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三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る   作者: りっちょまん


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35.春の妖精へ捧ぐ

ひどい目に遭わされているかもしれない。


そう思いながら、道中で何度も替え馬をしながら、ここまで風よりも早く疾走してきた。

後をついてこれたのは、グレンを含めて数人だけ。


陛下に承諾を求めていては間に合わない。そう判断して独断で国境を封鎖し、軍を動かした。

使いは出したが、許可が下りたか確認する暇はなかった。


第一皇子がこんな無茶苦茶なことをしたら、後々、帝王陛下から罰を賜る可能性もある。

けれど、そんなことよりもルナリス嬢を助けたい、その一心だった。


ようやく追いついたと思ったが、コスタンツァ目掛けて振り下ろされる剣を見て、思わず割り込み、コスタンツァの命の代わりに奴の片腕を奪ってやった。


守られる立場の人間が、このような捨て身の行動をすることは、部下たち全員の命を危険に晒すことに他ならない。

だが、ルナリス嬢の家族同然の彼女を助けるのに、迷いはなかった。


馬車から降りてきたルナリス嬢の無事がわかった瞬間、胸に熱いものがこみ上げ、土埃と汗まみれの体にもかかわらず、思わず彼女を抱きしめてしまった。


想像よりもずっと細く、小柄な彼女の体は柔らかで温かかった。腕の中にすっぽり収まるサイズ感が心地よい。


「ルナリス嬢、いや、ルナリス、よく無事で。」


この腕の中に閉じ込めてしまいたい。

ぎゅっと抱きしめると、彼女がわずかに身じろぎするのを感じた。


「レオナルド様、少し苦しい、です」


少し力を緩め、彼女から体を離した。

——まだ、腕の中からは逃がしてやらない。


彼女の体へと目を向けると、手足にうっすらとした縄の跡が見て取れ、ワンピースの袖口や襟元がぐっしょりと濡れていた。まだ頬に涙の跡がくっきりと残っていた。

絶望と孤独の中、彼女がどれだけ恐ろしい気持ちでいたことか。


「救出が遅くなり、すまなかった」


私がもっと早く救助に向かっていたら。自らの不甲斐なさに、歯ぎしりしたい気持ちだった。


「いえ、私が一人になったのが悪いのです。言われておりました。決して一人で行動してはいけないと。言われておりましたのに……。そうだわ、レオナルド様、ライト卿とハルト卿は無事ですか? ジョージは大丈夫なのですか」


少し余裕が戻ったらしい彼女が、護衛騎士と御者の安否を気にしだした。


「二人なら、ずいぶん抵抗したらしく、かなりやられたようでまさに満身創痍の状態だが、助かるそうだ。ただ、長い療養が必要だな。

それからジョージは、リマントンの森の中に、猿轡と目隠しをされ、転がされているところを保護された。三人とも、一番にルナリスの事を心配していたよ。落ち着いたら顔を見せに行ってやってくれ」


そう答えると、とても嬉そうに笑顔を浮かべる彼女が、ひどくかわいく思えた。


「あなたが攫われたと聞いて、心が張り裂けるような気持ちだった。……もう決して、貴女を離さないと誓う」


彼女の両肩に手を置き、まっすぐに見つめてそう告げると、彼女は戸惑ったのか、慌てたのか、どちらかわからない顔をした。


「レオナルド様、そんな、急に何を。なにか混乱してらっしゃるのでしょうか」


腕の中から逃げようとする彼女を抱きとめ、耳元に囁いた。


「ルナリス、貴女を愛している。おそらく、春の妖精のような出で立ちで、馬を駆っていた貴女を見た時から」


「それは……無色の乙女だから、でしょうか」


少し震えるような、か細い声で彼女が言葉を紡いでいる。


「いや、そうじゃない。毎日ひたむきに努力する姿勢、尊大に振る舞ってもおかしくない身分の持ち主なのに、誰にでも優しく親切で、気遣いもできる貴女だから好きなんだ。

それに、マナーも薬草や政治、外国語にも明るく、こんなに知識量のある令嬢は、そうそういないよ。

習得するのは、かなりの努力が必要だったろう。……それにね、貴女は気づいていないだろうけど、とても綺麗で、私の心はとうに貴女のものだ」


「レオナルド様、お気持ちは嬉しいです。でも……私は実家を追い出された身です。そんな私がレオナルド様のお相手を務めるのは……」


「いや、まだ断らないでくれ。今はルナリス、貴女の気持ちを知りたいんだ。私に教えて欲しい」


抱きしめていた腕を緩め、両手で彼女の手を包み、じっと目を見つめると、恥ずかしそうに彼女が目線を逸らした。


「攫われたとき、もうこれでレオナルド様に二度と会えないのだと思ったら、涙が止まりませんでした。でも、貴方の事を思ったらほんの少しだけ勇気が湧いて、馬車の窓を開けて革ひもを外に投げられたんです。

私は、無色の乙女なのに力もコントロールできませんし、実家もありません。

この国の生まれでもないので、貴方のお力になることは難しいかもしれません。……でも、私もレオナルド様と同じ気持ちだと思います。お慕いしています、レオナルド様」


顔がほんのりピンクに上気し、はにかんだような潤んだ笑顔の彼女が、私をぴたりと見つめてくれる。


「あの目印を見つけたと報告があった時、私は神に感謝した。……ああ、ルナリスは諦めていない。貴女が投げたあの小さな希望が、私をここまで走らせてくれたんだ」


目が合うと、とろけるように甘い気持ちが心に流れ込んできた。


(——こんなに嬉しいことがあるだろうか)


「ありがとう、ルナリス。私の気持ちに答えてくれて本当に嬉しいよ」


嬉しくて涙が出そうなのを、鼻をすすって誤魔化した。

まさに有頂天だったが、鼻をすする私の背後で、誰かがクスリと笑ったような気がした。


そして、はた、と気づいた。


「おやおや。ぼっちゃまも、これほど必死な顔をなされるとはねぇ」

「全くだ、こんなぼっちゃまのお姿を見ることができるとは」


誰かのそんな茶化すような声が聞こえ、思わず羞恥心で顔が真っ赤になった。


コスタンツァとベルナールがモントローズ侯爵騎士団の残党をつつき回しながら、こちらを見てニコニコといい笑顔を浮かべていた。


グレン他、追いついてきた騎士たち、コスタンツァとベルナールの部下たちも残党処理とけが人の手当をしている真っ只中の告白。

周りには立会人よろしく、沢山の人が、固唾を飲んで二人の行方を見守っていた。


「殿下、おめでとうございます!!」


私の代わりにグレンが涙を流し、部下の騎士たちも右に倣え状態。緑の淑女(ダーマインヴェルデ)の使用人たちは、いよいよ準備を、と浮き足立ち。


(——あー、これやったー、派手にやっちゃったー)


明日からが恐ろしや、とため息をつく私と、遅れて状況に気が付いたルナリスは真っ赤な絵具のように顔を赤らめ、両手で顔を覆って、ややしばらくは顔を見せてくれなかった。

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