【閑話】 斜陽のモントローズ侯爵家
大変お待たせして申し訳ございません。
あの報告が入ってきた時ですら、こんなに慄きはしなかった。
家人の静止も聞かずに、騎乗 de 邸内へ乗り込んできた騎士から、真っ赤な封筒に真っ黒な封蝋のされた手紙を受け取った。
差出人は書いていない。
執務室から慌てふためく執事を追い出し、恐る恐る内容を読み進めると、とんでもない内容が書き記されていた。
≪拝啓≫
モントローズ侯爵家当主 何某殿
まどろっこしい前置きは、貴様に対しては書く気にもなれん。
この度は我が国内で大いに暴れまわってくれたな。
ついては、お前の家に制裁を下すことと相成った。
お前のところの国王何某からも許可はもらったぞ。許可書を同封しておくから、まぁ、目を通しておけ。
全く、何年かぶりに国王宛に手紙を送ったら、あやつは泡吹いて倒れたらしい。大の大人が泡を吹くなど、ぜひとも見たかったが、残念だ。近く訪れるとしよう。
それでな、話を元に戻すのだが、せいぜい抗ってくれ。そうじゃないと、つまらんし。
本当は焼けた靴を履かせて躍らせたかったのに、それはダメだと言われてさ。
僕もあんまりなことして、将来の息子の嫁さんに嫌われたくないんだ。
とどめは刺さないであげるよ。
≪敬具 セレニータ帝王 エドワード三世・ディ・ルミナーレ≫
こんな具合の失礼極まりないふざけた手紙と共に、カラーリス国王からモントローズ侯爵家への蹂躙許可証が同封されていた。
こんな手紙1つで、この伝統と格式のあるモントローズ侯爵家を潰すだと!!
怒りで全身が戦慄いた。
(——国王も国王だ。たかが小娘の誘拐未遂で蹂躙許可書だと!?)
「おい!トローをここへ呼べ!!」
執務室の扉を力任せに押し開き、駆けつけた執事に言いつけると、気後れした様子の執事が上目遣いで見てくる。
「トロー騎士団長は、おそらくかの国に囚われている、もしくはすでに処刑されているのでは・・と」
そうだ、我が騎士団はほぼ壊滅に近い状況に追い込まれている。
領内に残っているのは騎士見習いの、えい!やー!とうっ!などと力任せに剣を振り回すことしかできない、幼子しかいない。
ギリギリと音が出そうなくらいに奥歯を嚙み締めた。
なぜ全ての勢力をそそいでしまったのか。己の先見の明のなさに、がっくりときた。
当然ながら隣国の帝王は、彼女の価値にも当然気づいている。
だからこそ、皇子の妃として迎えるのだろう。
つまり、第一皇子妃に手を出したようなもの。
ここまでかの国が乗り出してくるとは、想定外だったが、そうだ、国交断絶の原因を思えば、手を出してよいはずがなかった。
後悔してもすでに遅いが、一国とただの侯爵家。
どちらに軍配が上がるかは目に見えすぎている。
だが、抗わなくては。
例えバカ息子とあのバカ女を踏み台にしても、この私が生きていれば、血さえ残ればいい。
あとはいくらでも取り戻せる。




