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花咲く王国で恋をしない ~乙女ゲームの世界のヒロインに転生した元男ですが、何をすればよい?~  作者: 水無月 黒
終章 卒業後編

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第七話 内乱6

・2026年3月15日 誤字修正

 誤字報告ありがとうございました。


ブックマーク登録およびリアクションありがとうございました。

 お義兄様達と別れ、私達は王城の中を進んでいます。

 私達のチームは、ガザニア先輩、ニゲラ殿下、ローレル、ケール、アスター先生、私の六名。

 見事にいつものメンバーです。

 お義兄様とその配下の人達は基本的に裏方の部隊なのだそうで、王城の外側に近い辺りを回って門を開いてこちら側の兵力を引き込むことが主な任務になります。

 途中で捕らわれている人がいれば解放していく予定ですが、重要な人物を目の届かない城の端の方に監禁しておくとは思えません。

 一方、私達は城の中央に向かいます。

 貴人を軟禁するために相応しい部屋は王城の奥まったところにあります。

 何かあった時に人質として利用するため、あるいはその人質がおかしな動きをしないように監視するため、重要人物ほど目の届きやすい場所に置きたいはずです。

 お義兄様が捕まえた私兵(チンピラ)を尋問して得た情報によると、やはり敵方は王城を占拠するので手いっぱいのようです。

 集めた私兵は所詮はチンピラです。戦力にはなっても、占拠した王城を管理するという点ではあまり役に立ちません。

 兵力だけで城を維持することはできません。

 例えば、食材の備蓄があっても、保管庫から取り出して調理しなければ料理は出てきません。

 チンピラの中にも家庭料理程度ならできる者もいるとしても、王侯貴族向けの高級食材は手に余るでしょう。

 それに、食糧庫の管理を私兵(チンピラ)にやらせたら、必ず宴会が始まります。

 忠誠心も規律もない私兵(チンピラ)が自由に酒蔵に出入りできるようになったら、酒をくすねるに決まっています。

 別の私兵(チンピラ)がその様子を見ていたら、咎めるよりも自分にも分け前をよこせと言うでしょう。

 結局、仕事をさぼって宴会を始める一団が出来上がるのは目に見えています。

 他にも私兵(チンピラ)には任せられない仕事は山ほどあります。

 だから、王城を占拠した後も、それ以前から王城で働いていた人がそのまま仕事を続けています。

 ですが、王城で働く者は基本的に貴族です。

 貴族は国と国王陛下に忠誠を誓います。建前に過ぎないとしても、それは貴族の義務です。

 フリュイテ侯爵等は「解放軍」を名乗って王家を害する気はないことをアピールしていますが、やっていることは暴力的に国王陛下を拘束し、王城で行われる国政を妨害しています。

 この国の貴族としては、内乱(クーデター)に抵抗しなければなりません。

 さすがに王城を占拠した武装集団相手に考えなしの真っ向勝負を仕掛けることはないでしょうが、機会があればこっそりと小細工を仕掛けてくる恐れはあります。

 それに、王城を警備していた兵士達は策略で締め出しましたが、武芸の心得のある貴族はそれなりにいます。

 彼らが結託して抵抗すれば、数を集めただけの私兵では苦戦するでしょう。

 そこで、王城に残る貴族たちが結束しないようにしています。

 まず、国王陛下を筆頭に位の高い貴族を軟禁して王城内の貴族に対しての人質としました。

 王城で働いている人にとっては上司が人質に取られているので、迂闊なまねはできません。

 互いに連絡を取り合えないように、人質扱いの要人は少人数ずつに分けて部屋に閉じ込め、周囲を私兵で固めました。

 実作業を行っている下っ端は、そこまで丁寧に隔離しませんでしたが、王城内の仕事をやらせる際には監視が付きました。

 そうした諸々に手を取られるので、数を連れてきたはずの私兵にあまり余裕はないようです。

 結果として、王城内を巡回警備するようなことは行われていません。

 外部からの侵入者は王城の防御魔法に任せて、内部の人間を監視することに人手を割いているようです。

 だから、一度侵入してしまえば見つからずに動き回ることは難しくありません。

 事前の予想の通りです。

 ですが、国王陛下をはじめとする要人の周辺は私兵で固められています。

 私兵と侮って無策で突っ込むのは少々危険です。

 外部からの侵入を想定していなくても、王城内部からの逆襲は警戒しているでしょう。

 少数精鋭の襲撃に対して、次々と増援を呼んで数で圧倒するとか、人質で対抗するとか、対策を講じている可能性は高いです。

 まあ、それも想定の範囲内ではありますが。


「左側二つ先の通路から誰か来ます。数は三、おそらく敵です。」


 私は、光探査(スキャン)の結果を報告します。

 ダンジョンで鍛えまくった私の光探査(スキャン)は、今では移動しながらでも使用できるようになりました。

 私がいつものメンバーに交じって王城内の攻略を行っている理由は、回復要員としてよりも索敵要員としての活躍が期待されての事でした。

 一応、王城内に入ってしまうと収束陽光撃(ソル)が使えなくなる可能性を指摘しておきましたが、失敗した時の保険として王城の防御魔法をぶち破る手段を残しておくよりも、ガザニア先輩はこの一回の作戦を確実に成功させることを選んだようです。

