【閑話】 カラーリス国王は愕然とす
隣国のセレニータ帝国とは、この数十年の国交がない。
色なしを殺したせいなのだが、隣国では「無色の乙女」とかいう大層な呼び名で保護しているらしく、戦争一歩手前まで発展した。
そんな隣国から、非常に無礼な使者とともに一通の手紙が届けられた。
真っ黒な封筒に、真っ赤な封蝋がされている。
差出人の名前はなかったが、セレニータ帝国からの使者ということは、差出人は知れている。
でっぷりと肥え太った腹がつかえて上手く椅子に座れないため、いつものようにソファに寝転んで開封した。
≪拝啓 カラーリス公国何某殿≫
お前の国はまた性懲りもなく、我が国内で狼藉を働いてくれたな。
我が国を頼った令嬢に対し誘拐するなどと、恥を知れ。
いや、貴国に「恥」などという概念はなかったか。建国当時から恥知らずな国であった。
ついては、貴国の侯爵であるモントローズの糞に対する蹂躙許可証を寄越せ。寄越さないなら我が直接貴国へ罷り越すとしよう。
手紙を受け取ってから一両日中に蹂躙許可証を出さないのであれば、我が国と全面戦争になることを覚悟せよ。
ロルモンも跡形もなく消してやる。今はしないだけだ。
≪敬具 セレニータ帝国 第十三代帝王 エドワード三世・ディ・ルミナーレ≫
(——なんだ、この内容は)
内容が内容だけに怖気が走り、カニのように泡を吹いて失神し、ソファからずり落ちてしまった。
侍医から介抱され、すぐに目が覚めたが、状況が変わるわけでもない。
手紙一枚でさらっと済ますような、そんな軽い内容ではないのだ。
モントローズに、ロルモン。
それで思い当たるのは、公爵家に生まれた「色なし」の娘。
かろうじて貴族籍は残っているものの、ロルモン公爵家から除籍され、婚約者も妹に奪われた、あの娘。
(——よりにもよって、あの娘か)
内心、舌打ちが出そうだった。
またもや色なしに煩わされるのかと苛立ちが込み上げるが、蹂躙許可証を出さなければ、あの強大な国を相手にしなくてはいけないのもまた事実。
過去にも周辺国が、些細なことで地図から消されたことがある。
じっとしていることが出来ず、私室をウロウロと歩き回る。
封筒と封蝋の色は宣戦布告と警告の組み合わせだ。この国に血の雨を降らせるわけにはいかない。
(——屈したわけではない)
そう心で呟き、手元にインク壺を引き寄せ、書をしたためた。
そうして書き上げた書を近衛に渡すと、受け取った無礼な使者は即座に王宮を後にした。
無礼な振る舞いを咎めることもできない哀れで愚かな自分が歯がゆく、そしてみっともないという気持ちに囚われた。
「ロルモン公爵、それからモントローズ侯爵を即刻登城させよ!」
近衛に申し付けると、私室から自分以外のすべての人間を追い出した。
この顛末は、二人に弁明させなければ気が済まない。
多少の苛立ちを彼らにぶつけたところで、許されるであろう。
そう考え、謁見服はどうするのか、追い出したばかりの執事に耳打ちし、二人をどう懲らしめてやるか妄想を膨らませた。
最悪、この私だけ生き残ればそれでいいのだ、と呟きながら。
「——だが、問題はそこではなかった」




