77.王冠はいらない
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モントローズ侯爵の後ろに集結した人々は、怯えたような顔をしている。
「いや、これは何かの間違いなのでは…」
前に押し出された本人のみが最後まで困惑している。後ろに並んでいるのは、貴族たち。平民でもない、これほどわかりやすいことはない。
「それが民意というやつなのではないか、モントローズ」
陛下が声をかけると、ビクッとわかりやすく肩を震わせた。
「しかし……」
「じゃあお前、後ろで羊みたいに震えてるやつらに国政任せて運営できると思うのか?」
ゆっくり後ろを振り返ったモントローズ侯爵は、人々の顔をゆっくりと見回した。誰もが下を向き、暗い顔をしている。
「いえ……あっという間に他国に侵略されてしまうでしょう。」
「なら、お前がやれ。あくまで代理だけどな。そこに転がった男の王冠でも被ってみるか?」
ニヤニヤしながら顎で指したのは、この国の国王陛下。まだ血を流しながら、のたうち回っている。
「いえ、ご心配には及びませぬ。数年以内に、なんとかしてみせます。帝王陛下」
モントローズ侯爵が臣下の礼を取ると、後ろに控えた貴族たちも、慌てて彼に倣った。ここまで人の真似しかできない者たちであれ、モントローズ侯爵に倣って、意識を変えるのも難しくはないかもしれない。絵本も出回っている上、この国へ来るまでの道中で感じた歓迎ぶりから、そう感じた。
「その言葉、忘れるなよ。さて、我々はそろそろ離宮に戻ろう。何せ、昨夜の襲撃のおかげで、寝不足だ。また襲撃したいなら、我々はいつでも相手になるぞ。その代わり、帝国を敵に回すと心得よ」
ひらひらと後ろ手に手を振る陛下に付き従い、私たちは離宮へと戻った。
***
「容体はどうなの?」
コスタンツァとベルナールは虫の息だ。キティとレアルタが手当をしていなかったら、とっくに死んでしまっていてもおかしくなかったという。
「ええ。あまり芳しくはありませんね。古傷も多く、とっくに限界を超えていたのではないかと思います」
医師の話に、まさか、という思いで胸が痛い。
「そんな。あんなに元気そうに見えていたのに。私は、気づけなかった」
「それは当たり前だよ。あの二人が本気で隠そうとしたなら、気づけなくて当然だ」
レオ様がゆっくりと歩いてきた。お互いにまだ湯あみもできず、ボロボロの状態のまま。傷ついた者たちの情報を自分の足で集めている。
「そうかもしれませんが。もしそうだったら、二人はここまで連れてこなかったのに」
「それは違う。あの二人でなかったら、きっとルーは生きていなかった。バルカをあそこまで足止めできたのは、二人がいたからだ。今できることは、二人の回復を願うこと、そして、守ってくれた二人へ謝罪ではなく感謝すること。…ルーならわかるね?」
コクリとうなずいた私を、レオ様は優しく抱きしめてくれた。レオ様の肩を、涙で汚してしまった。いつの間に、とめどなく涙があふれていた。
そんな私の様子を、背後で静かに見守っていたのは、やはりボロボロになったライト卿とハルト卿。それに、キティ。
「あなたたちは無事だったのね。よかったわ。怪我は? 痛いところはないのかしら」
レオ様から離れ、グイッと涙を指で拭くと、三人へ駆けよった。
「大丈夫です。ルナリス様こそ、そんなに埃塗れで、ズタボロではありませんか」
ハンカチを出したキティに、顔を拭われてしまった。
「我らは、先日の雪辱を晴らすことが叶いました」
「少々疲れましたが、お守りできて光栄でした」
騎士の礼を取り、晴れやかな笑みを浮かべている。前回攫われたときの汚名返上ということだろう。
「あなたたちの顔を見たら元気が出たわ。ありがとう……ねぇ。ハルト卿とライト卿なら知っているかしら。ディヴァーノはどこなの」




