37.全部バレている2
「……いい目だ。女一人のために国を捨てる覚悟があるなら、国のために女一人を守り抜く強さもあるだろう」
審問は終わりだ。
陛下はそう告げると、重厚な口調で言葉を継いだ。
「レオ、今回の件のツケは、これからきっちりとモントローズ侯爵家に支払わせる。ロルモン公爵家はお前が好きにしたらいい。カラーリスにも連絡は入れておこう。――『貴殿の国の貴族が、我が国で暴挙に出た』とな。それでこちらも好きに動ける。必ず落とし前はつけろ。将来我が娘となる、ルナリス嬢のためにもな」
「……はっ」
「どう対処するかは、また別日に話し合おう。……それから、ヴァル」
陛下に呼ばれた王妃陛下が、扇で口元を隠しながら、いたずらっぽく目を細めた。
「ええ、陛下。ルナリスさんと会えるのが楽しみですわ。彼女はどんなものが好きかしら。レオ、これからたっっっぷり教えてくださいね。彼女をお披露目しなくちゃいけないもの。あぁ、そうだわ。カラーリスの貴族籍も抜かないとね。あの国と縁付いてもしかたないもの」
面白そうに笑う両陛下に、背筋がゾクリとするのを止められなかった。
と同時に、私は確信した。
今日はもう逃げられないのだ、と。
この後、両陛下から搾り取るように、ルナリスについての拷問のような質問攻めを受けた。
(――ルナリスに会って、癒されたいな)
◇
その頃のルナリスは、ライト卿とハルト卿、それにジョージのお見舞いに、王宮騎士団内にある治療棟を訪れていた。
モントローズ侯爵家直轄の騎士団が捕らえられたとはいえ、また別の人間が手を回している可能性も鑑み、今日は多くの護衛騎士に囲まれながらの外出である。
(――この国の貴族でもない私がこんなに護衛されているのは、どうにも落ち着かないわ)
裏でセレニータ帝国へのお披露目が着々と進められていることも知らないルナリスは、そっとため息をついた。
「ラントン様、こちらです」
案内されて着いたところは、重症患者ばかりが寝かされる病室だった。
空いているベッドも多い中、窓際の二つのベッドに二人が寝かされていた。
「ライト卿、ハルト卿。お加減はいかがですか?」
頭にも腕にも包帯を巻き、顔も腫れてしまっている二人はまどろんでいたようで、私の声で起こしてしまったようだ。
見た目だけでも痛々しく、できることなら代わってあげたいほどだった。
「ラントン様、ご無事で……本当に心から安堵いたしました。今回は私たちの失態でこのようなこととなってしまい、お詫びのしようもございません。大変申し訳ございませんでした」
「自らの不甲斐なさに、身もだえしております。それから、勝手にお名前をお呼びしてしまったこともお詫びいたします」
二人がベッドから降りようとするのを押しとどめると、観念した様子の二人は深く頭を垂れた。
名前呼び?
と訳が分からず頭を傾げると、ハルト卿が「逃げるようにお伝えした時です」と教えてくれたけれど、あの時は必死すぎて全く覚えていなかった。
「そんなことは良いのよ。あの時は、私が悪かったの。二人が後ろにいないことに気づいたときに、すぐメイさんの家に引き返せばよかったのに、そのまま馬車のほうへ行ってしまって。こんな目に合わせて本当にごめんなさい」
ハルト卿はあの時、頭から血が出ていた。
「ハルト卿、体の方はどう? 痛むところはない?」
「ええ、額を少し切りましたが、頭の傷は見た目よりも出血が多くて派手なだけなのです。他は……死ぬほど殴られたり蹴られたりしましたが、骨が数本折れただけで、しっかりと療養すれば、元のように剣を振るえるようになるそうです。ご心配をおかけしまして、申し訳ございません」
やはり見た目以上の重症の彼らは体もつらいはずなのに、おくびにも出さない。
だが、水色の病院着から覗く肌は隙間なく包帯が巻かれている。これで痛みがないはずもなかった。
「そうなのね。よかったわ。もしかしたら、このまま護衛騎士を辞めてしまうんじゃないかって心配だったの。でも、わがままだけれど、私は二人に護衛してもらうのが一番居心地がいいの。だから、二人がもし嫌じゃなかったら、復帰しても私の護衛についてくれないかしら」
私は二人の手を取った。
マメが無数に潰れた跡のある、ゴツゴツした感触。
この手は、本当に剣を握り、たくさんの努力をした人しか手に入れられないものよ。
「っ! もったいないお言葉です、ラントン様」
ハルト卿が、包帯越しに顔を赤くして視線を泳がせた。
「ラントン様、あの日、皇子殿下から気を引き締めて護衛するように言われましたのに、このようなこととなり、このまま騎士を辞して領地へ引きこもろうかとも考えておりました。ですが、そのようなお言葉をいただいて、このまま辞するわけには参りません。ハルト卿と共に、早く復帰できるよう全力を尽くします。――未来の皇子妃のためにも」
最後にいたずらっ子のような笑みを浮かべたライト卿の言葉に、ボッと顔が真っ赤になってしまった。
「な、なな、なんで知ってるの!? 誰から聞いたの!?」
「グレン卿がお見舞いに来てくださった際に、身振り手振り交えて詳しく教えてくださいましたよ。我々は見れていないだろうとおっしゃって。――あの第一皇子殿下が、と興味深く拝見させていただきました」
なぁ? と言われたハルト卿はコクリとうなずいた。
(――グレン卿、なんてことしてるのよ!!)
恥ずかしくて身もだえしていると、「お嬢様!! ご無事でしたか」とジョージが病室に入ってきた。
見た感じ、そんなに大きなけがをしているようには見えないが、同じ水色の病院着を着てガウンを羽織っていた。
「ジョージ! 今回は巻き込んでごめんなさい。怪我はどう? 大丈夫なの?」
「ええ、私は大丈夫ですよ。大したけがもなくて、今日退院予定です。しばらくはお休みしますけれど」
「そうなのね、よかったわ。あなたも復帰したらぜひ、また私を馬車に乗せてくださいね。あなたが良ければだけれど。本当に無事に生きていてくれて、良かったわ」
「もちろんですよ、お嬢様。未来の皇子妃を乗せることができる名誉なぞ、そうそういただけることではありませんからね。お嬢様をお乗せするために、馬車をピカピカに磨き上げてご覧にいれますよ」
むん、とガッツポーズを取るジョージ。
ジョージまで知ってるなんて。
(――グレン卿!!!!!)
恥ずかしくて、穴を掘っていなくなってしまいたくなった。
(――もう! レオナルド様のところに飛んでいって、言いつけてやりたいわ)




