38.未来のお父様からの招待状
手の中の封筒が、汗でわずかに湿っていた。
王城への招待状——それが意味するものを思うだけで、喉の奥がひりつく。
例の事件の2週間後、ライト卿とハルト卿を見舞っていた所に、レオナルドと共に登城せよ、との王命が下されたからである。
その後は近衛騎士より受け取った招待状をぎゅっと握りしめ、足元が覚束ないまま、どうやって帰宅したのか覚えていない。
コスタンツァとベルナールは、何かされたのかとざわついたらしいが、私が握りしめている封筒をみて、合点がいったらしい。
「お嬢様、腑抜けている場合ではございませんよ。早急におぼっちゃまと連絡をとり、衣装を合わせないといけません! 問題は衣装ですよベルナール!」
頬を紅潮させたコスタンツァは、柄にもなく大声でベルナールを呼びつけた。
「おいコスタンツァ、そんなに興奮したらお嬢様が倒れてしまうぞ。もうこちらから連絡する前に、先ぶれが来ているよ。すぐに来てくださるそうだ」
そういうベルナールも、いつもよりもどこか嬉し気に見える。
あの事件の後から、意図的に引かれていた一線が消え、遠慮がなくなった。以前なら踏み込まなかった距離に、ベルナールは何の躊躇いもなく踏み込んできた。
あの後は、使用人ズみんながヘロヘロに疲れていたが、中でも一番の功労者の二人は、たっぷり一週間は寝込み、昨日から復帰となった。
「寄る年波には勝てない」と言いながらも、今日もモリモリと働いてくれている。有難いことだと噛み締めた。
「お嬢様、それで、お手紙はお読みになったのですか?」
「いえ、まだなのよ。怖くて……コスタンツァ、一緒に見てくれないかしら」
(……逃げたい。でも、逃げたらきっと後悔する)
そう思いながら、ルナリスは封蝋に指をかけた。
見た目で高価とわかるピンクゴールドの封筒に、金の封蝋。
シルバーの光沢のある上質紙には、別の意味で緊張の走る内容が書かれていた。
≪拝啓 未来の娘のルナリスちゃん≫
この度は、我が国内で大変恐ろしい思いをさせてしまい、申し訳なかったね。
この国を代表して、心からの謝罪を述べさせてくれ。
国内が平和であったせいで警邏隊や騎士たち、国境警備にも気の緩みがあったのだろう。今後は私自ら厳しく戒めていくつもりだ。逐次成果は報告させるように手筈を整えておこう。
ところで、そんな訳なので直接謝罪したい。
帝妃もとてもすごく、ものすごい君に会いたいそうだ。
レオと一緒に、ぜひ登城してくれ。君に会えることを心から楽しみにしているよ。
そうそう、グレン卿も忘れずに連れてくること。
≪敬具 未来のお父様 エドワード三世≫
「両陛下とお茶……」
絶句するルナリスの傍らで、「帝王が謝罪……」と目を白黒させるコスタンツァ。
手紙を渡されて読んだベルナールは、「そんな訳とは?」と首を傾げる。
その時、扉が勢いよく開いた。
「ルナリス!!」
息を切らしたレオナルドが、扉口に立ち尽くしていた。
「大変だルナリス、帝王陛下が……」
と言いかけたところで、握られた招待状をみたレオは、「遅かったか」と苦い顔で言葉を飲み込んだ。




