76.そなたたちの答え
「そろそろ落ち着いたかね」
時間が経つにつれ、光の奔流が少しずつ勢いを失い、ついには穏やかな状態に戻った。カラーリス側も、罰が軽かった者から、落ち着きを取り戻して行った。
「あぁ…助けてくれ。何も、何も見えぬ」
「今どうなっているのだ、誰か説明せよ」
「ルナリス、お願いだ。元に戻してくれ」
三人だけは、いつまで経っても騒がしく、また目から流れ出た血液で、衣服や床を汚し、悲惨な状態だ。
そんな状態の三人にわざわざ近づく者などおらず、遠巻きに距離を取っている。
「さぁ。裁きは終わりました。…ですが、国王陛下の目が見えない今、そちらの国は、
今後どうされるおつもりでしょうか」
宰相はお飾りのこの国では、実質国王がすべての采配を振るっている。
代わりの人材がいるかしら。王妃陛下は、凡庸なお方。代わりが務まるとも思えないし。
「どう、と言われましても…なんとかせねばいきますまい」
進み出た宰相は、周囲を見渡し、困り顔を隠せない。少し目を傷めた程度のようだ。涙の痕が、頬に残っている。
「隣国がそんな不安定な状態では、他国に滅ぼされるぞ。ただでさえこの小国は、四方を大国に囲まれているというのに」
椅子にふんぞり返ったままの帝王陛下が、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「しかし、この場でどうするかを議論するわけにも…」
「そういえば、この中にモントローズ侯爵はいるのかな?」
脈絡のない発言に、周囲がざわめいた。
「…ここにおりますが」
片目から血の涙を流した、枯れ木のような老人が前に進み出た。
(——最後に会ったときはこんなにやつれてはいなかったのに…。私の事件があった後、相当な何かがあったのだわ)
「おお。こんなに枯れ木のようなジジイであったか。お前、我が国に何をしたのか、覚えているであろうな」
「贖罪の気持ちを胸に刻み、日夜職務に励んでおります」
例の事件の首謀者だから、片目の視力は失われてしまったけれど、元々の貴族としての矜持は忘れてはいないらしい。
「お前が代理としてこの国を治めたらどうだ? モントローズ」
誰もが考えつかなかった突拍子もない案に、誰もが驚きを隠せない。
「まさか、王家以外が治めるなど。内政干渉ではないか」
「侯爵が代理など、聞いたこともない。前例はあるのか?」
「お静まりなさい、まだ陛下のお話は終わっておりませんよ」
凛とした声が、大広間に響いた。帝王妃陛下が、王妃陛下の椅子から声を発したらしい。
本来の持ち主の王妃陛下は、どうしたらよいのかわからず、後ろに控えたまま、アワアワとしている。
これが王族だというのだから、惨めなものだ。
「我が国が他国から守ってやる。だが、条件がある」
固唾を飲んで見守る中、口元に冷ややかな微笑みを浮かべた帝王陛下が、先を続けた。
「知っている通り、この国は我が国と文化が違い過ぎる。
この国を立て直し、三原色に対する認識を改めさせるのだ。
それができたとき、対等な立場で我が国に迎えることを約束しよう。
さぁ。どうする」
床に転がるこの国のトップ、そしてそれに次ぐ地位である公爵、そして、モントローズ家の跡取りのはずの若侯爵が、目が見えぬまま、この国を統治できるだろうか。
無論、周囲の助けがあれば、本来なら不可能ではない。だけれども…
(——国王陛下が、周りに力を与えることを厭い、貴族のトップだけで統治を行ってきた弊害ね)
誰もが、己で判断するということをしていない。結果的に、強いものにすがってしまうのだ。
まるで先を行くヤギの元に羊が集うように。
「それが、そなたたちの答えなのだな」




