74.泣いたら斬首、叫んだら斬首
さて、どうしましょう。急に全振りされてしまったけれど。
「我が国の初代様は、丸投げがお好きなのだなぁ」
頭の後ろで手を組み、この状況を面白そうに眺めている帝王陛下の言葉だ。この国の方々は、誰も光に翻弄されたり、傷を負ったりしていない。
(——当り前よね。だって、私を助けた国の人なのだもの)
「人ならざるような気配をお持ちでしたね。私は…少し恐ろしかったです」
鳥肌の立つ腕をさすりながら、帝王妃陛下がおっしゃられた。
「ですが、実際どうするのですか。この状況で誰が軽傷なのかどうかすらも、わかりませんが」
確かに、この状況では阿鼻叫喚すぎる。傷の程度も、先ほど光を失った三人以外の状況はわからない。それに…
(——フェリシーはいったいどんな罰を受けるのかしら)
何事もなく終わるはずがない。なぜ王命に逆らい、登城していないのかも気になる。理由によっては、国家反逆罪で逮捕される可能性もある。まだ、この国の法が機能すれば、の話だけれど。
「どうするもなにも。レオ。ひとまず我々はこの光がいつ収まるのか、ゆっくり見届けるしかなかろう。話はそれからだ」
そう言うと、手近な椅子を引き寄せ、どっかりと座り込み、周囲を囲む騎士たちにも休めの指示を出した。帝王妃陛下は、なんとこの国の王妃の椅子に腰かけ、優雅に振る舞っている。まるで、この国はセレニータ帝国の軍門に下ったとでも言いたげだ。
(——でも、実際この国を治めるには、この三原色の信仰をどうにかしなければ無理だわ。文化の差で内乱になってしまう)
深く考え込む私の隣に、二人掛けのソファを運ばせたレオ様が、座れとばかりに、座面をポンポンと叩いた。
「れ、レオ様」
途端にポッと顔が赤くなってしまい、恥ずかしい。
「疲れているだろう、さ、少し休もう」
こうして、カラーリス公国の貴族たちが、各々罰を受けている中、セレニータ帝国側は、しばしの休息になったのである。
◇
その頃。
チリンチリン
「ちょっと、どうなってるのよ」
何度呼び鈴を鳴らしても誰も来ない。朝早く王宮に集合せよ、との王命が届いて、叩き起こされた。けれど、
「無理無理無理。眠いわ。私一人くらい行かなくても大丈夫よね」
そう判断して、もう一度ふかふかの寝台に飛び込んで、たっぷりとした二度寝に勤しんだ。いつもの時間より十二分に寝坊したけれど、誰も起こしに来なかった。
「もう!洗面のお湯が欲しいのに」
ムカムカしながら、ドアを開け、廊下に顔を出した。いつもなら、廊下の片隅に必ず誰かいるのに、今日はおらずがらんとしている。まるで、家の中に私一人だけが取り残されているみたいに。
寝台に戻って腰かけ、足をプラプラさせてみるも、やはり誰も来ない。
「もう!全員クビにしてやるんだから!」
この私の身支度を手伝わない使用人なんて、いらないわ!ぷりぷりと怒っていると、窓の外を何かが横切った。
「…なに?」
鳥ではない。でも確かに何かが横切った。鳥よりもはるかに大きな、黄金色の生き物だ。
「…んしょっ!あれは何だったのかしら」
自分の手で窓を開けるなんて、いつぶりかしら。キレイに整えた指先が、煤で汚れてしまった。柔らかく真っ白な指に不釣り合いな黒色。
「なんで私がこんなめに!」
着ているネグリジェで乱暴にふき取ると、窓から身を乗り出して、外を眺めてみた。いつもと同じ、ロルモン公爵邸だ。ただいつもと違うのは、誰もいないこと。
「…本当にどうしたのかしら」
先ほどの生き物は、どれだけ探してみても見つからなかった。誰かが来てくれるまで、部屋でおとなしくしていようと、窓を閉め、振り返った。
「あら、貴女ね。こんなところにいたの」
にっこりと微笑んだその人は、黄金の色をたなびかせ、爛々とした瞳で今にも襲い掛かりそうな、野性味のある雰囲気を纏った不思議な美女だった。
「あなたは誰?どこから入ったの?」
後ずさりながら、手に当たった花瓶を握りしめた。
「それはどうでもいいじゃない?さぁ。貴女には、今から罰を受けていただきます。泣いたら斬首、叫んだら斬首、耐えきったら、生かしてあげるわね」
美女は、ぺろりと上唇を舐めた。その舌が、異様に赤く熟して見えた。




