第八話 内乱7
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そんなこんなで、現在待機中です。
私はずっと光探査で敵兵の動きを監視していますけれど。
まあ、光探査はそれほど負担にはなりません。
大まかな敵兵の配置はわかっていますし、人の移動を監視するだけならば細かく見る必要もないので楽です。
それに、この待機状態はあまり長くは続きません。
今回の作戦は基本的に短期決戦です。
私達の侵入がばれて何か対策される前に、でき得る限りの成果をあげておきたいところです。
こちらの動きがばれて対策が取られたら、少数精鋭の私達は数で押されて身動きが取れなくなる恐れもあります。
ここまでは敵に気付かれずに侵入できましたが、この優位は長くは続きません。
最初に通用門の先で倒した私兵は下っ端で、いてもいなくても大して気にする人もいないでしょうが、あまり戻りが遅くなれば用事を言いつけた者が確認しようとするでしょう。
王妃様を懐柔するための買い付けなのだから、あまり放置もできないはずです。
様子見していられる時間は限られているでしょう。
そんな限られた時間内に、私達が動ける「機」は訪れるのでしょうか?
間違いなく訪れます。
ガザニア先輩は、偶然や相手の不手際を期待して待機を指示したのではありません。
ただ待っているように見えて、今も敵を動かすために画策しているのです。
お義兄様達が!
「動きました! 一人、貴賓室のほうに走ってきます!」
この動きは見張りの交代ではありません。何か動きがあったことは間違いないでしょう。
『大変だ、東門から兵隊が入ってきている!』
『何だって、誰も城には入れなかったんじゃねーのか!? それで、上は何て言ってる?』
『敵の数が少ないうちに全力で押し返して門を閉じろ、と。』
『……仕方ねぇ。お前たちは残ってここを見張れ。残りはついて来い! ここで負けたら全員縛り首だ。気合い入れて行け!』
ケールが風魔法で拾った敵兵の声です。
学生時代に見る機会はありませんでしたが、ケールは攻撃以外の魔法も習得していました。
東門は私達が侵入した通用門とは反対側にある門です。
私達と別れたお義兄様率いる一団は王城の各所の門を開けていきましたが、その中の一つ、東門から一部の兵士が派手に突入する計画になっていました。
これは陽動……と言うか囮です。
あえて敵に見つかるように派手に突入し、私兵の戦力でなんとか撃退できそうだと思わせることで敵兵を集め、東門を閉じさせまいと死守する構えを見せることで敵兵を釘付けにする。
そんな作戦です。
作戦は成功したようで、敵兵力の移動が始まりました。
『それにしても、敵はどうやって入ってきたんだろう?』
『夜中にだれか抜け出して色町にでも行ったんじゃないか? それで閉め忘れたんだろう。』
『誰だよ!? チクショー、俺も行きたかった。』
……この内乱、随分とあちこちに穴がありそうです。
たとえ計画は完璧でも、正しく実行できなければ意味がありません。
チンピラ上がりの私兵に頼った時点で失敗は約束されていたようなものです。
まあ、とにかく結構な数の兵士が移動していきました。
「残る敵兵はこの八名、他は十分に離れました。」
国王陛下のいる部屋を中心に貴賓室全体を監視する体制にはなっていますが、ここまで数が減れば一気に制圧することも難しくありません。
「よし、国王陛下を救出するぞ!」
いよいよ戦闘開始です。張り切っていきましょう!
