第六話 内乱5
・2026年3月8日 誤字修正
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翌日の朝早く、私達は行動を開始しました。
昨日の会議はもめました。
ニゲラ殿下もアイビー殿下も一歩も引かず、夕方になって時間切れで結論はガザニア先輩預かりになりました。
そこは夜を徹しての議論ではないか、と思ってしまうのは前世に毒され過ぎています。
決行が翌日の朝と決まっているのだから、前日はしっかりと休息をとって万全の体調で望むべきです。
決着がつかないであろう議論を続けて夜更かしする意味はありません。
ガザニア先輩の考えた作戦は、ある意味折衷案です。
ただし、どっちつかずの中途半端な作戦ではありません。
リスクを最小限に抑え、駄目そうだったら何もせずに引き返す。行けそうならば、そのまま決着をつけるつもりでとことん攻める。
両極端を組み合わせた作戦です。
荷物を積んだイントリーグ家の荷馬車が王城の通用門に到着しました。
この通用門は荷物専用なのだそうで、人の出入りする門は別にあります。
身分や立場によって使い分ける人間用の幾つかの門や、王城の他の施設とは少し離れた場所にあります。
そのため、この通用門は普段からあまり人気が無く、王城に出入りする人の中でも一部にしか知られていないそうです。
王城に出入りするところを人に見られないことは、王城を占拠している者達にとってはメリットです。
外部から必要なものを入手できるならば籠城生活は楽になり、城内に搬入していることがばれなければ妨害されることもありません。
ただ、それでも迂闊な行為であることは間違いありません。
イントリーグ家は王家御用達の商家であると同時に、多くの貴族家に対して繋がりと影響力を持つ有力貴族でもあります。
味方になったと確信したわけでもないイントリーグ家の者を城内に入れれば、最低でもそこで知られた情報が他の貴族に渡ることを覚悟しなければなりません。
実際、王城に物を搬入する情報が速攻でバレましたからね。
イントリーグ家がただの商人ではなく、多くの貴族家とつながりのある有力貴族であることは、王都で暮らす貴族にとっては常識です。
地方からあまり出てこない下級貴族ならばともかく、フリュイテ侯爵が知らないはずはありません。
つまり、今回の物資の搬入をフリュイテ侯爵達は把握していない可能性があります。
王妃様が色々と要求する内容を下っ端に押し付けたのだとすれば、こちらの予想以上の大きな隙となります。
荷馬車から通用門に向けて声をかけると、話は通っていたのでしょう、あっさりと門が開きました。
どうやら、門の部分だけ防御魔法の効果をオフにできるようです。
荷馬車はあっさりと門の中に入って行きました。
防御魔法が展開されている場所は、王城のギリギリ外側であることは確認済みです。
王城のどこの門であれ、中に入ったならばそこは防御魔法の内側です。
荷馬車が完全に中に入ると、再び門は閉ざされました。
同時に防御魔法もオンになったのでしょう。防御魔法は直接破目に見えませんが、魔力の流れが変わったことを感じました。
私達は今、通用門を外から見ています。
荷馬車と共に王城に潜入したのは、イントリーグ家の者としてケールが同行した他は、お義兄様とその配下の特殊部隊です。
彼等の目的は、通用門から入った後、そのまま王城内に侵入して行けるかの確認です。
無理そうだと判断したら、普通に荷下ろしを行ってそのまま引き返します。
ですが、行けそうだと判断したら、その場を制圧して再び通用門を明け、外で待機している私達も突入する手はずになっています。
再び通用門が開いて、私達に合図があれば、制圧完了。そのまま城内に潜入します。
再び通用門が開いて、空になった荷馬車が出てきたら、作戦は中止。一度引き上げて次の作戦を考えます。
そして、いくら待っても通用門が開かなかったら、作戦は失敗。ケールとお義兄様とその配下の数名が犠牲となります。
ガザニア先輩が考えた折衷案は、最初の見極めの部分です。
行けると思ったら徹底的に、駄目だと判断したら何もせずに引き返す。
もしも見極めに失敗しても、犠牲になるのは王族以外。
ケールもお義兄様も犠牲にするには惜しい人物ですが、ニゲラ殿下やアイビー殿下が向こうの手に落ちることに比べたらまだましです。
まあ、お義兄様がそうそう失敗するとは思いませんが。
待つことしばし。
通用門が再び開きました。
正体がばれて捕まった殺されたりする最悪のケースは避けられたようです。
門から出てきたのは……荷馬車と一緒に入ったお義兄様の部下の一人です。
そして、制圧完了の合図を送ってきました。作戦成功です。
私は、ガザニア先輩が頷くのを確認して、光学迷彩を解除しました。
そう、光学迷彩です。
私は光魔法を駆使して、光学迷彩を実現したのです。
ただし、完全とは言い難い出来です。
まず、動くとばれます。
迷彩を施す範囲は調整できるので、その範囲内ならば動いても外からは見えません。
ですが、迷彩の範囲を動かそうとすると、どうしてもその背後の光景がぐにゃりと歪んで何かあることがばれます。
迷彩の範囲を広めにしておけばその範囲内では好きに動けますが、相手がその範囲内に入ってきたら丸見えになってしまいます。
結局、一か所にじっと隠れているような場合にしか使えません。
身を隠すための使い方をするにしても、相手に侵入される危険を考えれば、透明になるよりも壁か何かに偽装したほうが良いかもしれません。
そんな感じで非常に使い勝手の悪い魔法だったのですが、今回は役に立ちました。
相手は王城に籠ったまま出てこないので、接近されてばれる心配はありません。
門の外を常時監視している気配もないので、早めに来て光学迷彩領域を展開しておけば、城内からは見えない隠れ場所が通用門のすぐそばに出来上がります。
そして、光学迷彩を解除すれば、何もなかったところから突然人が現れる演出ができるのです。
今回現れたのは、作戦総指揮のガザニア先輩以下、ニゲラ殿下、ローレル、アスター先生と、先行したケールを除くいつものメンバー。
それから、荷馬車に同行しなかったお義兄様配下の特殊部隊十数名。
結構な大所帯です。光学迷彩の範囲は広めにしておきましたけど、ちょっと人口密度高めでした。
それはともかくとして、お義兄様の部下が結構多くて驚きました。しかも、部下の方々に慕われているようなので今回限りの臨時の人手というわけでもなさそうです。
職場で随分と出世したというか頼られているようですが、ちゃんとチャールストン領に戻ってこられるのでしょうか?