 実際、王城の中から収束陽光撃(ソル)を放つことは無理そうです。

 王城の外からも試してみたのですが、光探査(スキャン)の探査光や光操作(ライトオペレーション)の魔法は防御魔法を越えられませんでした。

 逆に王城の中に入ってから外部に向けて同じことを試してみましたが、やはり防御魔法の部分で止まってしまいます。

 収束陽光撃(ソル)光操作(ライトオペレーション)によって広範囲の太陽光を集めているだけの魔法なので、光操作(ライトオペレーション)を外部に及ぼすことができなければ使えません。

……マキシマムレーザーならば王城の防御魔法も破れるかもしれませんが、試す機会は無さそうです。


「こっちだ。」


 そう言って、ニゲラ殿下が皆を連れてきたのはただの廊下の壁――に見えた場所が開いて通路が伸びていました。

 王城の内部はかなり複雑です。

 王城内にある行政機関の窓口に行くとか、国王陛下に謁見するとか、決まった目的で王城に入る分には迷うような事はありません。

 ですが、王城には来客用の通路の他に、官僚や役人用の通路、下働きの人用の通路など、王城内で働く人向けの通路もたくさんあります。

 そうした内部向けの通路は、外部から王城を訪ねる者には馴染みが無く分かり難いものです。

 さらに、身分や役職によって使用する通路、部屋、施設などが変わるので、全てを把握している人はほとんどいないでしょう。

 王城で役職を持たないフリュイテ侯爵や王都の外からやってきた私兵では、来賓用の大きくてわかりやすい通路しか分からないはずです。

 フリュイテ侯爵と行動を共にする貴族の中には王城で働いていた者もいるでしょうが、彼等が知っているのは王城の極一部です。

 王城を細部にわたって調べ上げる時間もないだろうから、城内の敵私兵は来賓向けの大きな通路を主に使用しているはずです。

 だから、大きな通路を避けて、細くて目立たない通路を進むことはとても理にかなっています。

 これならば、ギリギリまで敵に見つかることなく、国王陛下の囚われていそうな部屋まで近付くことができます。

 ただ、ここは王族が使うような通路とは思えません。

 日常的に使われているような形跡があるので、非常用の隠し通路の類ではなく、下働きの人が使っている通路なのでしょう。

 王城は王族にとっての自宅とは言え、よく知っていましたね。

 細い通路は、大きな通路を避けて作られているので結構入り組んでいます。

 光探査(スキャン)で調べていますが、分かれ道も多くあります。

 入口の扉の場所だけでなく、何処を通れば何処に通じているのかを知らなければ迷ってしまいますが、ニゲラ殿下は躊躇なく進んで行きます。


「懐かしいな。子供の頃は、よく息抜きに王城の探索を行ったものだ。」


 どんな子供時代ですか?