そして、あっという間に戦闘は終了しました。
当然、私達の圧勝です。
必勝の策を講じて、最善のタイミングを見計らって、先制の奇襲攻撃を仕掛けたのです。
これで勝てないはずはありません。
具体的に言うと、まずニゲラ殿下の案内で敵のいる近くの扉の裏側まで行き、扉を開ける前に私が閃光を放って敵兵の目を焼き、あとは視界を失って反撃できない敵を殴り倒していっただけです。
攻撃魔法どころか武器さえも抜いていません。
武器を使わない理由は、流血を避けるためです。
王都の中央に聳え立つ王城は、戦いのための城ではなく、王家の威光をしろ示すためのシンボルです。
国内で最も安全な場所である王城が血に染まるということは、国が亡びるような事態になっていることであり、めちゃくちゃ縁起が悪いのです。
なので、王族や貴族にとって王城内での流血騒ぎは禁忌なのです。
今は非常時なので必要とあらば容赦なく敵を切り捨てるつもりではありますが、可能ならば流血は避けたいところです。
今回はその余裕がありました。最初の閃光で全員ほぼ戦闘不能に追い込めましたから。
攻撃魔法を使わないで済んだことにはまた別の意味があります。
国の重要施設である王城には、当然のような魔法対策も行われています。
つまり、不用意に王城内で魔法を使用すると、防衛システムに検知されることになります。
ただし、あまり些細な魔法まで検知しようとすると大変なことになります。
魔法の検知というのは、魔力の流れを感知しているものであり、人の使う魔法だけでなく魔道具の動作にも反応します。
そして、王城には多種多様な魔道具が存在します。
感度を最高にしてあらゆる魔法を検知すると、だれかが照明を付けただけで反応することになります。
王城のシステムを完全に掌握しているのならば魔法の使用と魔道具の反応を見分けることができるかもしれませんが、王城を占拠したばかりのフリュイテ侯爵達ではそこまでする余裕はないでしょう。
チンピラ上がりの私兵に勝手に魔道具を使わないように徹底することも難しいでしょうし。
普段の王城では、攻撃魔法レベルの魔法でなければ反応しないように設定されているそうです。そうでなければ、ニゲラ殿下が人魂を出す度に警報が鳴ってしまいます。
その設定が変わっていないと踏んで、光探査の魔法を使いまくっていましたが、案の定気付かれた気配はありません。
光探査は、魔力制御はかなり複雑ですが、使用している魔力量はあまり多くありません。純粋に放出する光の量を見ても、照明用の魔道具の方が圧倒的に多いのです。
先ほどの戦闘で使用した閃光も眩しいだけ殺傷能力のない魔法であり、一般的な攻撃魔法に比べて魔力消費も少ないものです。
攻撃魔法を使用せず、この場にいた敵兵を全て無力化したことで、私たちの存在はまだ知られていない可能性が高いです。
つまり、まだまだ奇襲攻撃で暴れられるということです。
……と、その前に。
今回の作戦の最重要ミッションを済ませてしまいましょう。
私たちは国王陛下の囚われている部屋に向かいました。
貴賓室の各部屋の鍵を集めた鍵束は見張っていた私兵が持っていましたが、ニゲラ殿下が途中の部屋から持ち出したマスターキーで鍵を開けます。
王城の下働きの仕事の中には貴賓室の清掃等も含まれるので、マスターキーが置かれていることは理解できますが、何故に王子が置き場所を知っているのですか!?
「陛下、お迎えに上がりました。」
ガザニア先輩が臣下の礼をとるので、慌てて私も倣います。
非常時なのでさすがに略式ですが、陛下をこの国の国王として認め、フリュイテ侯爵率いるなんちゃら解放軍の主張を認めないという一種のパフォーマンスです。
国王陛下としての公式な立場を示すためのものなので、ニゲラ殿下も一緒に臣下の礼をとります。
他に見ている人もいないこの場でやる必要があるのか疑問ですが、貴族とはそういうものとしか言いようがありません。
「うむ、大儀であった。楽にせよ。」
国王陛下もそのあたりのことはちゃんと分っていて、一言付き合って即座に終わらせます。
ここで偉ぶって堅苦しいやり取りを続けられても困ります。
敵方に私たちの行動が知られることを防いだので多少時間に余裕はありますが、いつまでも手間のかかるやり取りを続けていられるような暇はありません。
何より面倒です。
この国の王様が常識を持った方で本当に良かったです。
「それで、お前たちが来たということはいよいよ反撃が始まるのだろう。腕が鳴るわ。」
……ちょっと待ってください。なんで国王陛下自ら戦う気満々なんですか!?
この国の王族は親子そろってどうしてこう好戦的なんですか?
常識的な王様はどこに?
誰か、誰か突っ込んでくださーい!
「陛下、今の私たちの役目は、陛下の無事な姿を外で心配している者たちに示して安心させることですよ。」
突っ込み、入りました。
突っ込んでいただいたのは、私達ではなく、陛下と同室に閉じ込められていたもう一人の人物でした。
私はこの人を見たことがあります。
国王陛下に拝謁した際に、陛下のそばに控えていた人物です。
近衛騎士団団長、シダー・ベスビアス。
ローレルの父親です。
国王陛下の護衛は大体この人が行っているそうです。
「我々の手で反乱を平定しても別に構わんだろう?」
「そこは若者に手柄を譲るべきでしょう。それに、陛下が人質になっていると思われるだけで敵は勢い付き、外の味方は躊躇します。」
「だが……」
「敵は王妃陛下を引き込んだそうです。陛下が出ていくと話がこじれますよ。」
「うっ……」
「今は一刻も早く人質状態から解放されて、反乱の大義名分を否定する声明を出すことが事態を収拾する近道です。」
「……仕方あるまい。今回はおとなしく脱出するか。」
国王陛下が折れました。素晴らしい突込み力です。
多分、ニゲラ殿下に対してこの立場になることを期待してローレルを付けたのでしょう。
ニゲラ殿下に突っ込むローレルの姿を想像することは難しいですが。
「ニゲラ、メイ=フライのこと、頼んだぞ。」
「……はい。お任せください。」
国王陛下はニゲラ殿下に向かってそう言いました。
メイ=フライ、つまり王妃様の処遇はニゲラ殿下に一任されました。
「ついでだ、ここに囚われている者たちもまとめて連れ出そう。お前たちはこのまま先に行くがよい。」
国王陛下はニゲラ殿下からマスターキーを受け取ると、貴賓室の扉を片端から開け始めました。
……あれ?