お義兄様は適当なところで仕事を辞めてチャールストン伯爵領の領主を継がなければいけないのですけど。
通用門前で待機していた全員でぞろぞろと門の中に入ります。お兄様の部下の一人がこちらの成功を伝えに向かいましたが、残り全員です。
ここから先は速攻です。相手に城内に侵入されたことを知られる前に可能な限り目的を達することが求められます。
通用門のすぐ近くで待ち構えていたのも、門が開いたら素早く中に入るためです。
ただ、門の前であからさまに待ち構えている集団がいたら、荷馬車が来ても門を開けてくれない可能性が高かったので、私の光学迷彩で隠れていました。
門の中に入った後は、手分けをしてそれぞれの行動に移ります。
まず、他の門も開けてこちらの戦力を追加で城内に引き込むこと。
王城には、荷物用の通用門の他にも普段はあまり使われない目立たない門が存在し、そちらに今動ける騎士や兵士を集めています。
彼等が突入すれば、チンピラ上がりの私兵を蹴散らしてくれるでしょう。
この作業は、通用門の防御魔法を解除して門を開く手順を確認したお義兄様配下の特殊部隊が担当します。
次に、王城内に囚われている要人、特に国王陛下を見つけ出して安全を確保すること。
囚われていそうな場所は何ヵ所かあたりを付けていますが、できるだけ早急に見つけ出して安全な場所に避難してもらう必要があります。
ニゲラ殿下がこちらに加わっている理由は、王城の内部構造に詳しいからです。王族にとっては自分の家ですからね。
王城内を敵よりも詳しく知り尽しているからこそ、殿下を潜入組に組み込んだのです。
ちなみに、もう一人の王子であるアイビー殿下は王城の正面に回って交渉を呼びかけています。
まあ、呼びかけても応じるとは限りませんが無視はできないでしょう。これは陽動です。
そして、最後に敵戦力の撃破。
なんだかんだ言っても相手は少人数です。
「フラワーガーデン王国解放軍」などと大仰な名を名乗っていますが、結局は小物貴族が金で雇った私兵を引き連れているだけです。
おそらくは、王城を制圧するだけで手一杯のはずです。
その手勢を削って行けば、彼等は何もできなくなるでしょう。
状況が許せば、首魁となるフリュイテ侯爵達を倒して事件を終わらせるところまでガザニア先輩は考えています。
いきなり決着まで持って行くのは高望みでしょうが、相手のミスは最大限利用する方針です。
最初から鉄壁の守りに穴を開けてしまうような致命的なミスをしている相手です。
相手のミスをこちらが見逃してなかったことにしてしまうのは、あまりに情けありません。
さて、これらの目的の内で、最優先となるのは要人の安全確保です。
内乱の失敗はほぼ確定している現状、被害を最低限に抑えることが私達の勝利条件になります。
特に、国王陛下を殺されてしまったら負けです。
逆に言えば、国王陛下さえ救出できれば最低限の勝利となります。
極端な話、国王陛下を救出した後に押し返されて、敵戦力を削れないまま再び王城の防御魔法で籠城されたとしても、もう負けることはありません。
王城を外からも封鎖して物と情報の出入りをシャットダウンしてしまえば、たぶんそれだけで自滅します。
食糧に余裕があっても、王城に閉じ込められたまま終りの見えない状況で何時まで精神が耐えられるでしょうか?
金で雇った私兵には忠誠心はありません。敗色濃厚になれば逃げ出そうとするでしょう。
フリュイテ侯爵に同調した貴族たちも、失敗すれば処刑は免れないことを理解しているはずです。フリュイテ侯爵の首を手土産に助命を願うと言った裏切り行為が行われるかもしれません。
ただ、自滅の混乱で王城内が荒らされたり、王城に残された人達が害されたりする恐れがあります。
王城に務める者は重要な仕事を任された有能な人が多いのです。国王陛下ほどではないにせよ、犠牲が出れば国の損失です。
それに、王城の占拠が長引けば内政に支障が出るし、他国からも侮られます。
ここで敵方に大きなダメージを与えて、なるべく早く終わらせるべきでしょう。
先行して通用門の内側を制圧し、下っ端の私兵を取り押さえたお義兄様と情報交換を行います。
そして、この後の作戦行動を簡単に確認して、それぞれの行動に移ります。
さあ、反撃開始です。