……あれ? 何だかこの台詞に既視感が……

 あ、思い出しました。ゲームの中の台詞です。

 皆殺しルートでは最後に国王を殺して王位を簒奪したニゲラ王子を、アイビー王子を筆頭とする一団が討伐に向かいます。

 その際、新王を名乗るニゲラ王子を急襲するために、少数精鋭で王城に潜入して戦闘を避けながら玉座に向かいます。

 王城のマップ内を敵兵を避けながら進む途中で、アイビー王子が似たような台詞を言うのです。

 そのゲームのアイビー王子と同じような台詞をニゲラ殿下が言っています。実は似たような兄弟ですね。

 考えてみると、今の状況は皆殺しルートのイベントによく似ています。

……皆殺しにされるメンバーが全員そろって襲撃側としてここにいますけど。

 ゲームではお義兄様バジル・チャールストンはアイビー王子とは別行動で陽動や攪乱を行っている点も同様です。

 このままゲームと同じ展開で反攻が成功する、などと甘く考えるべきではありませんが、戦って負ける気がしません。

 ただ、当然ながらゲームと異なる部分もあります。

 攻略される側が攻略しているという点は置いておくとして、国王陛下が存命だということです。

 フリュイテ侯爵では王位に就けませんし、自分達の擁立した王でもせめて現国王陛下から譲位されたという形にしなければ他の貴族たちも認めないでしょう。

 人質としての意味も含めて、ギリギリまでは国王陛下を害そうとはしないはずです。

 私達の目的は、敵の首魁を倒すことよりも、国王陛下を無事救出することの方が優先順位は上になります。

 だから、戦闘を仕掛ける時には慎重を期す必要があります。

 少数精鋭の私達が数で押し切られる危険の他に、十分に勝てる相手でも手間取ると国王陛下を人質として利用される恐れがあります。

 そのため、私達は今、国王陛下が捕らわれているだろうと当りを付けた場所の手前に留まって様子を窺っています。

 その場所は、王城に招いた貴賓が宿泊するために使用される貴賓室のある一角。潜入前から目を付けていた場所の一つです。

 私兵の下っ端は直接知らされてはいませんでしたが、特に厳重に警備するように言われていた場所だそうです。

 実際、光探査(スキャン)で調べてみると結構な数の私兵がいます。

 二人ずつ組になって、互いの状況が確認できるように配置されていて、どこかの一組を倒してもすぐに別の私兵に見つかって次々と私兵がやって来ることになります。

 気付かれないようにこっそり一組ずつ倒していくというのは無理そうです。

 複数ある貴賓室のどこに国王陛下がいるのか分からないまま闇雲に突撃すると、戦っている間に剣を突き付けられた陛下が登場することになりかねません。

 なので、光探査(スキャン)を駆使して国王陛下の居場所を探っているところです。

 ですが、これがなかなかに難しいのです。

 貴賓室は扉がしっかりと閉じられています。光探査(スキャン)の探査光を送り込む隙間を見つけるところから始めなければなりません。

 下働き用の通路から大きな通路に出るところまでは問題ありません。

 作業を行っている者がいきなり出てきて来客を驚かせたりしないように、目の高さくらいの位置に小さな覗き穴があって扉の向こう側を確認できるようになっています。

 その程度の穴があれば十分に探査光を通すことができるので、貴賓室周辺の通路の光探査(スキャン)は問題ありません。

 けれども、さすがに貴賓室の中を覗き込むような穴はありません。

 なので、扉の上やら下やらの隙間から中に探査光を通せないか試しているのですが、なかなかうまく通らなくて……

 あ、鍵穴から光を通すことができました。これで室内の光探査(スキャン)が行えます。

 来賓向けの部屋だけあって、扉の向こうには複数の部屋がありますが、通路に面した扉ほどぴったり隙間ない作りではないのでどうにかなります。


「こちらの部屋に二名、こちらは三名……」


 用意してきた貴賓室の見取り図に、室内にいる人数を書き込んで行きます。


「それで、陛下がどの部屋にいらっしゃるか、分かるか?」

「……少々、お待ちください。」


 ガザニア先輩の質問には簡単に答えられません。

 ここが一番難しいところです。

 光探査(スキャン)ではおおよその形しか分かりません。

 人であることは判るのですが、その人物が誰なのかという所までは判別は困難です。

 一応、収束陽光撃(ソル)の件で国王陛下に拝謁したので、顔を見れば判ります。

 けれども、光探査(スキャン)で分かるのは三次元データです。それを頭の中で組み立てているのです。

 ダンジョンで頑張って練習しまくったので、三次元データから地形を把握することには慣れましたが、人の顔を想像するのはさすがに無理です。

 残る手段は、光を曲げて遠くの光景を見る方法ですが、途中の経路が細すぎるので簡単にはいきません。

 光を細く絞り込んで複雑経路を通し、手元まで引き寄せてから元の画像に戻さなければなりません。

 少しでも制御を誤れば画像がぼやけて見えなくなる繊細な作業です。

 さらに、光を細く絞り込む都合上、あまり広く視野をとれません。やればできるのでしょうが、制御がより難しくなります。

 なので、漠然と部屋の中の光景を映すのではなく、しっかりと対象を狙って映像を撮ってくる必要があります。

 そのために、先に光探査(スキャン)を行いました。

 人のいるあたりに狙いをつけて、ピントを合わせて、位置を調整して……見えました!

……ええと、どちら様でしょう?

 この国の要人とはいえ、全ての人の顔を知っているわけではありません。

 私は貴族としては下っ端です。

 貴族としての一般常識として、国の要人や大貴族の名前は一通り習いましたが、顔を合わせる機会は皆無でした。

 まあ、国王陛下でないことは確かなので、「はずれ」として次に行きます。

 これを一人一人全員に対して行わなければならないのでものすごく手間がかかります。

 もしかすると、国王陛下は特別扱いでどこか別の場所――王妃様を幽閉していた場所のような所――に閉じ込められているかもしれません。

 ですが、ここにいないことを示すためには、ここにいる全員をもれなく調べる必要があります。

 漏れている可能性があれば最初からやり直しになるので、ここは地道に丁寧に虱潰しに調べていきます。

 すごく神経使うんですよ、これ……あ!


「見つけました、国王陛下です!」


 私は映像を他の人にも見えるように大きく映し出しました。

 多少ぼやけていますが、国王陛下の姿が判別できます。


「場所はどこだ!?」

「この部屋です。」


 ガザニア先輩の問いに、見取り図に丸を付けて答えます。


「さすがに厳重だな。」


 国王陛下のいる部屋は、貴賓室のある一角の中でも中央付近、周囲を固める私兵の守りの一番厚いところになります。

 本来は陛下が逃げ出すことを防ぐための布陣なのでしょうが、外から救出に向かう場合にも障害となります。

 このままでは、私兵に気付かれずに国王陛下と合流することは無理ですし、敵が増援を呼んだり人質を盾にする前に陛下を保護することも困難でしょう。

 強力な光を浴びせて目眩ましを仕掛けても、全員を確実に無力化することは困難です。

 さて、どうしますか、ガザニア先輩?


「しばらくこの場に待機して、機を待つ。」


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