39.三週間のドレス問題—頼れる女は突然に
両陛下とのお茶会は、ちょうど3週間後。
謁見用のドレスを仕立てる時間はギリギリ足りないような、間に合うような、非常に微妙な日程であった。
ドレスを持っていないことを見越しての両陛下の計らいなのだろうが、なぜせめてあと1週間くれないのか、と思わずにはいられなかった。
「ルナリス、ドレスをその、揃いで仕立てたいと思うんだが、時間が、なんというか微妙だな」
帝室御用達のドレスショップはあるものの、そこで仕立てた場合の費用は、帝室持ちとなってしまうし、何よりもそれは帝室への仲間入りを宣言するも同じである。
だからこそ、これ以上のプレッシャーを彼女にかけたくはなかった。
(——彼女を手放すつもりは、さらさらないのだが)
「ええ…3週間では受けていただけるお店を見つけるほうが大変かもしれません。…超特急料金を払っても渋られるお店が多いような気が」
コスタンツァではないが、まさに衣装が問題である。とはいえ、登城をお断りする勇気も延期依頼をする胆力も持っていない。どうにかするしかないのだ。
「ベルナールやコスタンツァ、他の誰でもいいが、どこか思い当たるところはないのか?」
問いかける私に、周囲にいた使用人たちも各々手を止めて考え、ぽつりぽつりと上がる店名を検討したが、どうにも決定打に欠ける。
やはり帝室に頼るしか、と思った時。
「あの、レオナルド様、1つだけ心当たりがあるのですが」
そういったルナリスがあげたのは、生活に溶け込みすぎて誰も思い当たらなかったあのお店。
急ぎ書状をしたためて使者を出した。早くも午後には返事と共に、デザイナーが参上した。
「セレニータ帝国の光たる第一皇子殿下に、月桂樹の輪 副支配人マーサ・ミルド、謹んでご挨拶申し上げます。」
「面を上げてくれ、マーサ・ミルド。よく来てくれた。急な呼び立てで悪いが、彼女の装いを頼みたい。二人は面識があると聞いているが」
不思議そうな顔をしたマーサは、ルナリスが目に入った瞬間、すました顔から一気に破顔した。
「まぁ、ルナリスちゃん!また会えるなんて嬉しいわ!ということは、そういうことなのね。おめでとう」
「マーサさん!ご無沙汰しております。副支配人でいらしたのですか。私、先日はとんだ失礼をしてしまいました。」
明らかに狼狽した彼女は、マーサ相手に謝罪を繰り返した。いったい彼女はなにをやらかしているのだろうか。
「あら、そんなことないわよ。私が名乗らなかったし、そんなの気にしないで、今後もお付き合いしてほしいわ」
ニコニコと微笑むマーサに、ルナリスもほっとした顔をしている。
しかしこのままでは埒が明かないと、ゴホンと咳払いすると、二人は我に返ったように、慌てて居住まいを正した。
「この度、帝王陛下及び帝妃に謁見するにあたり、ドレスを仕立ててもらいたい。お茶会だから、そこまで形式ばったデザインでなくていいとは思うが、初めてのことだから。彼女の美しさを引き立てるものを頼みたい。ただ、書状にも記したが、時間がな…」
しりすぼみになる私に、マーサは歯切れのよい返事をくれた。
「第一皇子殿下、我々にお任せください。きっとご満足いただけるものを仕立てさせていただきます。さぁ、お二人とも、まずは採寸からですよ」
マーサの瞳がぎらりと輝き、午後いっぱいは採寸にデザインの相談、それから宝飾品、小物合わせ、と月桂樹の輪よりどんどんとサンプルが持ち込まれ、解放されたのは、日付が変わる少し前。
内心倒れそうなくらいに疲れている私と違い、マーサは全身にやる気がみなぎり、来た時よりも元気そうに見えた。
「仮縫いをしましたらご連絡させていただきます。10日ほどお時間下さいませ」
そう告げると颯爽と去っていく彼女を尻目に、安堵のため息がでたのは私だけではなかった。




