうでなければ、過去、彼らの侵入を許すはずがないのだ。


「それにね、最初は選択肢は3つだけだったのよ。お嬢様が4つめを陛下に懇願されたの。あんな思いをされたのに、あなた達を切り捨てることが、お嬢様にはどうしても出来なかったのね。前の国で、守ってもらった恩を覚えてらっしゃるのよ」


さわさわと優しい風が、裏庭を通り過ぎた。


ルナリス嬢が懇願したと聞かされた奴らは、驚いたように目を見開いた。色なしと蔑み、誘拐未遂犯をかばう人間がいるなんて、普通は思わないしな。


「それを無下にするなら、仕方ない。どうせ鉱山へ行っても奴隷になっても待つのは死のみ。そんなに死に急ぎたいならば、この老骨が今ここで、直接その無駄な命を刈り取ってやろう」


すらりと獲物を取り出し、ジリジリと距離を詰め、今にも飛び掛からんとする二人を、どうにか押しとどめる。近衛騎士からも殺気がにじみ出ている。


「まだ奴らは回答を出してませんから、もうちょっとお待ちくださいね。」


「あら、あんまり待たないでちょうだいね。老い先短いのよ」


「ほほ、年寄りは物忘れも多いですから。待てと言われたことも忘れてしまいますね」


ニコニコとしても獲物は両手に持ったまま。はぁとため息がもれ、頭痛がしてきた。


(——本当にこいつらがルナリス嬢付きになって大丈夫なのか?)


「ルナリス様が、そのような……我らに、チャンスをくださったのか」


トローが独り言のように口に出した。まっとうな姿で生かしてやることはできない。せめて、どうにか、という交渉がなければ、この場で引き出された瞬間に処刑だ。


「さぁ、どうする。」


ずっとざわついていた奴らだが、もう意思は決まっているようだ。お互いの目を見て頷きあっている。


緊張感が否応なしに高まる。


「我らは許されないことをしました。でも、生きるチャンスを与えてくださった、ルナリス嬢に報いたい。4つ目の選択肢を選ばせてください。」


トローの返答と共に、賊どもが深々と頭を下げた。


最初からそうなるだろうとは思っていたが、1つ目を選んだら、ルナリス嬢からどんな事を言われるか、内心ちょっとビクついていた。


「あら残念。」


「おやまぁ。」


ようやく獲物をしまった恐ろしい侍女頭と執事は、つまらないという風な顔をしている。あれだけ煽っておきながら、なんとふてぶてしいのか。


「では、グレン卿、この者たちは預からせていただくわね。殿下の身辺を守れるよう、みっちりしっかりぎゅっと鍛えてお返しします。」


「ええ、それはもう、絶対に歯向かおうなんて思わないくらいに、びしっと。明日から、連れてきてください。もちろん身綺麗にさせてから、です。」


そう言って立ち去りかけた二人は、急に踵を返して戻ってきた。


「そうそう。大事なことを忘れていたわ」


「次に私たちの大事なお嬢様、お坊ちゃまを歯牙にかけようとしたら、その時は——」


「「この上なく残酷で残虐に、あの世にいけないくらいにすり潰してやる」」


そう言い放った二人からは、気を抜いたら嘔吐するくらいの生臭い殺気が放たれた。気付けば、背後には、二人の教え子たちが無数に控えている。我らを取り囲み、いつでも見ているぞ、と言わんばかりだ。


(——いつからそこにいた、全く気付かなかった)


背中を流れる汗が気持ち悪く、近衛騎士にも賊の中にも、口元を抑える者がチラホラいる。この二人だけは絶対に敵に回してはいけない、逆らってはいけない——この場にいる生きとし生ける者の本能にそう刻まれた。


——二度と、敵に回してはならないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