私たちは国王陛下の護衛をして一度外に出る手はずではありませんでしたか?
なんだかそのまま敵を制圧しに向かう流れになっているんですが。
「彼奴らの首魁は日中は謁見の間にいてそこで会議をしたり指示を出しているそうだ。急いで行けば一網打尽にできるぞ。」
貴重な情報ありがとうございます。
でも、陛下が救出されて、王城の出入り口も確保した状態ならば、国軍でも騎士団でも投入すれば簡単に制圧できる気がするのですが。
わざわざ私達(主にニゲラ殿下)が危険を冒して戦う必要があるのでしょうか?
そのあたりどうなのでしょう、ガザニア先輩。
ガザニア先輩の方を伺うと、先輩は一つ頷いて言いました。
「よし。この場は陛下に任せて、我々は謁見の間に向かう!」
行くのですか。
行っちゃうのですか。
確かに事前の計画の中にもそのまま主犯格を叩くパターンがありましたが、本当にやっちゃいますか。
決まってしまったのならば、仕方がありません。
さっさと行ってさっさと終わらせましょう。
貴賓室から謁見の間までの道順は非常に簡単です。
大きな通路を通っていけば迷うことはありません。
王城に来る貴賓の目的の多くは国王陛下に謁見することだったりするので、分かり易くできています。
もちろん、分かり易くて見通しの良い通路には見張りがいるはずです。
東門の戦闘に多くの戦力を割いているとしても、護衛のための私兵くらいは残しているでしょう。
強行突破も可能でしょうが、わざわざ無駄な戦闘をすることもないので、回避していきます。
王城の下働きの仕事には、謁見の間の清掃等も含まれています。細く入り組んだ通路を通れば会敵の心配もほぼ無いままに直行可能です。
ゲームの皆殺しルートのイベントでは、謁見の間に陣取る敵は王城を熟知するニゲラ王子であり、作業用の通路にも対策してあるだろうと考えて、途中からあえて大きな通路に出て正面突破しています。
けれども、今回の敵は王城に詳しくない者ばかりです。
唯一王城暮らしが長いのが王妃様ですが、幽閉されていましたし、どこまで敵方に協力しているかも不明です。
場内で下働きしている者に聞けばある程度はわかるでしょうが、王城勤めの者が城を不法占拠した侵入者に積極的に協力するとは考えにくいです。
実際に、何の問題も妨害もなく謁見の間に到着しました。
突然現れた私たちに驚いているうちに、ニゲラ殿下が謁見の間正面の大きな扉を操作して封鎖してしまいました。
これで、外にいる私兵は簡単には謁見の間に入ってこれません。
改めて室内を見ると……
私兵が四名。
主犯グループとなる貴族たちが――顔を見ても誰が誰だかわかりませんが――人数を数えると、全員そろっているようです。
私兵と貴族の見分けは簡単です。
チンピラ上がりの私兵と生まれついての貴族では顔つきから違います。
そして何より、着ている服が違います。
貴族の着る衣装にはルールがあります。TPOで変わる着こなしや、職務上の制服などを着る場合もありますが、一人の貴族として行動する場合は家格を示す印を衣装の特定の場所に示すことになります。
敵方の貴族の中で持っても家格が高いのはフリュイテ侯爵だから……いました、あれがフリュイテ侯爵ですか。
貴族家当主としてはずいぶんと若い感じです。
他の貴族も同じくらい若い者たちです。
同年代で家格が上のフリュイテ侯爵が彼らのリーダーであることは間違いないでしょう。
一方、私兵の方は全員同じデザインの軍服を着ています。
国軍の軍服ともデザインが違いますから、この日のために作ったのでしょう。
一応なんちゃら解放軍を名乗っているので形だけでも軍服を着せた……というより、同じ制服を着せないと敵と味方の見分けがつかなくなるのでしょう。
所詮はチンピラ上がりの寄せ集めです。仲間意識も薄いので、敵味方をわかりやすく区別できないと同士討ちする恐れがあります。
さて、服装を見ればおおよその身分や立場のわかる身分社会のこの国において、そのルールから外れた装いの人物が一人この場にいます。
異国の衣装――和風……いえ、古代中国風でしょうか――を身に纏い、悠然と玉座に座る女性。
メイ=フライ・フラワーガーデン。
該当する人物はほかには考えられません。
あれが、王妃様です。
・シダー(杉)
誕生日:1月21日
花言葉:雄大
強そうな花言葉を探すと、花よりも木になります。




